第115話 一人じゃ勝てない
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その日は、雨が降っていた。
ザァァァアと打ちつける、地面を叩く音。
白い光が消えて、織斗と広は呆然と街の丘公園、木の下にいた。
ポタッ、ポタッと時折、葉っぱから雨が滴り落ちる。
「……怪我」
やがて織斗が呟き、立ち上がって広に詰め寄る。
「咲、怪我してるんだ! すぐ手当て……今すぐ出してくれ」
「出すって……どうやって?」
「どう……え、どうって……」
「俺は、封印した人間を外に出す方法なんて……そもそもそんなことができるなんて、お前が言うまで聞いたこともなくて……まさかその方法までは、知らないのか?」
さぁぁっと、打ちつける雨と共に織斗の顔から血の気が引く。
しかしすぐに我に返り、広のほうを向いた。
「だって姫未がそう言って……そうだ、聞けばいい! 呼んだら来るから、姫未!」
「無駄だ、織斗……あいつらは、一族に対して従順じゃない」
「そんなこと……大丈夫、大丈夫だから!」
懇願に近いように叫ぶ織斗に、広が厳しい視線を向けた。
眼球の色は相変わらず、青に染まったまま。
「大丈夫なわけないだろう。呼んでも来ないじゃないか」
「姫未は、神出鬼没だから!」
「言っておくが俺は、あいつらのことを最初から信用していなかった。神木のほうはまだ寄り添っていたが緋末の、時雨は宿縁抗争にほとんど関与していない」
「でも、姫未が……あの言葉は嘘じゃなかった! 大丈夫、みんな元に戻る!」
「……元に戻る、か。都合のいい言葉だな」
カチッと、トランプケースの開く音。
広の持つ日本刀が青い光を纏った。矛先は地面に向けたまま、視線だけ織斗を見つめる。
「散々偉そうなこと言っておいて、いざとなるとやっぱり神頼みか?」
「違う! 俺は最初から……」
「正しい未来の選択? どこがだ? お前のせいで……お前が間違えたせいで、封印された人間が元に戻るなんて虚言のせいで咲は自ら封印された。結奈ちゃんだって! 間違ってるじゃないか、お前の選択、やる事なすこと全てが! 昼夜で敵対関係を分けようという提案も、そもそも織斗と、神木と友達になったことが間違ってた!」
「そ、こまでは戻らなくていいだろ! ていうか俺は、今までの選択で間違ってたと思うことなんて」
「あやめの時だってそうだろ、お前が邪魔したから! 織斗が来なかったら俺がやられて終わってた、あやめは巻き込まれなかった!」
「でも、そしたら! 広が死んでただろ!」
「それでいい。誰かを失うより自分が傷つくほうが、俺が消えることで大切な人が守れるならそっちのほうが楽だ」
「…………ひろ」
その言葉に対して、織斗は言い返すことが出来なかった。
もし、例えば、逆の立場だったとして、自分もそう思うだろうから。
大切な誰かを失うより、自分が消えるほうが楽だと。
「そうだな……元はといえば、あの事件から始まった」
ふっと微かな笑みを浮かべ、広が日本刀を握り返す。その手元を見ていた織斗は、トランプケースに手をかけた。
織斗の手は震えていたが、気にしている余裕はなかった。
「不平等というより、不公平だと思わないか、織斗?」
「不公平?」
「緋末の人間はすでに何人も封印されている。まぁ、それは咲と結奈ちゃんで相殺するとして……神木家は、死者が出たっけ?」
「…………」
「ちなみに、うちの家臣と話してるなら知っていると思うが、学校に現れた神木一族は全員捕らえてある。負傷者はいるが、死者はいない」
「……聞いた」
「その上で問う。なぁ、織斗……今のこの状態、不公平だと思わないか?」
「……わかってるんだな」
「は? なにが……」
「緋末に死者が出たって、ちゃんと、わかってんだな」
途端、はっとした表情の広が日本刀を両手で握りしめた。
「違う……違う、けど」
「違わねーよ、わかってんじゃん……」
「違う、今のは! ……どうでもいい、もう、そんなことはどうでもいい。俺はお前を、神木をこの世から消す」
「……らしくないな」
キィンと鳴る日本刀を掲げる広。
織斗は大きくため息を吐き、もう一度、「広らしくない」と繰り返した。
パラパラと、トランプケースからカードを数枚取り出す。
ケースの中には十枚も残っていなかった。
それ以前に……
「広さぁ、俺がさっき言ったこと聞いてた?」
「……なにがだ?」
「あぁ、そうだ。凛からイヤホン型通信機渡されたけど、雨で壊れたみたいなんだ。后が防水つけてくれたけど、あんま意味なかったな。だからさ俺、いまマジで一人なんだよ」
「……それが?」
織斗が笑みを浮かべると、対峙していた広も微かに笑った。しかし互いに、喜楽の感情ではない。
広は感情全てを捨てて、笑うしかなくなったという不敵な笑み。
織斗は勝つことを諦めた、笑うしかないという状況。
「さっきも言ったけど、俺……一人だと勝てねーんだよ」




