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第57話 封印



「さて、二回目行くか。広、分身よろしく」

「だからあれは、分身じゃなくて……」

「あ、残像だっけ?」

「それも違う。強いて言えば、目の錯覚」

「目の錯覚?」

「周囲の光景と湿度、外灯の光の角度から読み取って……」

「あ、ちょっと待って。え? そんな難しいこと計算してんの?」

「だから言っただろ。かなり気を張ってると。……織斗、封印できるか?」


 ちらりと、広が織斗を見遣る。

 目が合うと同時、織斗は深く頷いた。


「あぁ、俺がやる」

「…… 鏡遼馬、小学五年生。母親は五歳の時に他界、祖父母及び父親は京都本家に居て家憲に厳格過ぎるところがあるが、遼馬自身は母親を失ってそこまで気が回らないように見えた。故に、東京分家で預かる事を本家の父に懇願した。身長は百三十八、体重は二十九と細身の……」

「え? 待って、え? なに?」

「あいつの個人情報だ」

「いや、それは……さっき、あやめから聞いた……ていうか何で?」

「俺に憧れていると、そう聞いていた。当主様のように強く、格好良くなりたいと」

「いや、うん……え? だから、なに? 自慢?」

「俺が封印したら何のために術力手に入れたんだって……後悔が酷くなる。神木の当主を倒す、戦いたいって、俺を刺してまでその力を手に入れたのに」


 じっと遼馬を見つめる広の瞳が、微かに揺れた。

 その表情を読み取り、織斗も遼馬へと向き直る。


「そうか、よかった」


 トランプケースに手をかけた織斗が、一歩前に歩み出る。


「俺も広と同じこと考えてた。やっぱあれだな、俺ら、神木とか緋末とかいう前に幼なじみ、同じ場所で同じ時間を過ごしてきた親友なんだな」

 

 笑みを見せた織斗が遼馬に向き直り、地面を蹴って飛び出す。

 それに追随するように、広が遼馬へトランプを投げつけた。


「今回だけは、お前に任せる」

「りょーかいっ! 広が俺のサポートするってめっちゃ気分いいっ!」

「ふざけてる場合じゃないでしょ、ちゃんと戦って!」


 姫未の声にやはり、織斗は愉快そうに笑った。


「解印」


 広の声とともに遼馬の周りに並ぶ織斗の影。先ほどと同様、織斗は影の合間を縫って遼馬に近づくが、やはり押し返される。


「広! さっきより数多くないか? 三回目が本番だから、無理しなくていいぞ!」

「気にするな。俺のことはいいから、お前たちのやりたいようにやれ」

「……お前たち、ね」


 織斗はちらっと広を見て、自分の影へと目線を戻した。

 影の背後にチラチラと瞬く光。

 遼馬はそれに気づいていないのか、ひたすら織斗に風をぶつける。


「大丈夫だ、いける……」


 ぽそっと呟き、織斗は地面を蹴って後ろに飛んだ。

 しかしその瞬間、遼馬の足元からひゅっと細い尻尾が伸びて織斗の足を掴んだ。


「えっ、あれ?」


 足を取られ、ビッターンとうつ伏せで地面に倒れ込む織斗。


「なにやってる、織斗! 俺が斬る、手を出すな!」


 園内に響き渡る大声で叫んだ広が、日本刀で細い尻尾を切り落とす。

 先端を落とされた尻尾はしゅるしゅると、地面を這って遼馬の身体に戻って行った。


「ありがとう、広。助かった……ていうか、もしかして、俺らの作戦に気付いてる?」

「当たり前だ。分かりやすいからな、おまえら双子は」

「うへぇー、すげぇ。さすが広、頭いいなぁ」

「頭の良し悪しは関係ないだろ。で、次が三回目……本番行くか?」


 広の言葉に、織斗は笑みを浮かべて頷く。


「二度は通用しないと思う。だから次が唯一の、一度きりのチャンスだ」

「だろうな。そもそも一度目すら、通用するかわからないけどな」

「大丈夫、咲がついてるし今回は広も味方だ。だから絶対、大丈夫」

「……絶対大丈夫、か」


 じっと遼馬を見つめる織斗を一瞥する広だが、すぐに正面に視線を戻した。

 しゅるしゅると、遼馬の周囲に尻尾の這いずる音が響く。

 尻尾が遼馬の身体に取り込まれたことを確認し、二人同時にトランプケースに手をかけた。


「次が最後だ、織斗。全力でいけ、俺もそうする」

「全力って……もし失敗したら?」

「失敗は許さない」

「横暴だな! そりゃ、緋末家の雰囲気も悪くなるわけだ!」

「今そんなこと関係ない。それに、失敗しないだろ? 織斗は」

「どういう意味?」

「お前が『絶対大丈夫』って宣言した時は失敗しない。体育祭も受験の時も、大抵のことはそうだった。だから今回も大丈夫、胸張って行ってこい」

「……信頼されてるな、俺」


 ケラケラっと笑った織斗が、足を踏み出した。

 それと同時、遼馬の身体から細い尻尾が無数に飛び出す。


「解印」


 広の声に反応して、青い緋末のトランプが変化する。それを見てから、織斗は自分のカードケースからトランプの束を取り出した。


「解印、解印、かいいんっ!」


 織斗のトランプは時間差で形を変え、炎や水の攻撃を遼馬に仕掛ける。

 一回で二十枚も出した、空中には未だ、変化していない未使用のトランプが舞っていた。

 その一枚にしゅるっと、銀色の細い糸が巻きつく。


「小細工なしだ! 一気に封印する!」

「……織斗らしいな」


 ふっ、と小さく笑った広がトランプを追加して投げつける。その後を追うように、織斗がばら撒いていた神木のトランプが動いた。

 織斗は手元のトランプから炎や水なのど術を出して遼馬にぶつけるが、易々と跳ね返される。

 広が投げたトランプを横目で確認し、遼馬の背後へ回り込んだ。


「ジョーカー!」


 ケースからトランプを一枚取り出し、数字が描かれている方を自分に向ける。

 遼馬は振り返り、織斗目掛けて風の攻撃を放った。遼馬の背後でトランプが舞うが、細い尻尾がそれを薙ぎ払った。

 単調な攻撃は全て尻尾に弾かれてしまう。

 だけど、一つだけ、弾き返せない術がある。

 避けるか、同じ属性でしか弾き返すことができない。身体が触れてしまったが最後、それは負けを意味するカードのナンバー。


「封印!」


 表、数学の方を自分に向けたまま、織斗が叫ぶ。

 攻撃が出るのは表、数字が描かれた側だからそれを自分に向けて印を唱えてはいけない。という、トランプという武器の特徴を遼馬が理解していたかどうかはわからない。

 印を唱えたにも関わらず、織斗のトランプからは封印の光が出てこない。

 さすがに不審に思ったのか、遼馬が首を傾げた。


「あ、気づいた? これ、ジョーカーじゃねーもん」


 トランプを裏返す織斗。そこにはピエロの絵柄ではなく、数字の1が書かれていた。

 ハートのマークに数学の1、炎の攻撃だ。

 途端、ピクッと遼馬の身体が跳ねた。振り返った遼馬が見たのは、自分の身体に繋がっている細い尻尾が白い光に包まれている光景。


『ヴ、あ?』


 呻くような声をあげ、遼馬は尻尾の方へ向き直った。

 尻尾を伝ってジリジリと、光が身体の方へと寄ってくる。


『クッ……』


 遼馬が風を発し、身体と尻尾を切り離す。顔を上げると、遼馬を見つめる広と咲の姿があった。

 咲の指の先端には銀色の色。その一本が、遼馬の眼前にある神木のトランプと繋がっていた。

 カードのナンバーはジョーカー、ピエロの絵柄。


「おとりなんだ、俺は」


 織斗の声に、遼馬は慌てて振り返る。


「俺が封印するように見せかけて、背後では咲が糸を使ってジョーカーを操ってた。この方法だと当主以外でもトランプ使えるから」


 織斗が遼馬の額にカードを押し付ける。

 ピエロが描かれた、表面を相手に向けて。


「ちなみにトランプって自由自在でさ、どんなに離れてても持ち主が願えばケースの中に返ってくるんだ。体力が持続していればだけど……封印」


 白い光がジョーカーから溢れ出る。

 そこまでは普段の封印術と変わらない。きらきらと輝く光が遼馬の身体を包み込み、トランプの中に吸い込まれていく……


 時に、異変が起こった。


 封印途中だった龍馬の尻尾が織斗の腕を掴み、白い光と龍馬の尻尾とともに織斗の体はトランプの中へ吸い込まれた。




* * * * *漫画の裏ページ的な。


最終攻撃に向かう織斗を見送ったあとの広の心の声。


「……(受験の時か。そういえば俺、口挟んでたな……まぁ、言わなければバレないか。うちの中学は治安がいいから積極的に合格させたらいいって言っただけだし……あ、だからうちの高校、同中出身が多いのか…………裏口的なことしたの京都にバレてないかな……一生黙ってよう)」


微妙に雑念が多かった。

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