第三話 敵一族の正体 ---裏側②
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インターフォンを鳴らし、「お久しぶりです、広です」と広が言う。
怪訝そうな顔をする姫未。
玄関から出てきた元助は、広を見て懐かしそうに微笑んだ。
「久しぶりだな、広くん。どうした、織斗がまたなにかやらかした……姫未、さま?」
笑顔で出迎えた元助の表情が、姫未の姿を捉えた途端に固まった。
「久しぶりー、元助。老けたわね」
「え、姫未様がいるということは、織斗が術力を……」
はっと、元助が広に目を向ける。
術力と共に封印されていた記憶が、一気に蘇る。
狼狽える元助の様子を観察していた広だが、その表情が嘘ではない事を確信して安堵のため息を吐いた。
「あぁ、やっぱり、神木も記憶を失っていたんですね」
どう応えようか迷っていた元助だが、幼い頃から知る広の懐かしい表情を見て、覚悟を決めた。
「神木は先代当主の悠斗が術力をトランプの中に封印して……待て、緋真はどこまで知っている?」
「大丈夫です、解散した後の足取りは掴めていない。織斗が術師一族の神木だというのも、当主の力を得た俺しか気づいてません」
「広くんが当主になった、術力を使えるようになったのはいつだ?」
「二年前、修学旅行の時です」
「そんなに……なぜすぐに、他の者に織斗の正体を伝えなかった?」
「昔から俺らの関係を知っているお爺さんなら、言葉にしなくてもわかってくれると思いますが。とりあえずこいつ、降ろしていいですか?」
広が顎をしゃくって、背負っている織斗を差す。
聞きたい事は山ほどあるし状況も理解できていない元助だが、このままでは広が辛いだろう事も理解していた。
「織斗の部屋はわかるな? そこまで運んでやってくれ」
広は無言で頷き、靴を脱いで玄関へ上がる。織斗の靴は小さい手でいそいそと姫未が脱がせていた。
元助に会釈をして広が廊下を抜ける。
「姫未様」
広の後をついて行こうとした姫未を、元助の声が引き止める。
「リビングに残って状況やら、何があったか教えてもらえますか?」
「えっ、私?」
「織斗は彼に任せておけば良いので」
「いや、織斗を運んだ後で緋真の当主から話聞けばいいんじゃない?」
「緋真の当主、からですか?」
ちらっと元助が広に目を向ける。丁寧にお辞儀を返す広を直視できなくて、元助は目元に手を当てため息を吐いた。
「すまんな、広くん。わしは緋真当主って言葉とその顔に、どうも拒否反応がでる」
「顔?」
「小さい頃はそうでもなかったが今見れば高校時代の緋真……わしの代の当主にそっくりだな」
「……母親似です、俺は」
「いずれ似てくるだろうよ、長男なんだから。すまんが、織斗を置いたらもう声をかけなくていい、勝手に出て行ってくれ」
「……すみません」
「謝ることはないだろう。むしろ感謝してる、広くんといる時の織斗は本当に楽しそうで、わしも君ら二人の面倒を見るのが楽しくて……本当に、かわいかった」
「あ、なら、最後に一つ、わがまま言っていいですか?」
なんだ? という風に元助が首を傾げる。
真正面から対峙したが、元助は広から顔を背ける事ができなかった。広の顔が少年のような、昔よく見た懐かしい表情をしていたから。
「俺が敵だってこと、まだ言わないでください」
「……は?」
「自分で言いたいんです。タイミングもまだ考えてないし、うまくやれる自信はないけど……自分の口で、織斗に言いたい」
「……相変わらず甘ったれだな、君ら二人は」
「すみません」
「いつまでも担いでたら重いだろう、さっさと行って織斗を寝かせてやれ。……よろしく頼むぞ」
「はい」
もう一度頭を下げて階段を登る広。
その背中に、元助が声をかける。
「昔からそうだが、わしは君ら二人のお願いには逆らえん。言わなくてもわかってると思うが」
捲し立てるように言い終えたところで、元助は足早にリビングに戻って行った。
困惑した姫未が、元助の後を追う。
広はその様子を見て小さく笑い、織斗を担ぎ直して階段を登った。
織斗を下ろしたらすぐに帰ろうと思っていた広だが、ドアの前にいた姫未に邪魔されて叶わなかった。
ぷかぷかと宙に浮いて、広を睨んでいる。
「話は?」
「切り上げてきた。元助とは後で話せるけど、あんたとはこの部屋を出たらもう話せない気がする」
「……鋭いな」
諦めたように、広が椅子に腰掛ける。
織斗はよく眠っている。話し声程度では目を覚さないだろう。
「友達だったんだ」
「友達?」
「小学校に入学するとき、京都からこっちにきた。俺、人付き合い下手で織斗しか話し相手いなかったから自然と仲良くなって。クラスもずっと一緒だったし」
「神木って聞いた時に何とも思わなかったの?」
「思ったけど……いいやつじゃん、織斗。家柄も普通だし両親は事故死してる。あの神木なら、当主が術力を引き継ぐ前に死ぬ事はないから確実に違うなって。なのにまさか……俺自身、信じられなかった」
ふっと笑い声を漏らす広だが、愉快で笑っているわけではないことを姫未はわかっていた。
「あんたは、織斗と友達でいたいの?」
「個人の意思よりも家憲が優先される、緋真はそんなところだって知ってるだろ? 特に父様はそういうとこ厳しいから」
「緋真孝幸か、何回か見たことあるけど、いつも眉間にシワ寄せてて怖い印象しかないな」
「だいたいあってる」
広はクスクス笑い、顔をあげて織斗を見た。
「幸いだったのは、織斗があの神木だと気づけたのは俺だけだったこと。ならこのままでいいと思った、織斗が術力を取り戻すまでは今までと同じで。この状態が続けばいいと思ってたのに、うまくいかないな……ごめん、これ以上うまく話せる自信ない」
そう言われては問い詰めようがない。無言で頷く姫未に、広は「よかった」と微笑んで椅子から立ち上がった。
「そうだ、さっきも言ったけど」
しかし部屋を出る直前、姫未のほうへ振り返る。
「俺が敵ってこと、織斗に言わないで。あと俺が部屋まで運んだとか、そういう事も」
「え?」
「よろしく」
一方的に告げて、今度こそ広は出て行った。
「なにあいつ、自分勝手!」
ドアの向こうに叫ぶ姫未だが、相手は何とも思っていないだろう。
ベッドに視線を向けると、先ほどと変わらない体勢で熟睡している織斗の姿があった。
「これって約束、した事になる?」
織斗が起きたら聞いてみよう。いやダメだ、言わないでて約束した……約束した!?
と一人悶々としながら、姫未は織斗の部屋を出て一階のリビングへ向かった。
*
「……濃いな」
姫未の回想を聞いた織斗が呟いた。
「濃いってなによ」
「広、来てたんだな。中学ぶり」
「術力手に入れてからはこの家に近寄らなくなったって言ってたわよ」
「三年かぁ、なっが」
はーっと、大きく息を吐く織斗。
目元に手を当て、もう一度深呼吸する。
「俺さ、この三日間で気づいた事があるんだ。広がいなくても生きていけるけど、そうなるとテストかやばい」
「勉強してないからでしょ? 織斗が机に座ってるとこみたことないんだけど」
「……一旦置いておこう。別にこのままでもいいかもしれないんだけど。楽しくなくなるかもな、人生が」
「大袈裟ね。人一人と縁切ったくらいで」
「誰かと縁を切るってことは、そういうことだろ。繋がってた、大切だと思ってた人と別れるってことは、人生が変わるってことだ」
「……いいこと言うじゃん。勉強できないくせに」
「な? 今の俺、マジで冴えてる……考えようか、正しいと思える未来の選択を。自分の意思で、悔いがないように」
項垂れて再度、織斗はため息を吐いた。




