第101話 リンとコウ
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「…………?」
目を閉じて随分、いや十秒ほど経った。
ちゃぷんと水の跳ねる音。
后は目を開けて、自分の手元を見つめた。能力を使って電気を流した。床には電気を通しやすい水が溜まっている。
何度もテストした、電圧を間違えるはずがない。
あの一瞬で自分も、神木の兄妹も死んでいたはずなのに。
「……電気が、無くなってる」
常に微弱に感じられた電気の反応が、今は全く感じられない。
僅かに視線を上げると、織斗と咲の足があった。
「どうして……僕の攻撃が」
さらに顔をあげた后の目に、ここにいるはずのない人物の姿が映った。
塞いたはずの出入り口のドアの前に、大きな鞄とパソコンを抱えた少女の姿。
色素の薄いふわふわの長い髪に、同じ色の瞳。
「……コウ?」
「……リン、ちゃん?」
姿を見るのは初めて、初対面なのに何故か、后と凛は互いのことがわかった。
神木と緋末が対立してから、互いのナンバーズになってから画面を通して、文字を媒体にしてずっと会話していた相手。
「凛! おまえ、なんでここに……つーかどうやって入った?」
織斗の言葉に、凛と后がはっと我に返る。
「そうだ、当主! あんたが勝手に通信切るから!」
「通信?」
「凛ちゃん、通信機持ってたのは私……ていうか、凛ちゃんか切ったんじゃないの?」
「はぁぁ? そんなことするわけないでしょ! えっ、待って! 咲さん切ったんじゃないってことは、またコウに妨害されてた?」
ばっと、后に振り返る凛。
后はびくぅっと肩を跳ねさせて、凛の目を見つめた。
「コウ! もしかして私が当主たちと連絡取り合ってたの知ってた? 何かした?」
「連絡取り合ってたのは、知ってるし……通信の邪魔だって、当然……するし」
「はぁぁ? うそっ、またコウに負けた! この分野では勝てない、悔しいっ!」
「でもリンちゃんの技術すごくて、僕も、苦労して……そうじゃなくて、それより……リンちゃん、なにしてるの?」
「は? なにって?」
「なんで……なんで来たの? 来れないようにしてたでしょ。パソコンの中からもリアルでも、侵入できないように何重にも罠はってたのに、なんでここに……」
「罠? バカにしてないでよね。あんな子ども騙し、私に通用するわけないじゃん。森の一本道からは十五分でここまでたどり着いたし」
「十五分……ふふっ、あははははっ!」
突然、腹を抱えて笑い出す后。
唖然とする織斗と咲、凛に、后が鋭い眼光を向ける。
「本当はさぁ、当主さんたちも逃してあげるつもりだったんだよ。なのにしつこいから、巻き込んじゃうしかないじゃん? 初めてましてだねっ、リンちゃん」
「? まぁ、顔を見るのは初めてまして……だけど」
「聞いていいかな? さっきの、どうやったの?」
「さっきの?」
「僕の電気、とめたのリンちゃんでしょ?」
「あぁ! それが私の能力」
「能力?」
「コウの能力は、そこに存在する電気を操ることでしょ? 私の能力は、そこに電気を存在させること、存在する電気を消滅させること」
「……つまり何もない場所で電気を発生させたり、消したりすることが出来る」
「そう! コウが電気を操る直前に、コウの周りにあった電気を消したの!」
「そんな、能力……」
「すごいよね、コウとは気が合うと思ってたけど能力までリンクしてるなんて! 私が来たからにはもうコウの好きにはさせないから!」
「……ふふっ、あははははっ!」
もう何度目だろう、后が声を上げて笑った。
前髪に滴る水滴を払い除け、顔を上げる。
后の表情が、内の感情が喜楽でないことは、凛にもすぐわかった。
「っ、ははっ……ホント……」
后はひとしきり笑ったあと、ニコッと凛に微笑む。
「来ちゃったものは仕方ないし、歓迎するよ。ようこそ、リンちゃん。僕の……機械と電気と、【死】の部屋へ」
后の作り笑顔に対して、凛も笑みを返した。
しかし后のものとは違う。
凛の瞳には確かに、后が映っていた。
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No.11「PM_11:30 –カラクリ屋敷– 」終




