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第56話 幼なじみで親友・当主同士の共闘


 日本刀一本で竜巻を消し、遼馬のそばまで近づいた広。

 しかしあと少しのところで刃は届かず、発生する竜巻を消す行為を繰り返していた。


「キリがないな、それに……」


 広は脇腹を気にしながら、遼馬に目線を向ける。

 それ程の傷ではないと思っていたのに、動くと痛みが増した。

 長期戦はまずい、何か策はないかと思考を巡らせるが、痛みに邪魔されて何も思い浮かばなかった。


「よー、広! 苦戦してんなぁ」


 背後から聞こえてきた声に、広は一瞬だけそちらに意識を向ける。


「何してる、織斗。邪魔だから……」

「術力なら復活した。俺も戦う」


 広の隣に並んで立つ織斗がトランプケースを取り出した。

 中には、五十四枚全て揃ったカード。


「復活した? どうやって……」

「あ、それな! すげーんだよ、結奈の術がさ……」

「話は後にしたら?」


 胸ポケットから顔を出した姫未が頬を膨らませる。


「今はあの子をなんとかするのが先じゃない?」


 織斗はケラケラ笑い、ケースからトランプを五枚取り出した。

 ふわっと宙に浮かんだトランプが織斗の周りを囲む。


「そだな、まずは戦おう」

「……足引っ張るなよ」


 別のトランプを取り出す織斗と、日本刀を握り返す広。

 飛ぶタイミングは同時だった。織斗は火柱を遼馬に放ち、広は水の滴る日本刀を振りかざす。

 炎と水がぶつかって、遼馬の周囲で小規模な爆発が起こった。


「おー、すげ! 倒したかな?」

「これくらいで始末出来るとは思えない」


 再び構える織斗と広。

 立ち上る煙の中から、ぼんやりと人影が見えた。


「悪いな、織斗。正直、一人では無理かもしれないと思い始めていた」

「大丈夫、だいじょうぶ。俺、身体強いから」

「そうだな……おとりになれ、織斗」

「ああ、そうだな。わかっ……おとり?」

「得意の正面衝突でぶつかっていけ。織斗に気を取られている隙に、俺が封印する」

「そうか、なるほど……じゃねぇ! なんで俺がおとりなんだよ」

「身体、強いんだろ?」

「そっ……うは言ったけど!」

「うるさい。傷口に響くから、大声出さないでくれ」

「今の状況考えて、俺のほうが戦えるだろ。広がおとりになれ!」

「断る」

「なんで!?」

「緋末の当主だぞ、俺は。そんなみっともない真似できるか」

「俺だって神木の当主だよ!」

「解散したんだろ?」

「……ぐうの音も出ない」

「……織斗が正しい日本語使ってるなんて珍しいな。どうした、頭大丈夫か?」

「あ、それさっき咲にも言われた! お前ら、俺のことバカにしすぎ……」


 とその時、竜巻が二人の間を通り抜けた。

 背後に飛び退く事でそれを避けた織斗と広は、改めて遼馬に目をやる。

 暗闇の中、樹林にポツンと立つ人影が織斗たちを睨んでいた。


「そういうわけだ、織斗。よろしく頼む」

「よろしくって言われても!」


 再び遼馬に向かって飛ぶ織斗だが、突風が巻き起こり跳ね返されてしまった。

 織斗の背後にいる広は、遼馬を見つめたまま何かを考え込んでいる様子。


「戦ってんの俺だけじゃん!」

「あんたが無計画無鉄砲に向かって行くからでしょ」


 ポケットの中でため息をつく姫未。

 いつまで居るんだよとは思うが、口論をするのも嫌なので黙っておいた。

 ひたすら、目の前の竜巻を消す事を考える。


「なぁ、風タイプには何タイプが効くんだ?」

「なに言ってんの、あんた」

「炎には水、水には草、光には闇が効くだろ? 風の弱点ってなんだろーと思って」

「光には闇ってなによ? うーん、風かぁ……壁は?」

「壁?」

「狐の嫁入りって昔話で、風より強いのは壁って言ってたから」

「……それたぶん、ネズミの嫁入りじゃね?」


 ダメ元でダイヤのカードを取り出して、障子程度の大きな土壁を作り出す織斗。

 眼前にそれを置き、遼馬の風を防ぐ。


「ねぇ、待って。これ、ただの土で出来てるのよね?」


 引きつった笑顔を見せる姫未が、風が壁にぶつかる前にポケットの奥深くに隠れた。

 グシャッと、壁から発せられたとは思えない鈍い音が鳴り響き、土が四方に弾け飛ぶ。

 思わず目を瞑る織斗。

 再び瞳を開くと、全身に砂がこびりついていた。


「間違いない。俺、バカだわ」


 目元の土を拭いながら顔を上げると、黒い影が遼馬に向かって飛んで行った。


「……あれっ、広?」


 遼馬の頭上三メートルの位置から日本刀を振り下ろしている広。

 しかし振り返った先、織斗の背後にも広の姿があった。


「二人いる! 広が二人いる!」

「そんなわけないでしょ、よく見て!」

「……残像?」


 背後にある広の肩が、ぼんやり透けていた。

 慌てて前に向き直ると、風に弾かれた日本刀が吹き飛び、後ろに飛んだ広が織斗の前まで戻ってきた。


「失敗した、奇襲を狙ったんだが」


 ケースから新たなトランプを取り出し、日本刀を握りしめる広。

 ジョーカーのカードを鎬にあてがうと、すぅーっと吸い込まれて消えた。


「なに今の、ジョーカー消えたけど!」

「見ての通りだ。刃が当たれば封印出来るようになってる」

「そんな事できんの?」

「俺としては、刀を纏う水や炎の攻撃が触れただけで封印できるようにしたいんだが、そこまではまだ難しい」

「まじか、すげーな……じゃなくて! なんだよ、さっきの、残像みたいなの」

「あぁ、織斗と俺の残像をおとりにしようと思ったんだが、ダメだったな。命ある者が近づいたら気配を察知するみたいだ」

「残像をおとりって……あれ、ちょっと待て」


 広の言葉であることに気がついた織斗は、顎に手をあてて何かを考え始めた。

 何もしない織斗を守るように、広が一人で攻撃を防ぐ。


「おい、馬鹿。ぼーっとしてんな」

「あ、いやごめん」


 はっと顔を上げた織斗が大きく息を吸い込んだ。それを吐き出すように、腹に力を入れて声を張り上げる。


「あいつはさ、あれなんだな! 命あるものに向かって攻撃するんだな!」


 異様に大きな声に、広は顔をしかめる。


「そうだと思うが。どうした急に、大声だして」

「もしかしたら、残像には攻撃してこないかもしれない?」

「だから声大きいって……それは、わからないけど」

「残像にジョーカーのカード持たせて封印すればいいんじゃね?」

「おまえ、残像がなにかわかってるか? 操れるものでもないだろ」

「確かにな! じゃあ、命を持たない俺を作って、そいつにジョーカー持たせればいいのか!」

「命を持たないってなんだよ。ていうかマジで、声でかいから」

「わかった、まかせろ」


 ポンっと広の肩を叩き、織斗は遼馬へと歩み寄る。


「広、俺の分身を作ってくれ!」

「分身? は?」

「あいつの周りに俺の分身を十体くらい、ぶわぁーって」

「織斗おまえ、分身がなにかわかってるか?」

「さっき広がやってたじゃん!」

「あれはただの残像というか光の……」

「一回目は俺一人でやってみる、二回目は様子見、三回目で仕掛けるから!」

「だからお前、声大きい」


 近くにいたら耳を塞いでしまいそうな織斗の声量。

 広は顔を歪めながらも、トランプケースに手をかける。


「三回目で仕掛けるって……大声で言うことじゃないだろ」

「大丈夫だ、わざと大声で聞かせてるから」

「大声で聞かせてる?」


 織斗の言葉を不審に思った広だが、何か作戦があって遼馬に聞かせているのだと解釈した。


「織斗、なにか策があるなら俺にも……」

「まず一回目! 広、よろしく!」


 話も聞かず、遼馬へと駆け出す織斗。

 呆気に取られた広だが、すぐに我に返りケースからカードの束を取り出した。


「話聞けよ! 相変わらず……解印」


 広が印を唱えると同時、青色模様のトランプが遼馬を取り囲んでシュッと姿を変えた。

 何枚かのカードが積み重なり出来上がったのは、織斗そっくりの影。

 灰色味を帯びているが、色もついている。


「すげー、さすが広!」


 影の合間を縫って遼馬に近づく織斗。

 だが、遼馬は影に目もくれず、本物の織斗へと向かって風を放つ。


「織斗!」


 声を張り上げた広が、影を作っていた術を解いて風を断ち切る。

 攻撃を止めた織斗が一旦、広のいる場所まで戻ってきた。


「すげーな、広。自由自在だな」

「言っておくが、俺もギリギリだからな? 今、かなり気を張ってる」

「え、マジで? 見えねぇ、超余裕じゃん」


 ケラケラと笑った織斗がちらりと後ろに振り返った。

 心配そうに織斗たちを見つめていた咲が、コクンと頷く。それを確認してから、織斗は遼馬に向き直った。




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