第109話 七色の虹
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[ねぇ、コウ。怒らないで聞いてくれる?]
[なに? ていうかリンちゃん、いま僕たち、時限爆弾止めるために頑張ってるよね? 話なら後で聞くから]
[声の会話だとうまく言えそうにないから、こうやってメッセージ送ってる]
[いや……いま?]
[ダメかな?]
[本当にやばくなっなら、返信やめて作業に集中する]
[同じく]
[当主さんたちに気づかれないようにね、リンちゃんわかりやすいから]
[当主にはバレないよ。画面の文字すら追えてないもん]
[話ってなに?]
[ゲームのこと]
[ゲーム?]
[コウがいじってダメにしちゃったゲーム。あれね、バグじゃなくて本当なの。主人公は中ボスに勝てない]
[なにそれ。もともとクソゲーだったってこと?]
[その逆、最高のシナリオだった。あの中ボスね、仲間になるの。更生して、主人公と一緒に戦うことを誓う。中ボスが仲間になってからしばらくは、誰も死なない]
『待って。どうしてリンちゃんがそんなこと知ってるの? リリースされたゲームは全部バグが起きる仕様になってたはずだよ? 続きなんて、関係者以外誰も知らないはずだけど』
[うん、だから、怒らないで聞いてね。私、発売前にダウンロードしたの、あのゲーム]
[え、なに? それってダメなやつじゃない? 僕は怒らないけど、関係者には怒られるね]
[笑]
[話ってそれ?]
[大人になったら、一緒に続き作ろ]
その文面に、后は顔を上げた。
パソコンの画面越しに、うつむく凛の姿。
凛はちらっと視線をあげ、またすぐに自分のノートパソコンへ向き直った。
后もまた、画面へと向き直る。
[続きって、あのゲームの?]
[私も最後までプレイできてないんだけと、すごく面白いゲームだったよ。だからラッシーが作ったゲームの続きを、私たちが繋ごうよ。いつかあのゲーム、再販しよう]
[ラッシーやめて笑 僕のお父さん]
[咲さんめっちゃ笑ってたね! じゃあ、陽太さんで]
[関係者の人たち、当主様に聞いたら連絡先わかると思う]
[そっか、開発権とか面倒だもんね!]
[開発権!]
[なにがおかしい?]
[リンちゃんって天才なのか馬鹿なのかわからないよね]
[当主と同じこと言わないで! あ、当主てのはうちの、神木のほう]
[わかってる笑 そうだね、じゃあまず、うちの当主様を助けないとね。あ、当主様てのはうちの、緋末の]
[わかってる笑 がんばろうね、コウ]
[がんばろうね、リンちゃん]
互いに、同時に、メッセージの画面を閉じた。
ちらっと視線を上げると目が合って。
凛と后はまた、それぞれの画面に目を向けた。
*
*
太陽の光が眩しかった。
地下道から這い上がった織斗が、声をあげた。
「外だ、咲! 外!」
振り返った織斗が手を差し伸べると、すぐ後ろを歩いていた咲は迷う事なく手を握り返す。
「眩しい……久しぶりに感じるね、ここ」
織斗と咲が立つ場所は、緋末屋敷の第二の門。
池の近くにある大きな岩の下に地下通路があって、織斗たちはそこを通って地上に出てきた。
「近道があったとはおもわなかった。石の下に隠れ通路あるなんて思わないだろ。すげーな、凛は」
「天才だからね、凛ちゃんは……凛ちゃんだけじゃないね、あの二人は、賢いから」
ちらっと背後を向く咲。
地下道の出入り口に、后の背中が見えた。
「頑張って、リンちゃん! もう少し!」
「コウって私のこと馬鹿にしてるよね……!」
「してないよ! 引きこもりの僕より体力ないなんてどうしたの? 声だって僕より大きいしうるさいのに、とは思ってるけど!」
「してるじゃん! 馬鹿にしてる!」
「事実だよー、実際にリンちゃん今、声大きいっ!」
「あんたの声のほうが大きい! 画面上でやりとりしてる時はもっと、紳士的なやつだと……」
「僕も! リンちゃん男の子かと思ってた、女の子でよかった! ハグっ!」
「するか、馬鹿!」
騒がしいやりとりをする中二コンビを、織斗は呆れたように、咲は微笑ましそうに見つめる。
「よかったね、仲良く……友だちになれて」
「友だちつーか微妙な関係だけどな、あれ」
「織斗くんも、仲直り出来るといいね」
「仲直りつーか……うん、そうだな」
はぁーっとため息をついた織斗が、空を見上げて「あっ」と声をあげた。
つられて顔を上げる咲も、「すごいね」と微笑む。
「? なにかありました……」
織斗と咲の様子に気づいた后が振り返る。
その瞳に、七色の光が映し出された。
「リンちゃん……リンちゃん!」
「なに? 何かあったの?」
「早く……消えちゃうから、早く!」
「消える? なにが……」
地下道の出口に手をかけ、空を見上げた凛の瞳に、后と同じ色が映し出された。
「……虹だ」
青空を裂く大きな虹、七色がくっきりと映し出されていて。
「雨降ったっけ?」
「そんなことないと思うけど……綺麗だね」
肩を並べて虹を眺める織斗と咲。
その背後で、后は涙を流した。
「……綺麗だね」
凛の言葉に、后は頬を伝う涙をそのままにして頷く。
「綺麗……うん、綺麗だね」
四年前、同じ空を見てた。
雨も降っていないのになぜか、青空に虹がかかっていて。
「リンちゃん……お願いがあるんだけど」
「なに?」
「父さんの日記の鍵、開けるの手伝って。僕、一度も解読してない……というか、日記の場所自体、知らないから」
「当然! そしたら私も、日記見るからね? ラッシーの最後の育児日記!」
「だから、ラッシーやめてって……ふ」
ぼろぼろと流れる涙が、止めどなくて后は口元を手で覆った。
俯いて、必死に、涙を堪える。
「ねぇ、コウ。叶えようね、夢物語。いつか二人で、ゲームを完成させよう」
凛の言葉に、后は顔を隠したまま頷いた。
今はまだ、泣き顔を見られたくない。
かっこいいキサキちゃんでいたい。
いつか、数年後もしくは数十年後。
同じ時を過ごす中で心を通わせ、もういいかなと思った時に、手を握って欲しい。
泣いてもいいよ、と。
「鍵を開けに行こうね、后。二人で一緒に」
「うん……一緒に。凛ちゃんと一緒に、二人で」
后の声は涙でぐちゃぐちゃで、うまく発言できていなかった。
だけど凛は、コクンと一つ頷く。
会いに行くよ、父さん。
画面上にいる、その向こう側にいるあなたに。
伝えたい言葉はいっぱいあるけど、まずは。
今は一言だけ。
あの日一緒に見れなかった虹に乗せて、メッセージを送ります。
[
やっぱりまだ、空には還帰れないや。
こっちは、リアルの世界はとても楽しそうで。
もう少しだけ、頑張ってみようと思います。
父さん、僕ね、友達が出来ました。
キサキより
]
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No.12「AM_01:00 –空の向こう側、虹の裏側– 」終




