↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
109/120

第109話 七色の虹

*



[ねぇ、コウ。怒らないで聞いてくれる?]


[なに? ていうかリンちゃん、いま僕たち、時限爆弾止めるために頑張ってるよね? 話なら後で聞くから]


[声の会話だとうまく言えそうにないから、こうやってメッセージ送ってる]


[いや……いま?]


[ダメかな?]


[本当にやばくなっなら、返信やめて作業に集中する]


[同じく]


[当主さんたちに気づかれないようにね、リンちゃんわかりやすいから]


[当主にはバレないよ。画面の文字すら追えてないもん]


[話ってなに?]


[ゲームのこと]


[ゲーム?]


[コウがいじってダメにしちゃったゲーム。あれね、バグじゃなくて本当なの。主人公は中ボスに勝てない]


[なにそれ。もともとクソゲーだったってこと?]


[その逆、最高のシナリオだった。あの中ボスね、仲間になるの。更生して、主人公と一緒に戦うことを誓う。中ボスが仲間になってからしばらくは、誰も死なない]


『待って。どうしてリンちゃんがそんなこと知ってるの? リリースされたゲームは全部バグが起きる仕様になってたはずだよ? 続きなんて、関係者以外誰も知らないはずだけど』


[うん、だから、怒らないで聞いてね。私、発売前にダウンロードしたの、あのゲーム]


[え、なに? それってダメなやつじゃない? 僕は怒らないけど、関係者には怒られるね]


[笑]


[話ってそれ?]


[大人になったら、一緒に続き作ろ]


 その文面に、后は顔を上げた。

 パソコンの画面越しに、うつむく凛の姿。

 凛はちらっと視線をあげ、またすぐに自分のノートパソコンへ向き直った。

 后もまた、画面へと向き直る。


[続きって、あのゲームの?]


[私も最後までプレイできてないんだけと、すごく面白いゲームだったよ。だからラッシーが作ったゲームの続きを、私たちが繋ごうよ。いつかあのゲーム、再販しよう]


[ラッシーやめて笑 僕のお父さん]


[咲さんめっちゃ笑ってたね! じゃあ、陽太さんで]


[関係者の人たち、当主様に聞いたら連絡先わかると思う]


[そっか、開発権とか面倒だもんね!]


[開発権!]


[なにがおかしい?]


[リンちゃんって天才なのか馬鹿なのかわからないよね]


[当主と同じこと言わないで! あ、当主てのはうちの、神木のほう]


[わかってる笑 そうだね、じゃあまず、うちの当主様を助けないとね。あ、当主様てのはうちの、緋末の]


[わかってる笑 がんばろうね、コウ]


[がんばろうね、リンちゃん]


 互いに、同時に、メッセージの画面を閉じた。

 ちらっと視線を上げると目が合って。

 凛と后はまた、それぞれの画面に目を向けた。



*


*



 太陽の光が眩しかった。

 地下道から這い上がった織斗が、声をあげた。


「外だ、咲! 外!」


 振り返った織斗が手を差し伸べると、すぐ後ろを歩いていた咲は迷う事なく手を握り返す。


「眩しい……久しぶりに感じるね、ここ」


 織斗と咲が立つ場所は、緋末屋敷の第二の門。

 池の近くにある大きな岩の下に地下通路があって、織斗たちはそこを通って地上に出てきた。


「近道があったとはおもわなかった。石の下に隠れ通路あるなんて思わないだろ。すげーな、凛は」

「天才だからね、凛ちゃんは……凛ちゃんだけじゃないね、あの二人は、賢いから」


 ちらっと背後を向く咲。

 地下道の出入り口に、后の背中が見えた。


「頑張って、リンちゃん! もう少し!」

「コウって私のこと馬鹿にしてるよね……!」

「してないよ! 引きこもりの僕より体力ないなんてどうしたの? 声だって僕より大きいしうるさいのに、とは思ってるけど!」

「してるじゃん! 馬鹿にしてる!」

「事実だよー、実際にリンちゃん今、声大きいっ!」

「あんたの声のほうが大きい! 画面上でやりとりしてる時はもっと、紳士的なやつだと……」

「僕も! リンちゃん男の子かと思ってた、女の子でよかった! ハグっ!」

「するか、馬鹿!」


 騒がしいやりとりをする中二コンビを、織斗は呆れたように、咲は微笑ましそうに見つめる。


「よかったね、仲良く……友だちになれて」

「友だちつーか微妙な関係だけどな、あれ」

「織斗くんも、仲直り出来るといいね」

「仲直りつーか……うん、そうだな」


 はぁーっとため息をついた織斗が、空を見上げて「あっ」と声をあげた。

 つられて顔を上げる咲も、「すごいね」と微笑む。


「? なにかありました……」


 織斗と咲の様子に気づいた后が振り返る。

 その瞳に、七色の光が映し出された。


「リンちゃん……リンちゃん!」

「なに? 何かあったの?」

「早く……消えちゃうから、早く!」

「消える? なにが……」


 地下道の出口に手をかけ、空を見上げた凛の瞳に、后と同じ色が映し出された。


「……虹だ」


 青空を裂く大きな虹、七色がくっきりと映し出されていて。


「雨降ったっけ?」

「そんなことないと思うけど……綺麗だね」

 

 肩を並べて虹を眺める織斗と咲。

 その背後で、后は涙を流した。


「……綺麗だね」


 凛の言葉に、后は頬を伝う涙をそのままにして頷く。


「綺麗……うん、綺麗だね」


 四年前、同じ空を見てた。

 雨も降っていないのになぜか、青空に虹がかかっていて。


「リンちゃん……お願いがあるんだけど」

「なに?」

「父さんの日記の鍵、開けるの手伝って。僕、一度も解読してない……というか、日記の場所自体、知らないから」

「当然! そしたら私も、日記見るからね? ラッシーの最後の育児日記!」

「だから、ラッシーやめてって……ふ」


 ぼろぼろと流れる涙が、止めどなくて后は口元を手で覆った。

 俯いて、必死に、涙を堪える。


「ねぇ、コウ。叶えようね、夢物語。いつか二人で、ゲームを完成させよう」


 凛の言葉に、后は顔を隠したまま頷いた。

 今はまだ、泣き顔を見られたくない。

 かっこいいキサキちゃんでいたい。

 いつか、数年後もしくは数十年後。

 同じ時を過ごす中で心を通わせ、もういいかなと思った時に、手を握って欲しい。

 泣いてもいいよ、と。


「鍵を開けに行こうね、后。二人で一緒に」

「うん……一緒に。凛ちゃんと一緒に、二人で」


 后の声は涙でぐちゃぐちゃで、うまく発言できていなかった。

 だけど凛は、コクンと一つ頷く。



 会いに行くよ、父さん。

 画面上にいる、その向こう側にいるあなたに。

 伝えたい言葉はいっぱいあるけど、まずは。

 今は一言だけ。


 あの日一緒に見れなかった虹に乗せて、メッセージを送ります。



[

   やっぱりまだ、空には還帰れないや。

   こっちは、リアルの世界はとても楽しそうで。

   もう少しだけ、頑張ってみようと思います。


   父さん、僕ね、友達が出来ました。


                  キサキより

 ]






* - - - - - - - - - - - - - - -

No.12「AM_01:00 –空の向こう側、虹の裏側– 」終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。