第二話 召喚系の術師と召喚獣の援軍
「……誰?」
結奈は目を見開き、美優を弾き飛ばした人物を見つめた。
いや、これは人と呼んでいいのだろうか?
結奈の目の前にいるのは、全身真っ暗な服を着た少年。背中の部分が破れていて、そこから羽が生えている。
一メートル強はある、厚みのある大きな翼。
「呼び出すのおせーよ。大丈夫か、瀬奈」
少年は振り返って結奈の状態を確認したあと、翼竜となっている美優を睨む。
「……ナンバーズ」
ボソッと美優が呟く。
「召喚能力だったのね、市原さん」
「召喚? え? なに?」
「悪いけど、早々に封印させてもらうわ」
美優は翼を広げ、天井ギリギリのところまで飛んだ。身体をネジのようにして飛びかかるが、少年が結奈を抱えて飛んだので攻撃は当たらなかった。
「残念だったな、俺が出た時点で勝敗は見えてる」
少年は右腕で結奈を抱きかかえ、教室中を飛び回る。
乗り物に酔ったことがない結奈だが、さすがにこれは気持ち悪かった。
「まってまって! すみません、気持ち悪いです!」
「は?」
「酔う、吐く! 気持ち悪い!」
「あぁ、気持ち悪いってそっち……いや、瀬奈おまえ、これくらい慣れてるだろ?」
「瀬奈? それはお母さんの名前で……」
「は? お母さん?」
「とにかく止まってください! 女子高生のリバースよくない、絶対!」
結奈の懇願により、少年が動きを止める。
「ちょっと待て、まさかおまえ……っ」
しかしその途端、美優の嘴が少年の腕に突き刺さった。
「よそ見してるからよ」
「……確かにな」
無理に笑みを見せる少年が美優の嘴をつかもうとしたが、易々とかわされてしまった。
少年は床に膝をつき、突き刺された右腕を左手で押さえる。
黒い服にじわっと、血が滲んでいく。
「空気読めよ、化け物が」
「あなただって人外じゃない」
黒い羽が生えた少年と、翼竜の姿をした美優が睨み合う。
気持ち悪さからようやく解放された結奈が、顔を上げて少年の腕を見た。
「……え?」
睨み合う少年と美優を交互にみやり、状況を理解する。
だが次の瞬間、結奈は少年に抱きかかえられ再び宙を舞った。
しかし今度は『気持ち悪い』なんて言えない。結奈はぎゅっと少年の腕にしがみつき、二人は机が散乱して積み重なっている場所、美優の死角に入った。
「無駄なことを……」
獲物を失った美優だが、その声色はむしろ今の状況を楽しんでいるようだった。
ゴツゴツした皮膚、翼竜となった姿では、顔の表情はわからない。
少年に抱えられて机の陰に隠れた結奈は、じっと彼の傷を見つめた。
腕の怪我は、自分が惚けている間に負ったもので……
「ごめん……」
結奈の謝罪に、少年が首を傾げる。
「なんで謝るんだよ?」
「だって、私を……守ってくれたんだよね?」
「……お前、名前は?」
「名前? えっと、市原結奈です」
「……本家じゃないもんな、神木の名は捨てるよな」
「神木? あ、お母さんの旧姓は神木です、神木瀬奈」
「で、一世代変わって今回俺を呼び出したのはおまえだな」
「呼び出した?」
「黄色い飴使っただろ?」
「あめ……あ、あぁ! 転がっていった」
「黄色の飴は戦闘獣召喚効果がある。今からおまえが俺のマスターだ」
「マスター?」
「俺の名前はブラックだから。あと、そっちの方が身分高いから敬語は使うな。で、さっそくだけど青い飴食べろ」
「青い飴? どうして……」
「回復魔法だ」
ブラックが言うと同時、結奈たちを隠していた机が吹き飛んだ。しかしブラックが身体を張ってガードしたおかげで結奈に被害はなかった。
ブラックの両腕の皮がはがれ、血が床に落ちる。
それを見た結奈は慌てて飴袋から青色の飴を取り出し口に含んだ。口の中にブルーハワイの味が広がると同時、ブラックの両腕の傷が回復し始めた。
「回復術もできるのね」
離れた場所にいた美優が納得したように呟く。
「回復は、俺たち召喚獣専用だけどな」
「便利ね」
口元が大きく開いた美優が翼を広げてブラックに襲いかかる。
それに対抗し、ブラックも羽を広げて飛んだ。
頭上で繰り広げられる獣同士の戦いを、結奈はただ見守るしかできなかった。




