第二話 初恋と幼なじみ
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放課後、結奈が自主室に向かうと、すでに広がいて空を眺めていた。
結奈は一度深呼吸して、勢いよくドアを開ける。
「お待たせ、広くん。遅くなってごめんね」
「大丈夫、全然待ってないよ」
「そ、そうかな……(うわぁ、なにこのやりとり! デートみたい! もしかしてこれってデート?)」
「勉強会って俺、言ったよね? とりあえず教科書出そうか」
「あ、うん! えっと……鞄……」
「……手には、何も持ってないよね?」
必死に手のひらを見つめる結奈だが、その中には何も握られていなかった。
制服のポケットの中を探すが、そんな場所に鞄が入っているわけがない。
「き、教室に……忘れてきたみたいです」
「…………ふっ」
広が口元に手を当ててくすくす笑う。
結奈は恥ずかしくなり、制服のポケットに手を入れて俯いた。
「ご、ごめ……すぐにとってくるから」
「いいよ、気にしないで。もともとそのつもりだったから」
「そのつもり?」
「まさか鞄ごと忘れるとは思ってなかったけど。教室に戻ったら机の中もちゃんと確認してね?」
「机の中? どうして?」
「教科書、忘れてるかもしれないから」
「えっと……うん……ん?」
ふっと微笑む広の纏う空気が、少し雰囲気を変えた。
「それより、ポケットの中、なにか入ってるの?」
広に指摘され、結奈は目線を落とした。スカートのポケットに、ちょっとした膨らみ。
そこまで目立ってはいなかったのに……と疑問に思いながらも、結奈はポケットからピンク色の巾着袋を取り出す。
象形文字の様な絵柄が、赤い糸で刺繍を施されている小さな袋。
「これね、飴袋」
「飴袋?」
「小さい時にお母さんがくれたの。困ったことがあったらその中に飴を入れて食べなさいって。お守りみたいなものかな」
「へぇー」
「き、緊張したり落ち込んだりした時によく食べててね……今、食べてもいいですか?」
「緊張してるの?」
「えっと……(広くんと二人ってだけでもドキドキするのに、鞄ごと忘れるとか恥ずかしすぎてヤバイ! 糖分食べないとやっていけない! 砂糖大事!)」
「面倒くさいから、心の声は聞こえないことにしておくね?」
「ありがとう! 広くん優しい!」
「……緊張というより、混乱でおかしくなってるね。いいよ、飴食べて」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
結奈が飴袋に指を入れると、中からは包装紙に包まれた赤色の飴が出てきた。
じっとそれを見つめたあと、広へ差し出す。
「私だけ食べるのも悪いから、広くんもどうぞ」
「……いらない」
「え?」
「俺はいいよ、結奈ちゃんが食べて」
「広くん、飴嫌いだっけ?」
「そういうわけじゃないけど。最近は食べないようにしてる」
「……ダイエットですか?」
「……そろそろ面倒くさいんだけど、怒っていいかな?」
「ごめんなさいっ!」
わたわたと、結奈は袋を開けて赤い飴を取り出した。
口の中に入れるまでじっと広に見つめられ、恥ずかしいと思いながら。
「……落ち着いた?」
「え? あ、はい」
「じゃあ、鞄取りに行ったら?」
「そうだった。ごめん広くん、すぐ戻るから」
「ゆっくりでいいよ」
「そんなわけには……」
「ゆっくりで、いいよ?」
ニコッと笑顔の裏に、憤怒の気配。
結奈は背筋をピンと伸ばし、大袈裟にドアを開けて自主室を出て行った。
「気をつけて」
忙しく自主室を出て行く結奈を、広は片手を振って見送る。
「気をつけて……か」
廊下を走る音が徐々に遠くなり、それが完全に消えたところで、広はため息を吐いた。
「頑張れって言葉は、どっちにいうべきかな」
ポケットに手を入れると固い感触が指に触れ、スライド式のケースを指でなぞった。
カチッと、ケースの開く音に、広は目を閉じた。
「茶番だな」




