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101/111

第101話 リンとコウ

*



「…………?」


 目を閉じて随分、いや十秒ほど経った。

 ちゃぷんと水の跳ねる音。

 后は目を開けて、自分の手元を見つめた。能力を使って電気を流した。床には電気を通しやすい水が溜まっている。

 何度もテストした、電圧を間違えるはずがない。

 あの一瞬で自分も、神木の兄妹も死んでいたはずなのに。


「……電気が、無くなってる」


 常に微弱に感じられた電気の反応が、今は全く感じられない。

 僅かに視線を上げると、織斗と咲の足があった。

 

「どうして……僕の攻撃が」


 さらに顔をあげた后の目に、ここにいるはずのない人物の姿が映った。

 塞いたはずの出入り口のドアの前に、大きな鞄とパソコンを抱えた少女の姿。

 色素の薄いふわふわの長い髪に、同じ色の瞳。


「……コウ?」

「……リン、ちゃん?」


 姿を見るのは初めて、初対面なのに何故か、后と凛は互いのことがわかった。

 神木と緋末が対立してから、互いのナンバーズになってから画面を通して、文字を媒体にしてずっと会話していた相手。


「凛! おまえ、なんでここに……つーかどうやって入った?」


 織斗の言葉に、凛と后がはっと我に返る。


「そうだ、当主! あんたが勝手に通信切るから!」

「通信?」

「凛ちゃん、通信機持ってたのは私……ていうか、凛ちゃんか切ったんじゃないの?」

「はぁぁ? そんなことするわけないでしょ! えっ、待って! 咲さん切ったんじゃないってことは、またコウに妨害されてた?」


 ばっと、后に振り返る凛。

 后はびくぅっと肩を跳ねさせて、凛の目を見つめた。


「コウ! もしかして私が当主たちと連絡取り合ってたの知ってた? 何かした?」

「連絡取り合ってたのは、知ってるし……通信の邪魔だって、当然……するし」

「はぁぁ? うそっ、またコウに負けた! この分野では勝てない、悔しいっ!」

「でもリンちゃんの技術すごくて、僕も、苦労して……そうじゃなくて、それより……リンちゃん、なにしてるの?」

「は? なにって?」

「なんで……なんで来たの? 来れないようにしてたでしょ。パソコンの中からもリアルでも、侵入できないように何重にも罠はってたのに、なんでここに……」

「罠? バカにしてないでよね。あんな子ども騙し、私に通用するわけないじゃん。森の一本道からは十五分でここまでたどり着いたし」

「十五分……ふふっ、あははははっ!」


 突然、腹を抱えて笑い出す后。

 唖然とする織斗と咲、凛に、后が鋭い眼光を向ける。


「本当はさぁ、当主さんたちも逃してあげるつもりだったんだよ。なのにしつこいから、巻き込んじゃうしかないじゃん? 初めてましてだねっ、リンちゃん」

「? まぁ、顔を見るのは初めてまして……だけど」

「聞いていいかな? さっきの、どうやったの?」

「さっきの?」

「僕の電気、とめたのリンちゃんでしょ?」

「あぁ! それが私の能力」

「能力?」

「コウの能力は、そこに存在する電気を操ることでしょ? 私の能力は、そこに電気を存在させること、存在する電気を消滅させること」

「……つまり何もない場所で電気を発生させたり、消したりすることが出来る」

「そう! コウが電気を操る直前に、コウの周りにあった電気を消したの!」

「そんな、能力……」

「すごいよね、コウとは気が合うと思ってたけど能力までリンクしてるなんて! 私が来たからにはもうコウの好きにはさせないから!」

「……ふふっ、あははははっ!」


 もう何度目だろう、后が声を上げて笑った。

 前髪に滴る水滴を払い除け、顔を上げる。

 后の表情が、内の感情が喜楽でないことは、凛にもすぐわかった。


「っ、ははっ……ホント……」


 后はひとしきり笑ったあと、ニコッと凛に微笑む。

 

「来ちゃったものは仕方ないし、歓迎するよ。ようこそ、リンちゃん。僕の……機械と電気と、【死】の部屋へ」


 后の作り笑顔に対して、凛も笑みを返した。

 しかし后のものとは違う。

 凛の瞳には確かに、后が映っていた。





* - - - - - - - - - - - - - - -

No.11「PM_11:30 –カラクリ屋敷– 」終

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