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星が重なる日(改訂版)  作者: 橘花


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同じ問い

西暦××××年××月××日 ダーウィン基地 言語解析室 深夜2時


赤城を起こしに行く前に、十六夜は十分だけ整理した。


今夜ここまで分かったことを、一行で言える形にする。それができなければ、説明する準備ができていない。


「捕虜の問いの中身の一部と、装置から少佐に届いた音が同じ可能性がある」


一行になった。これを持って行く。


────


赤城蓮人は、ホワイトボードの前に立っていた。


眠そうな顔だった。目の下に影がある。寝起きの顔ではない。仮眠を取ったが、眠れていない顔だ。それでも目は動いている。書いてある内容を、上から順番に読んでいる。飛ばさずに読んでいる。


十六夜は黙って待った。


赤城が読み終わるのを待った。急かさない。急かせば、見落とす。見落とした状態で問いを立てても、答えが歪む。この二時間で十六夜が整理した内容を、赤城が正確に頭に入れるまで待つ。それが今夜の作業の前提だ。


部屋は静かだった。空調の音だけがある。外はまだ暗い。ダーウィンの夜明けまで、あと数時間ある。


「……少佐の音と一致した、ということか」


赤城が言った。


「一致する可能性があります。完全な一致ではありません。少佐が再現した音は、捕虜が出す音ほど精確ではない。ただし構造が同じです。音節の順序が同じです」


「確率として言えるか」


「言えません。音声の類似度を数値化する手法はありますが、比較対象の精度が低すぎます。少佐が再現した音は、記憶から再現したものです。捕虜が出した音は、その場で録音したものです。精度に差がある」


「だが、同じだと思うか」


十六夜は少し間を置いた。「思います」


赤城は頷いた。それだけだった。「続けろ」という意味の頷きだ。


「捕虜の問いの中身が、装置が少佐に問いかけた内容と同じだとすれば。捕虜は、装置が問いかけていたことを、直接こちらに問いかけてきた、ということになります」


「装置は、少佐に何を問いかけていたんだ」


「少佐は"問われた"という感覚があったと言いました。何を問われたかは分からなかったと。ただし、問いかけを受けた感覚は確かだったと」


「つまり、少佐にも分からなかった問いを」


「捕虜が、今度は直接出してきた」


赤城は腕を組んだ。「……装置を通してこちらに問いかけ、少佐には届いたが解読できなかった。だから今度は、直接人間が来て、こちらと通信路を作って、問いを出した」


「そう解釈できます」


「それは、かなり手の込んだ方法だな」


「はい。装置だけでは不十分だと判断して、人間を送ってきた、という解釈になります。装置が届けられる情報の限界を、向こうは知っていた可能性があります」


「知っていた、ということは」


「向こうは以前にも、こういう接触を試みたことがあるかもしれません。こちらとではなく、別の誰かと。その経験から、装置だけでは言語の壁を越えられないと学んでいた」


赤城はそこで少し止まった。「それは推測か」


「推測です。根拠はありません。ただ、方法が洗練されすぎているという印象があります。こちらとの接触が初めてなら、もっと試行錯誤があってもいい。今回の手順は、目的から逆算して作られている感じがします」


「……その話は今夜でなくていい。続けろ」


「はい」


「そのために、捕虜は捕まることを計算に入れていた、という話があったな」


「はい。ダーウィンに着いたとき、振動周期が安定した。同期が完了した可能性があると。捕まって、連れてこられて、こちらとの通信路ができることを、最初から想定していた可能性があります」


赤城は天井を見た。しばらく黙っていた。


「つまり、これは向こうの計画通りだ」


「可能性として」


「向こうは何を問いかけているんだ」


「それがまだ分かりません。三塊目の音が問いの内容に相当しますが、この部分は全部新規の音です。七つの積み上げた語彙の中に、対応するものがない」


「全部新規、か」


「はい。二グループ目だけは既知の記録と照合できる可能性があります。そこから入ります。三と四については、別のアプローチが必要です」


「別のアプローチとは」


「今夜の分析を進めながら考えます。一つ考えているのは、音の構造そのものから意味の方向性を推定する方法です。音の長短、高低、音節の並び方に規則性があれば、意味の種類が見えてくることがあります。具体的な意味までは分からなくても、"行為を示す語か""状態を示す語か""対象を示す語か"くらいの分類はできるかもしれません」


「その分類で何が分かる」


「問いの形が見えます。何かをしているか、何かの状態にあるか、何かを指しているかが分かれば、答えの方向性が絞れます。答えられるかどうかが分かります」


赤城は頷いた。「解読できるか」


「時間をください」


赤城は十六夜を見た。「どのくらいだ」


「分かりません。ただし、今夜中に方針だけは出せます。この三塊目の構造を分解して、解読の手がかりになる部分を探します。全部は無理でも、一部でも意味が分かれば、問いの方向性が見えてくる可能性があります」


「少佐に聞かせるか」


十六夜は、その言葉に少し間を置いた。「聞かせます。ただし今夜ではなく、明日の朝にしてください。今夜は私が分析する。少佐には、分析した結果と合わせて聞いてもらう。少佐が音を聞いて何か感じたとき、分析の結果と照合できる状態にしてから聞かせたい」


「了解だ」赤城は時計を見た。「二時か。私は一度戻って仮眠を取る。四時に来る」


「はい」


「お前は寝るな」


「寝ません」


赤城は部屋を出た。ドアが閉まった後、廊下の足音が遠ざかって消えた。


十六夜は録音データに向かった。


静かな部屋だ。空調の音。画面の光。それだけがある。この静けさが、集中するための環境だ。眠気は来ない。頭が動いている証拠だ。


────


同日 深夜3時


三塊目の音を、一音節ずつ切り出した。


十七音節。これまでの積み上げた語彙の中で、最も長い音の組み合わせだ。単語一語ではなく、複数の語が組み合わさった句か文の可能性がある。


七つの積み上げた音と照合した。一致するものはない。全部新規だ。


ゼロから分析する。手がかりがない状態から始める分析は、手がかりがある分析より時間がかかる。だが方法はある。音の構造そのものを見る。意味が分からなくても、構造は見える。構造から意味の種類を推定する。それが今夜の方針だ。


次に、音の構造を分析した。


十七音節を並べていくと、ある規則性が見えてくる。


四つのグループに分かれる。四、三、五、五の音節数だ。


それぞれのグループの内部構造を分析する。


一グループ目:四音節。音の長短のパターンが、「問いの形態素」と似ている。問いに関係する語かもしれない。最初に来ているということは、文頭に置かれる要素だ。文頭の問い要素は、疑問詞か疑問の助動詞に相当する可能性がある。


二グループ目:三音節。短い。固有名詞か、機能語か。前置詞や格助詞に近い機能語であれば、後続の内容語と三グループ目・四グループ目を繋ぐ役割を持つ。「〜について」「〜に関して」に相当する語かもしれない。


三グループ目:五音節。音の構造が複雑だ。複雑な構造は内容語に多い。音節数が多いほど、具体的な概念を指す語である可能性が高い。


四グループ目:五音節。三グループ目と音の構造が似ている。長さも同じだ。似た構造の語が並んでいるとすれば、並置された二つの内容語という可能性がある。同じカテゴリに属する二つの概念を並べている形かもしれない。


「問い、何か、内容語、内容語」


十六夜はノートに書いた。


この構造が正しければ、問いかけは「何かについて、二つの内容語を問いかけている」形を取っている。


二つの内容語。それが何を指しているのかが分かれば、問いの中身が分かる。


一グループ目に問いの形態素がある。二グループ目が「何か」にあたる。三グループ目と四グループ目が、問いかけの対象だ。問いかけているのは、三と四の内容語についてだ。


問い:「○○について、AとBを問う」


そういう構造だとすれば、二グループ目の「何か」が接続詞か前置詞に相当する語だ。短い。三音節。機能語の可能性が高い。


機能語であれば、意味そのものは軽い。重要なのは、その後に続く三グループ目と四グループ目だ。だが三と四が全部新規の音である以上、二を解読できれば「何について問われているか」の枠組みだけでも分かる可能性がある。


二グループ目の三音節。短い音の組み合わせ。


十六夜はその音を繰り返し聴いた。


一度。五度。十度。聴くたびに音節の切れ目が自然になる。最初は一塊に聞こえていたものが、三つに分かれて聞こえるようになる。


どこかで聞いた気がする、という感覚があった。


昨夜も同じ感覚があった。昨夜は少佐の音声記録と照合した。一致した。それが今夜の出発点になった。


今夜は何と照合するか。


手持ちの音声記録を頭の中で並べた。面会の記録。少佐の証言録音。そして、もう一つ。


────


同日 深夜4時


赤城が戻ってきた。コーヒーを二つ持っていた。


十六夜は受け取った。「ありがとうございます」


「進んだか」


「少し。二グループ目の三音節が引っかかっています。どこかで聞いた気がするんですが、少佐の音声記録とは違う」


赤城はホワイトボードを見た。一時間前と変わっている部分がある。「この図は新しいか」


「はい。一グループ目が問いの形態素と似た構造を持つことが分かりました。問いかけているのは三グループ目と四グループ目の内容についてです。二グループ目が何かの前置詞か接続詞に相当する機能語だとすれば、構造は"AについてBとCを問う"に近い形になります」


「AとBとCは」


「Aが二グループ目。BとCが三と四です。Aだけ手がかりがあるかもしれない。BとCは今のところ手がかりがありません」


「Aから攻める、ということか」


「はい」


「他にどんな音声記録がある」


「面会の記録が全部あります。あとは、帆船の発光パターンの音声化データが一件あります。帆船から点滅信号が来たとき、それを音に変換して記録したものです」


「帆船のデータか」


「照合したことがなかったです。やってみます」


十六夜はファイルを開いた。帆船の発光パターンを音に変換したデータ。あの朝から数日後、「あたご」の当直士官が記録したものだ。


照合した。


「……あります」


十六夜の声が、わずかに変わった。


「二グループ目の三音節と、帆船の発光パターンから変換した音の一部に、構造的な一致が見られます」


赤城がコーヒーを置いた。「帆船と捕虜が、同じ音を使っている」


「同じ音節の組み合わせが含まれています。帆船の発光パターンは長い繰り返しの中の一部だったので、全体の意味は分かりません。ただし、この三音節が帆船のパターンにも含まれているということは」


「帆船と捕虜が、同じ語彙を共有している」


「同じ文明に属する可能性が高まります。帆船は向こうの世界から来た船です。捕虜もその船に乗っていた。同じ語彙を使う、というのは予想できることです。ただし」


「ただし」


「この三音節が、帆船の発光パターンの中で繰り返し出てきていたとすれば、それは重要な語です。重要な語が、今日の捕虜の問いの中に入っている。その語が何を意味するのかが分かれば」


「問いの核心に近づける」


「はい」


「その三音節は、帆船の発光パターンの中でどの位置に出てくるか」


十六夜は発光パターンのデータを全体表示した。「繰り返しが多い部分に集中しています。帆船が発光を繰り返していたとき、その繰り返しの中核にある音節の組み合わせと一致しています」


赤城は画面を見た。帆船の発光パターンを音に変換したデータが波形として表示されている。長い。繰り返しが多い。その中で、特定の箇所が強調されて表示されている。


「……帆船は何日間、発光を繰り返していたんだ」


「「あたご」が観測していた期間は、数日間です。その間ずっと、同じパターンで繰り返していた」


「繰り返しの回数は」


「数えていませんが、記録の長さから見て、数百回以上はあると思います」


「数百回」赤城は画面から目を離した。「数百回同じパターンで発光し続けた。その中核の音節が、今日の捕虜の問いに入っている」


「はい」


しばらく、二人とも黙った。


帆船があの夜、暗い海の中で規則的に発光していた。「あたご」の当直士官が双眼鏡でそれを見て記録した。あの発光の中に、今日の問いが入っていた。


向こうは、あの夜からすでに問い続けていた。


その事実の重さを、十六夜は少し時間をかけて受け取った。


あの朝から今日まで、こちらは「向こうに何があるか」を確認しようとしてきた。ロシアが来るか。韓国が来るか。外縁の向こうに何があるか。帆船が何を意味するか。捕虜が何者か。ずっと、こちらが問う側だと思っていた。


だが違った。


向こうも問い続けていた。帆船の光で。装置の信号で。捕虜の声で。こちらが確認しようとしていた期間、向こうも同時にこちらに問いかけていた。


問いかけていたのは、どちらも同じだった。


向こうの問いが何かは、まだ分からない。こちらの問いは「向こうに何があるか」だった。向こうの問いは何だったのか。それが今夜の次の問いだ。


「言葉は慎重に」十六夜は言った。


「分かっている」赤城が答えた。


「官邸に上げる」赤城が言った。


「はい。ただし言葉は慎重に」


「どう言う」


十六夜は少し間を置いた。「"捕虜が出した問いの音節の一部が、帆船の発光パターンの中核的な音節と構造的に一致した。同じ文明に属する可能性が高い。帆船は向こうがすでに接触を試みていた可能性がある"。それだけです」


「"接触を試みていた"という言い方で大丈夫か」


「試みていた、という言い方は事実の範囲内だと思います。意図があったかどうかはまだ言えません」


「了解です」


「言葉は慎重に」十六夜は言った。


「分かっている」赤城が答えた。


「"接触を試みていた"まで言えます。"攻撃しようとしていた"は言えません。"通信しようとしていた"はまだ言えません。動詞の選択が判断を変えます」


「"接触"で行く」


「はい。帆船があの夜発光していたことは事実です。その発光の中に今日の捕虜の音と構造的に一致する音節が含まれていたことも事実です。その事実から、向こうが接触を試みていた可能性がある、という推論は妥当です。それ以上は言いません」


赤城は頷いた。「報告書を作れ。夜明けまでに官邸に送る」


────


同日 夜明け前 ダーウィン基地


報告書を書きながら、十六夜は一つのことが気になっていた。


三グループ目と四グループ目。並置された二つの内容語。問いの中身を担う部分だ。


この二つはまだ解読できていない。帆船のデータとも、少佐の音声記録とも、一致しない。


全く新しい音だ。


新しい音が問いの中身を担っているとすれば、こちらには手がかりがない。その音が何を意味するのかを解読するには、別のアプローチが必要だ。


言語の壁を、言語で越えようとしている。それが今夜の作業だ。だが言語の壁が厚すぎるとき、言語以外の経路を探す必要がある。


マクブライド少佐だ。


少佐は装置から音を受け取っている。その音が捕虜の問いと同じだとすれば、少佐は問いの内容を、言葉ではないが、感覚として受け取っていた可能性がある。


「問われた感覚がある」と少佐は言っていた。何を問われたかは分からなかったと。だが、感じた。感じたという事実は、言語を経由せずに何かが伝わった可能性を示している。


今日この音を聞かせたら、どうなるか。


装置から来た音と、捕虜の問いの音が同じだとすれば、少佐は今日の捕虜の問いをすでに受け取っていたことになる。受け取っていたが、言葉にできなかった。言葉にできなかったのは、言語の対応表がなかったからだ。


今夜の分析で、音節の構造の一部が分かった。その知識を持った状態で少佐に音を聞かせれば、少佐の感覚と音節の構造が照合できる。


「この音を聞いて、何か感じますか」と問う。少佐が「感じる」と言えば、その感覚と今夜の分析を合わせる。「感じない」と言えば、少佐が受け取っていた音と今日の音が違う可能性がある。どちらの答えも、情報だ。


あるいは、感じないかもしれない。


どちらにしても、試す価値はある。


言語解析が音節の照合から積み上げていく方法だとすれば、少佐の感覚は別の経路だ。言葉を経由しない受信。どちらか一方が正しいのではなく、両方から迫ることで、どちらか一方には見えないものが見えてくるかもしれない。


二つの経路を同時に動かす。それが今考えられる最善だった。


十六夜はそれを報告書の末尾に書いた。「少佐への聴取を明朝に提案する」という一文として。


報告書を送信した。


時刻は午前五時だった。


画面の送信完了の表示を見て、十六夜はようやく椅子にもたれた。背もたれが軋んだ。


外が少し明るくなってきていた。ダーウィンの夜明けが始まっていた。


東の空が白い。この惑星の夜明けも、地球の夜明けと同じ方向から来る。自転の方向が同じだからだ。星の見え方は違う。距離感も違う。だがこの光の方向だけは、同じだ。


今夜分かったことは、明日の面会に繋がる。明日の面会は少佐の聴取と合わせて行う。少佐が音を聞いて何か感じれば、今夜の分析と照合できる。感じなければ、また別の手を考える。


次は、ある。


今夜そこまで来られたことが、今夜の成果だった。


────


同日 早朝 官邸地下


白瀬が報告書を受け取ったのは、執務室のデスクに向かってから間もなくのことだった。


読んだ。


二度読んだ。


三度目は、特定の箇所だけを繰り返した。帆船の発光パターンと捕虜の音節が一致した、という部分だ。


報告書の文章は短い。事実だけが並んでいる。「一致した」「可能性がある」「提案する」。余計な言葉がない。だが、その短い文章が持っている意味は、文章の長さよりずっと重い。


あの夜、「あたご」の当直士官岩田三佐が記録した発光パターン。白瀬はあの報告書を読んでいた。規則的な発光。既知のコードとは一致しない。それだけの報告だった。あの時点では、それ以上のことは言えなかった。


今日、その記録が意味を持った。


記録は残すためにある。残っているから、後で使える。あの夜記録しなければ、今日照合できなかった。


帆船。あの夜、「あたご」が日本海の外縁付近で目視した船だ。三本マスト。横帆式。近代以前の設計。その帆船が、暗い海の中で規則的に発光していた。「あたご」の当直士官がそれを記録した。あの記録が、今日の分析で意味を持った。


記録は消えない。あの夜記録したから、今日照合できた。


メモ帳を出した。


今夜の言葉を書いた。


「同じ問い」


帆船が発光していた。捕虜が問いを出してきた。少佐が装置から音を受け取った。それらが、同じ問いを中心に繋がっている可能性がある。


三つの出来事が、別々に起きたと思っていた。帆船は海の話だ。装置は現場の話だ。捕虜は言語解析の話だ。それぞれが別の担当者が追いかけている別の問題だと思っていた。


今日の報告書は、その三つが同じ問いに向かっていた可能性を示している。


あの朝以来、向こうは問い続けていた。


形を変えながら。帆船の光で。装置の信号で。そして今日、捕虜の声で。


同じ問いが、繰り返されている。


何を問いかけているのか。


その答えが、こちらにあるのかどうかも、まだ分からない。


ただ、問いの形が見えてきた。問いの形が見えれば、答えの形を考えられる。答えの形を考えられれば、答えられるかどうかが分かる。


答えられるかどうかが分かれば、次が決まる。


「答えられるかどうかが分かる」という段階は、「答える」より手前だ。だが「何も分からない」よりは確実に先にある。あの朝から今日まで、こちらはずっとその「何も分からない」から少しずつ前に進んできた。


今日の進み方は、これまでと少し種類が違う。これまでは「向こうに何があるか」を確認してきた。今日から、「向こうが何を問うているか」を確認する段階に入った。問いを受け取る側から、問いを理解しようとする側へ。その切り替わりが今日だった。


今日の報告書の末尾に「少佐への聴取を明朝に提案する」とあった。それに対してどう動くか、朝の会議で方針を出す必要がある。


白瀬は手帳に小さく書いた。「少佐の聴取、朝の会議で確認」。


メモ帳を閉じた。


廊下の蛍光灯がいつも通りに唸っていた。あの朝からずっと、そうだった。


その音の下で、今夜もダーウィンの分析室の電気はまだついている。

音声の類似度 二つの音声がどのくらい似ているかを数値化する指標。話者が異なる場合、同じ語でも音の高さ・速度・強さが変わるため、完全な一致にはならない。分析では「完全一致」ではなく「構造的一致」を基準とすることが多い。音節の順序や長短のパターンが揃っているかどうかで類似度を判断する。


発光パターンの音声化 光の点滅パターンを音の長短に変換して記録する手法。点灯を音の「オン」、消灯を「オフ」に対応させることで、視覚情報を音声分析ツールで処理できる形式に変換する。モールス信号を音で表現するのと同じ原理で、光と音という異なる媒体を同じ分析手法で扱えるようにする。


並置 文法用語で、二つ以上の語句を対等な関係で並べる配置のこと。「AとB」「AまたはB」のような構造がこれにあたる。並置された語句は、比較・選択・対応・列挙などの関係を持つことが多い。文の中で並置が起きている位置を特定することで、それぞれの語が担う意味の役割を絞り込む手がかりになる。


内容語と機能語 内容語は名詞・動詞・形容詞など、具体的な意味を持つ語のこと。機能語は助詞・接続詞・助動詞など、文の構造を作る働きをする語のこと。未知の言語を分析するとき、繰り返し出てきて文脈を問わず使われる短い音節は機能語、特定の文脈でのみ出てくる長めの音節は内容語である可能性が高い。


照合 二つのデータを比較して、一致する部分や構造上の対応関係を探す作業。言語解析では、未知の音と既知の音を照合することで、同じ語族に属するかどうかや、同じ語が使われているかどうかを推定する。照合の精度は、比較元データの品質に大きく左右される。

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