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星が重なる日(改訂版)  作者: 橘花


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船について

西暦××××年××月××日 ダーウィン基地 言語解析室 午前6時


昨夜の分析で、一つのことが分かった。


船の絵への反応が長かった。人間の絵や建物の絵への反応より、明らかに長い音が来た。長い反応は、情報量が多い語か、複数の語が合わさった語句である可能性がある。


十六夜は昨夜の録音を切り出した。船の絵に対して捕虜が出した音だ。


長さを測った。これまでの面会で出てきた音の中で、最も長い単一の反応だ。


その音を分解する。音節を切り出す。いくつに分かれるか。


「八音節」


ノートに書いた。


これまでの語彙の最大は五音節だった。八音節は別の種類だ。単語ではなく、複数の語が連なった句である可能性が高い。あるいは、非常に複雑な概念を示す一語。


八音節を四つのグループに分けてみた。二、二、二、二。均等だ。対称的な構造を持つ語は、複合語に多い。二つずつ組み合わせた二段構造の複合語という可能性がある。


既知の七つの語彙と照合した。


一致はない。全部新規だ。


だが、四グループのうち最後の二音節が、既知の語彙の一つと部分的に重なっている。完全一致ではない。音節の長さが違う。だが構造が似ている。


語族の中の派生語かもしれない。同じ語根から派生した別の語。


語根が同じなら、意味が関連している。関連した意味を持つ二つの語が組み合わさって、船を指す複合語を作っている。その組み合わせが何かを示せれば、船という語の意味の輪郭が見えてくる。


既知の語彙の中で語根が一致する可能性があるのは、最初の面会から積み上げてきた語の一つだ。あの語の意味はまだ確定していない。だが、問いの形態素と同じ語族に属する可能性があると、昨夜の分析で見ていた。


問いかけることと関連する語根。それが船という語の一部を構成している。


「語根が同じだとすれば」


十六夜はホワイトボードに書いた。


────


同日 午前8時 ダーウィン基地 言語解析室


赤城が来た。コーヒーを一つだけ持ってきた。


「今日は二つじゃないんですか」


「お前は飲んでいないだろうと思って」


机の上の冷えたコーヒーカップを見た。十六夜は少し笑った。「飲みました。三時間くらい前に」


「今日の分析を聞かせろ」


「船の絵への反応が八音節でした。これまでの最長です。四つのグループに分解できる可能性があります。最後の二音節が既知の語彙の一つと語根を共有している可能性があります」


「どの語彙と」


「最初の面会から積み上げてきた七つの語彙のうち、最初の段階で出てきた語です。あの語は、昨夜の分析で問いの形態素と同じ語族に属する可能性があると見ていました。船への反応の最後の二音節が、その語と構造的に似ています」


「問いの形態素と船が、語族を共有している」


「可能性として。語族を共有するということは、意味的に関連している可能性があります。問いかけることと、船。この二つが意味的に近い概念として扱われているとすれば」


赤城はコーヒーを置いた。「どういうことだ」


「たとえば、日本語で"使者"という語があります。使いを運ぶ人、という意味です。使うことと人が組み合わさっている。同じように、向こうの言語で"問いを運ぶ船"あるいは"問いかけのための船"という複合概念が一語になっている可能性があります」


「つまり船は、問いかけという行為と一体のものとして扱われている」


「可能性として。語根の分析だけでは断定できません。ただし、昨日の八音節が単純な船の意味ではなく、接触や問いかけという機能と結びついた概念を指しているとすれば、向こうがその船をここに送ってきた意図と整合します」


「まだ分かりません。ただし、船が単純な乗り物を指す語ではない可能性が出てきました。何か別の意味を持つか、あるいは行為や状態を含む概念として使われているかもしれません」


「今日の面会で確認するか」


「はい。今日は船に関連する絵を複数用意します。帆船の絵。大きな船の絵。小さな船の絵。そして、移動を示す絵。方向を示す絵。それぞれへの反応を見て、昨日の八音節の内部構造を絞り込みます」


「方向を示す絵というのは」


「矢印です。シンプルな矢印の絵。方向という概念が捕虜に通じるかどうかを確認します。北西の艦隊が移動方向を変えたことと、船への反応が長かったこと。方向という概念が間を繋ぐかもしれない」


赤城はしばらく黙った。「それは北西の艦隊と捕虜を結びつける方向だな」


「仮説の段階です。確認はしていません」


「官邸に上げる前に確認しろ。仮説を上げると、仮説が先走る」


「了解です」


────


同日 午前10時 官邸地下 危機管理センター


「北西の状況から報告します」


藤堂が言った。「昨日までの方向変化が継続しています。ただし変化の速度がさらに落ちました。方向がある程度安定してきている可能性があります」


「安定した方向はどこを向いているか」


「現時点では日本ともオーストラリアとも異なる方向です。その先に何があるかは、まだ地図にありません」


「変化を止めた理由は」


「不明です。ただし、方向が安定してきているということは、目的地が定まった可能性があります。目的地が定まれば、いつ来るかの推定が立てやすくなります」


「到達時期の推定は」


「速度と方向から計算すると、現時点での推定は数週間から数ヶ月です。ただし前提が揺れすぎて、精度は低い。地図の空白が大きい以上、正確な推定は困難です」


黒崎は少し間を置いた。「言語解析との兼ね合いは」


「ダーウィンから今朝の報告が届いています。昨日の船の絵への反応が八音節で、これまでの最長だったとのことです。今日の面会で船に関連する複数の絵を使って確認を続ける予定です」


「船と北西の艦隊の関連は」


「まだ確認できていません。今日の面会の結果を待っています」


「了解だ」


「一点補足します」相馬が言った。「数週間から数ヶ月という推定ですが、言語解析との時間的な兼ね合いを考えると、余裕があるとは言い切れません。言語解析が進んで問いの内容が分かる前に艦隊が到達した場合、返答の準備が間に合わない可能性があります」


「どの程度の余裕があると見ているか」


「言語解析の進み方次第です。毎日面会して、毎日少しずつ積み上がっています。今のペースなら、数週間以内に問いの内容が分かる可能性はあります。ただし保証はできません」


「並行して返答の準備を始めるか」


「問いの内容が分からない状態で返答の準備はできません。ただし、返答の手段の検討は今から始められます。どの手段が最も確実かを今から絞り込んでおけば、内容が分かった瞬間に動けます」


「手段の検討を進めろ」


白瀬が続けた。「一点確認です。今日の面会で船の意味が絞り込めた場合、向こうが問うているのが艦隊に関する何かである可能性が出てきます。その場合、返答するかどうかという問いが早まる可能性があります。返答の方針について、事前に方向だけでも確認しておく必要があります」


「方向だけでいい。決定ではない」


「はい。今日の面会の結果次第で、返答の準備に入るかどうかを判断したい」


「返答するとすれば、何をどう返すか」


「現時点では三つの手段があります。向こうの言語で返す、絵と動作で返す、少佐を通じて返す。どの手段が最も確実かは、向こうの問いの内容が分かってから判断します」


「了解だ。今日の面会の結果が来次第、報告しろ」


「急ぐな。だが止まるな」


────


同日 午後 ダーウィン基地 隔離区画 面会室


今日も昨日と同じ手順で始めた。


捕虜は今日も即座に応じた。三日続いた。手順が完全に前提になっている。


十六夜は準備してきた絵を出した。


最初は帆船の絵だ。三本マストの帆船を、できる限り正確に描いた。「あたご」が目視した帆船に近い形だ。


捕虜は絵を見た。


昨日の反応とは違った。昨日の船の絵は単純な形の船だった。今日の帆船の絵は、より具体的な形だ。


捕虜が音を出した。


昨日と同じ八音節の音だ。


「同じです」記録者が言った。


同じ語で反応した。帆船という特定の種類の船も、昨日の単純な船の絵も、同じ語で捉えている。つまり「船」という一般的なカテゴリとして認識している。あるいは、この語自体が帆船を含む広い概念を指している。


次に大きな船の絵を出した。蒸気船に近い形の、大型の船だ。


捕虜は見た。


別の音が来た。短い。昨日の単数の絵に来たのと似た種類の音だ。


「別の音です」


大きさによって語が変わるのか。あるいは、帆を持つ船と持たない船を区別しているのか。


次に、矢印の絵を出した。


シンプルな右向きの矢印。方向を示す最も単純な記号だ。


捕虜は見た。


しばらく間があった。


それから、捕虜は自分の体をわずかに傾けた。


音は出なかった。動作だけだ。体の向きを変えた。矢印が示す方向に、体の正面を向けた。


「……方向を理解しています」


記録者が言った。


十六夜は静かに頷いた。矢印の概念が通じた。方向という抽象的な概念を、矢印が表していることを理解した。


これは重要だ。方向という概念が通じるということは、「向く」「進む」「来る」「行く」といった方向性を持つ概念を、絵で示せる可能性がある。言語を介さずに方向を示せれば、北西という方向についての問いを設計できるかもしれない。


十六夜は次の絵を出す前に、もう一枚の矢印の絵を出した。


今度は左向きの矢印だ。


捕虜は見た。


今度は逆方向に体を傾けた。


「方向の区別も理解しています」記録者が言った。


右と左を区別できる。右向きに体を傾け、左向きに体を傾ける。方向の概念が、単純な「向き」という意味で通じている。


次の絵を出した。


矢印と、その先に帆船の絵を組み合わせた絵だ。「帆船が向かっている」あるいは「帆船の方向」を示す意図だ。


捕虜は見た。


今度は長かった。


音が来た。昨日の八音節より長い。初めて聞く音だ。


さらに、捕虜は動作を加えた。手のひらを上に向ける動作。そして、矢印の方向に目線を向けた。


「動作と音節が複合しています」記録者が言った。


音と動作の組み合わせ。今日初めて出てきた複合表現だ。


十六夜は捕虜の目線を追った。矢印の方向を向いている。その方向を、音と動作の両方で示した。


向こうにとって、この方向は重要だ。単純な「方向」の説明ではない。強調だ。この方向に何かある、あるいはこの方向が問いの中心にある、という表現に見える。


「もう一枚出します」


十六夜は最後の絵を出した。


矢印と帆船の絵に、複数の人間の絵を組み合わせたものだ。「帆船の方向にいる集団」あるいは「帆船とともに移動する集団」を示す意図だ。


捕虜は見た。


静止した。


数秒間、動かなかった。


それから、昨日の面会で初めて出てきた自分を指さす動作をした。


自分を指さして、矢印の方向を向いた。


「……自分と方向を組み合わせています」記録者が小声で言った。


十六夜は記録した。自分と方向。「私はこの方向から来た」あるいは「私たちはこの方向にいる」という意味かもしれない。


────


面会が終わった後、廊下で赤城が待っていた。


「矢印が通じたか」


「はい。体の向きで応じました。方向という概念を認識しています。そして、矢印と帆船を組み合わせた絵に対して、これまでにない長い音と動作の複合が来ました」


「複合というのは」


「音だけ、あるいは動作だけではなく、音と動作が同時に出てきた。複合表現です。昨日の自分を指さす動作に続いて、今日は方向と動作が組み合わさった。表現の複雑さが増しています」


「それはどういう意味だ」


「向こうが情報を出す準備ができてきている可能性があります。最初は音節だけ。次に音節と動作。さらに複合表現。段階的に複雑さが増している。通信路が広がっている、という感覚があります」


赤城は少し間を置いた。「船の語根の分析は」


「今日の面会で、帆船の絵にも昨日と同じ八音節の反応が来ました。大型の非帆船には別の音が来た。つまり昨日の八音節は帆船という特定の種類、あるいは帆を持つ船というカテゴリを指す可能性があります」


「帆船が特別な意味を持っている」


「その文明において、帆船は何か重要なものかもしれません。あるいは、こちらが接触した帆船が特定の機能を持っていた可能性があります。向こうから来た帆船は、装置を持っていました。捕虜が乗っていました。接触のための船だった可能性があります」


「接触のための船」


「接触専用の役割を持つ船を指す語が、向こうの言語にあるとすれば、昨日の八音節はその語かもしれません。帆船一般を指す語ではなく、接触や交渉を担う船の役割を指す語」


赤城はしばらく黙った。「最後の絵への反応は」


「自分を指さして、矢印の方向を向きました」


「"私はこの方向から来た"という意味か」


「可能性として。あるいは"私たちはこの方向にいる"かもしれません。どちらにしても、自分の存在と方向を結びつけた表現です。向こうがいる場所と方向を示そうとしている可能性があります」


「それは」赤城は少し声を落とした。「北西を示しているということか」


「確認できていません。矢印は右向きに描きました。それが実際の方角とどう対応するかは、捕虜には分からないはずです。ただし、帆船が来た方向という意図で理解している可能性はある」


「官邸に上げるか」


「仮説の段階です。ただし、今日の面会で方向と帆船を組み合わせた絵に長い複合反応が来たことは事実として上げます。解釈は可能性として添えます」


「どう言う」


「"帆船の絵に昨日と同じ語が来た。大型の別の種類の船には別の語が来た。矢印の概念が通じた。矢印と帆船を組み合わせた絵に長い複合反応が来た。帆船と複数の人間の絵に、捕虜が自分を指さして矢印の方向を向く動作で応じた。帆船が特定の役割を持つ船を指す語である可能性がある"。それだけです」


────


同日 官邸地下 夕方


「今日の面会の結果です」


藤堂が報告した。「帆船の絵に昨日と同じ語が来ました。大型の別の船には別の語が来ました。矢印の概念が通じました。矢印と帆船を組み合わせた絵に、これまでにない長い複合反応が来ました」


「複合反応とは」


「音と動作が同時に出てきた表現です。これまでは音か動作か、どちらかでした。今日初めて、音と動作が組み合わさりました」


「それは何を意味するか」


「向こうが伝えようとしている情報の複雑さが増している、という解釈が出ています。ただし断定はできません」


「帆船が特定の役割を持つ船かもしれない、という分析は」


「仮説の段階です。捕虜が乗っていた帆船は装置を持ち、接触を試みていた可能性が高い。その帆船を指す語が、一般的な船の語と区別されているとすれば、向こうの言語において帆船は特別な役割を持つ船として扱われている可能性があります」


「接触船、ということか」


「その言い方は使いません。まだ確認できていません」白瀬が言った。「ただし、今日の面会の結果を踏まえると、次の確認目標が絞れてきます。捕虜の問いの中の"集団についての問い"と、帆船を指す語が、どう繋がっているかです」


「繋がりが分かれば」


「問いの内容に近づきます。捕虜が集団について何を問うているのか。帆船という語がその問いの中にどう位置づけられるのか。それが次の面会の目標です」


「今日の面会で、捕虜が自分を指さして矢印の方向を向く動作をした、という報告もありますが」


「はい。帆船と複数の人間の絵を組み合わせた絵に対しての反応です。"私はこの方向から来た"あるいは"私たちはこの方向にいる"という意味の可能性があります」


「"この方向"というのは」


「矢印が示した方向です。実際の方角との対応は確認できていません。ただし、捕虜が自分の出所と方向を結びつけた表現をしたことは事実です」


黒崎は少し間を置いた。「北西の艦隊の状況は」


「方向の安定が継続しています。速度は維持されています。今日の面会で方向の概念が通じたことと、北西の艦隊の方向変化。関連がある可能性は排除できませんが、現時点では確認できていません」


「了解だ。急ぐな。だが止まるな」


────


同日 夜 ダーウィン 十六夜さくら


今夜の問いが変わった。


昨夜は「どう答えるか」だった。今夜は「向こうは何について問うているのか」に戻った。


後退ではない。昨夜より具体的な問いになった。


集団についての問い。帆船という語。方向という概念。この三つが今日一日で確認できたものだ。


この三つを組み合わせると、何が見えるか。


集団。帆船。方向。


向こうは、こちらの集団が帆船の方向について何かを知っているかどうかを問うているのか。あるいは、こちらの集団が帆船の方向に何かをするかどうかを問うているのか。


あるいは、こちらの集団が帆船の方向から来たものに対してどう応じるかを問うているのか。


「どう応じるか」。


それは、こちらの意図を問うているということだ。意図を問うということは、向こうもこちらの応答次第で行動を変える可能性がある。応答によって、次が変わる。


だとすれば、こちらがどう答えるかが、向こうの動きに影響する。


どちらにしても、帆船の方向が問いの中心にある可能性がある。


帆船の方向。


帆船はどの方向から来たか。外縁の向こうから来た。日本海の外縁方向から来た。


「あたご」が最初に目視したときの帆船の位置と方向を、確認できる記録がある。そこから来た方向は、北西方向と重なっているかもしれない。


確認しなければならない。


十六夜はファイルを開いた。「あたご」の当初の観測記録だ。帆船を最初に目視したときの位置と、帆船が来た方向の記録。


データを見た。


「……北西だ」


独り言だった。


帆船が来た方向と、北西の艦隊がいる方向が、一致している。


捕虜は帆船に乗って北西から来た。艦隊は北西にいる。捕虜の問いに帆船という語が含まれている。


三つが、一本の線に並んだ。


一本の線が見えたとき、十六夜は少し止まった。


急かさない。急かせば、見落とす。三つが線に並んだように見えても、それが本当に一本の線なのかは、確認が必要だ。帆船の来た方向が北西と一致する、という事実だけを記録する。それ以上は今夜言わない。


ノートに書いた。「帆船の来た方向、北西方向と一致。確認が必要」。


明日、赤城に伝える。赤城が官邸に上げる。官邸が判断する。今夜はここまでだ。


十六夜は画面を閉じた。


外が静かだった。ダーウィンの深夜だ。虫の声がする。遠くで何かが動く音がする。


向こうは、こちらの応答を待っているかもしれない。待ちながら、北西から動いている。


今夜はここまで。


────


同日 深夜 官邸廊下


白瀬はメモ帳を出した。


「北西」


今夜の言葉を書いた。


これまでの言葉が並んでいる。「確認できない」「理由がない」「前提」「確認できた」「話す」「地図」「見えた」「聞こえている」「届いた」「同じ問い」「答えの形」。


そして今夜。「北西」。


捕虜が来た方向。艦隊がいる方向。問いの中に含まれている可能性がある語。


それらが全部、北西を向いている。


偶然かもしれない。確認できていない。だが、北西という方向が今夜ひとつの軸になった。


軸があれば、その軸に沿って考えられる。軸のない状態で考えると、どこにでも行ける代わりに、どこにも辿り着けない。軸があれば、軸に沿って進むか、軸から外れるか、どちらかが分かる。


今夜できることは、北西という軸を記録しておくことだ。明日確認する。確認できれば、次の問いが立つ。確認できなければ、別の軸を探す。


あの朝以来、ずっとそうやってきた。一つ確認して、次を確認する。確認できないことを確認できないまま保留にして、確認できることを確認する。


その繰り返しが、今夜ここまで連れてきた。


廊下の蛍光灯がいつも通りに唸っていた。あの朝からずっと、そうだった。


その音の下で、今夜もダーウィンの電気がついている。そしてどこか北西に、艦隊が動いている。

語根 単語の最も基本的な意味を担う部分。接頭辞や接尾辞、活用語尾などを取り除いた核の部分のこと。たとえば「書く」「書き手」「書物」はすべて「書」という語根を共有する。未知の言語において複数の語が同じ音節の組み合わせを含む場合、それらが語根を共有する派生語である可能性がある。


複合語 二つ以上の語が組み合わさって新しい一つの語を作ったもの。「電車」「読書」「飛行機」などがこれにあたる。複合語は構成要素の意味をそれぞれ引き継ぐ場合が多いが、合成された意味が元の語の意味の単純な足し算にならないこともある。未知の言語での複合語の特定は、語根の繰り返し出現パターンで推定する。


複合表現 音声と身体動作など、複数の表現手段を同時に用いて意味を伝えること。手話と音声を組み合わせた表現や、声調と身振りを合わせた表現がこれにあたる。単一の手段だけでは伝えられない情報量を、複数の手段を組み合わせることで補う。


矢印 方向を示すために使われる記号。先端が向く方向が「この方向」を示す。絵文字や地図、案内表示など幅広い文脈で使われる。文字を持たない段階の人間でも方向を指差すことで方向を示せるように、方向という概念自体は言語より先に存在する可能性がある。矢印はその概念を記号化したものだ。


観測記録 観測した事実を時刻・位置・内容とともに記録したもの。科学的な観測では記録の正確さと保全が最重要とされる。記録は観測した時点では意味を持たないように見えても、後から別の情報と照合することで意味を持つ場合がある。記録を残すことは、将来の照合のための投資でもある。

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