第三話 緋真の少女と神木の双子
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翌日の午後四時。
織斗は昔通っていた中学校の正門にいた。下校する中学生たちがチラチラと織斗を見て通り過ぎる。
何人かの背中を見送ったところで、織斗は一人の少女に目を奪われた。他の生徒とは明らかに違う、腰まで伸びる艶やかな黒髪に雪肌、そこに存在しているだけで異彩を放つ、幼さの中に美しさが宿る少女。
織斗が探していた緋真の家臣、桐生あやめだ。
「よお、お疲れ」
駆け寄ると、あやめは伏し目がちだった長い瞼をあげた。織斗の姿を認め、迷惑そうな顔をして足を止める。
「何してるんですか? 勉学についていけなくて中学からやり直すんですか? 職員室は中ですよ」
「いや、じゃなくて! おまえ、クールな上に毒舌かよ、性格も広そっくりだな」
「従兄妹ですから」
「いとこ?」
「あ、今のなしで。で、なにか用ですか?」
表情を変えないまま淡々と話をするあやめ。チラッと周囲を見渡したあと、「場所変えません?」と提案した。
「あぁ、悪い。ちょっと歩くけど、いいか?」
あやめは無言で頷き、織斗の後について歩いた。おおよそ一メートルの距離、攻撃されないか警戒した織斗だがあやめにその様子はなく、静かに道を歩いた。
繁華街と住宅街、そして空地が多数ある場所を抜けて小高い山の麓にたどり着いた。まるで神社に続く道のような、木々に囲まれた階段を登る。
不思議なほど、あやめは静かだった。
最上段を登り切ると、小さな公園に着いた。ベンチと砂場と小さなブランコしかなく、手入れもされていない。
ひと気のない公園で、織斗は長椅子のベンチに腰掛ける。あやめはベンチの前で足を止め、織斗を見下ろした。
「すごく歩きましたね」
「え?」
「ちょっと歩く、とあなた言っていたので」
「あ、悪い」
「別に、気にしてませんが」
あやめは持っていた鞄をベンチに放り投げ、ブランコに向かって歩き出した。
どかっとそこに腰掛け、両手で鎖を握る。
「それで、用ってなんですか?」
ブランコを揺らしながらあやめが言う。
織斗はベンチに座ったまま、話を切り出した。
「広と話がしたいんだけど、学校じゃ取り合ってもらえないんだ」
「でしょうね」
「あぁ、だからさ」
キィーッとブランコの揺れる音、シュルッと銀色の糸が鎖を伝った。
「人質とれば、対等に話できるかなと思って」
鎖を握るあやめの手首、腰には長い銀色の糸が巻きついていた。糸の先には、獣の仮面を被った咲の姿。
あやめは背後にいる咲を一瞥し、織斗に視線を戻す。
「なるほど、私が人質ですか」
「騙して悪いな」
「いえ? 最初からそのつもりでしたから」
「そのつもり?」
「あ、その前に一つ、言っておきたいことがあります」
「なに?」
「当主様は緋真の家臣を……私たちを、家族として見てくれていますよ」
「…………」
「言葉にはしないけれどちゃんと、当主様は私たちを見てくれています。あなたも、いえあなたの方が、わかっていますよね?」
「俺は広と付き合い長いからな。言葉の裏の裏の、裏の裏側までわかってる」
「……七百二十度回って表に返りましたけど?」
「……え? ん?」
「いいです、もう。それより、当主様と話をしてくれるんでしょう?」
「話というか、きっかけを作るというか」
「肩入れします、今回だけ」
「……かたいれ?」
「けじめをつけるべきだと思います、どちらにしても。で、私を人質にどのような話をするつもりですか?」
拘束されたまま、軽くブランコを揺らすあやめ。
織斗はベンチから立ち上がり、あやめと咲のいるブランコへ歩み寄る。
「協力、はしなくていいんだけど。いや、何もしない協力をして欲しい」
「……はい?」
大袈裟に首を傾げるあやめ。
織斗はしどろもどろになりながら、姫未と咲と一緒に考えた計画をあやめに伝えた。
*
既読すらつかないと思ったが、『は?』と返事がくるまで反応があった。
『あやめを返してほしければ街の丘公園に来い』
織斗のスマホアプリから広へと送ったメッセージ。
「短すぎません? 簡単な文章も作れないんですか? まぁ、当主様の読解力ならこんな幼稚な文面でも瞬時に理解してスマホを放り投げると思いますが」
あやめは見た目以上によく喋った。喋るというか、トゲのある言葉をただひたすら口にする。
「いくら広でも、スマホは投げないだろ」
「いくら、ってどういう意味ですか? 日頃から当主様がスマホを投げる乱暴者とでも?」
「お前が言ったんだろうが!」
「ものの例えです。神木は知能が低すぎて冗談も通じないんですか? あなた猿ですか?」
「なんでだよ! 猿に見えるかよ!?」
「見えます、とてもそっくりです」
「似てねーだろうがよ!」
会話をするだけで疲れる。
織斗はもういいやとあやめから離れてベンチへ座った。ブランコの後ろで織斗とあやめの会話を聞いていた咲は、何かがツボにハマったようで必死に笑いを堪えていた。
「否定しなかったってことは図星だった。本当に猿なんですかね、あの人」
あやめの言葉に耐えきれず、咲が「ふふふっ」と笑って口元を抑えた。




