三通目
湾口 亡命艦隊旗艦「エイカ」
二度目の船団が湾口に入ってきた時、先頭の船にドラフォの姿はなかった。
五隻の帆船だった。前と同じように砲門を塞ぎ、白地に畳んだ帆の旗を掲げていた。甲板には、塩の樽と麻布の束が積まれている。最後尾の船には、また帆柱用の大木が横たえられていた。
浜では、十六夜が二つの秤を据えて待っていた。本国の天秤と、こちらの台秤。若い書記の代わりに、別の書記が帳面を抱えて降りてきた。荷揚げの段取りは、一度目よりずっと早かった。
小舟で「エイカ」に上がってきたのは、「オーレン」の船長だった。湾口でドラフォの副長を務めていた男だ。
アルセナは、甲板で船長を迎えた。船長は、深く一礼した。
「将軍は、北の軍港に残りました」船長は言った。「評議会に、艦隊の乗員名簿を問い合わせている最中だそうです。名を探している者がいる、と」
「名を」アルセナが繰り返した。
「掲示板の紙を破った男の弟だそうです」船長は言った。「湾口で、『ラウゼン』に乗っていたと。将軍は、その名が見つかるまで港を離れないと言っていました」
アルセナは、少しだけ口元を緩めた。
「あの男らしい」アルセナは言った。
船長は、封書を二通差し出した。
一通は、評議会の印が押されたものだった。もう一通は、分厚い紙の束を紐で綴じたものだった。
「ゲラード評議員から、殿下へ」船長は言った。「綴りの方は、文書室の記録の写しだそうです」
船長は、それから小舟の方を振り返った。
「もう一つ、お届けするものがあります」船長は言った。
小舟から、水夫たちが布袋を三つ引き上げた。前の船団が運んでいった袋と、同じ布だった。
「北の軍港の掲示板で、殿下の艦隊の水夫たちの手紙を受け取った家族からです」船長は言った。「返事を書いた者が、これだけおりました」
甲板にいた水夫たちが、一斉に布袋の方を振り返った。
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布袋の中身は、レナが甲板に広げた。
宛名ごとに、手紙が分けられていった。名を呼ばれた水夫が、次々に前に出てきた。受け取った手紙を胸に抱えて、帆柱の陰や舷側の隅へ散っていった。
甲板のあちこちで、紙を広げる音がした。誰も声を上げなかった。ただ、時折、誰かが鼻をすする音だけが聞こえた。
レナが、一通の手紙を年配の水夫に渡した。すまなかった、とだけ書いた水夫だった。
年配の水夫は、その場で封を開けた。中には、一行だけ書かれていた。
顔を見せてから、言い訳を聞きます。
年配の水夫は、その一行を長いこと見つめていた。それから、帆の端切れの手紙よりもずっと丁寧に畳んで、懐の奥にしまった。
別の若い水夫は、手紙と一緒に細い紐を受け取っていた。紐には、結び目が一つだけ作られていた。
「何だ、それは」隣の水夫が聞いた。
「娘の背丈だそうです」若い水夫は言った。「この結び目までが、今の背丈だと」
若い水夫は、紐を甲板に垂らした。結び目は、甲板から若い水夫の腰の少し上の高さにあった。
「大きくなったな」若い水夫は言った。声が、少しだけ震えていた。
舷側の隅では、一人の水夫が手紙を握ったまま座り込んでいた。手紙は、開かれていなかった。
レナが、その傍らにしゃがんだ。
「読まないのですか」
「怖いんです」水夫は言った。「生きていると書いた。でも、向こうが生きているかどうかは、こっちは知らない。開けたら、分かってしまう」
レナは、何も言わずにその隣に座っていた。しばらくして、水夫はゆっくりと封を切った。
最初の一行を読んで、水夫は顔を覆った。肩が、大きく揺れていた。
レナは、その手紙の文字を見なかった。ただ、水夫の背中にそっと手を置いた。やがて、水夫が顔を上げた。泣きながら、笑っていた。
「生きてた」水夫は言った。「お袋、生きてた」
アルセナは、甲板の端からその様子を見ていた。手には、ゲラードの封書と綴りがあった。
アルセナは、それを持って船室へ入った。
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アルセナは、船室で綴りを開いた。
政変の後、本国が亡命艦隊に送った帰還の命令。三通の写しが、順に綴じられていた。
一通目と二通目は、覚えていた。どちらも、使者の船が湾口の外まで来て、命令書を置いて去っていった。アルセナは、どちらにも従わなかった。
一通目の時のことは、よく覚えていた。使者の船は、昼間に堂々と湾口の外に現れた。小舟で命令書を届けに来た使者は、若い士官だった。アルセナは、甲板でその命令書を読み、使者の前で従わないと告げた。使者は、それを聞いて黙って帰っていった。
二通目の時は、もっと短かった。命令書は、前より厳しい言葉で書かれていた。従わなければ、艦隊の名を剥奪する。アルセナは、それを読み、同じ答えを返した。
三通目の写しの後に、短い記録が添えられていた。
この命令を運んだ船、帰還せず。乗員の行方、不明。
アルセナは、その一行を見つめた。
三通目の命令書を、アルセナは受け取っていなかった。
三通目が来たことすら、知らなかった。二通目の後、本国からの使者は途絶えた。アルセナは、本国が亡命艦隊を見限ったのだと思っていた。
その思い込みが、いま一枚の記録によって崩れようとしていた。
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ゲラードの手紙は、短かった。
この記録について、殿下の証言を求める者が評議会にいる。証言の前に、問いを知っておかれたい。覚えていないことは、覚えていないと語られればよい。ただし、覚えている者が他にいるなら、その者の言葉も聞かれたい。
手紙の最後に、小さな字で一行が添えられていた。
この記録を見つけたのは、ヴェインという若い評議員である。
アルセナは、手紙を置いた。
反対する者が、反対のために記録を探した。そして、見つけた記録を、ゲラードがこちらに送ってきた。隠さずに。アルセナは、その順番の意味を考えた。
「レナ」アルセナは言った。「士官たちの聞き取りの帳面を」
レナが、帳面を差し出した。アルセナは、頁を一枚ずつめくった。三通目の命令について語った者は、一人もいなかった。
食い違いの印は、いくつもあった。報せが届いた刻限。甲板での言葉の順番。だが、三通目については、誰の頁にも一字も書かれていなかった。
「誰も、知らなかったのでしょうか」レナが聞いた。
「誰も、語らなかったのだ」アルセナは言った。「知らなかったのか、知っていて語らなかったのか。それは、聞かなければ分からない」
アルセナは、帳面を閉じた。
「艦長たちを集めろ」アルセナは言った。「一人ずつ、私の前に」
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艦長たちは、一人ずつ船室に入ってきた。
アルセナは、それぞれに同じことを聞いた。綴りの一行を読み上げ、この船を知っているかと尋ねた。
一人目は、首を振った。二人目も、同じだった。
三人目の若い艦長は、しばらく考えてから首を振った。
「二通目の後、使者の船は来なかったと聞いています」若い艦長は言った。「三通目があったとは、今初めて知りました」
四人目と五人目も、知らないと答えた。
五人目が船室を出ていく時、扉の外で次の者が待っているのが見えた。
六人目は、年嵩の艦長だった。
艦長は、船室に入ってくると、アルセナが口を開く前に扉を閉めた。
アルセナが綴りの一行を読み上げると、艦長は長いこと黙っていた。
船室の小さな窓から、甲板の声が聞こえていた。手紙を読み終えた水夫たちが、互いに家族の話をしていた。誰かが笑い、誰かが泣いていた。
「知っているのだな」アルセナは言った。
「知っています」艦長は言った。
艦長は、目を閉じた。それから、ゆっくりと語り始めた。
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三通目の命令を運んできた船は、湾口の外に夜のうちに着いた。最初に見つけたのは、艦長の船の見張りだった。
月の無い夜だった。使者の船は、灯りを消して近づいてきた。見張りが気づいた時には、もう艦長の船の舷側に小舟を寄せていた。
使者の船の船長は、命令書を殿下に渡す前に、艦長に会いたいと言った。艦長と使者の船長は、若い頃に同じ艦で働いた仲だった。
二人は、艦長の船の船室で向かい合った。使者の船長の顔は、ひどくやつれていた。長い航海のせいだけではないと、艦長にはすぐに分かった。
使者の船長は、命令書を見せた。前の二通とは違っていた。従わなければ、艦隊の水夫の家族を罪に問うと書かれていた。
「あれを、殿下に渡せば」艦長は言った。「殿下は、帰ると言ったでしょう。水夫たちの家族のために」
アルセナは、何も言わなかった。艦長の言う通りだった。あの命令書を読んでいたら、自分は帰ると言っていただろう。
「帰れば、どうなっていた」アルセナは言った。
「殿下は、裁かれていたでしょう」艦長は言った。「艦隊は、取り上げられていた。あの頃の評議会は、今とは違いました。殿下を許すつもりで書かれた命令ではなかった。家族を盾にして、殿下を連れ戻すための命令でした」
使者の船長も、同じことを考えていた。そして、本国にはもう戻りたくないと言った。乗員の半分も、同じ考えだった。
「家族を盾にする命令を運ばされた」艦長は言った。「あの男は、それが恥ずかしいと言っていました。自分の手で運んできた命令書を、自分の手で燃やしてくれと」
「それで」アルセナは言った。
「命令書を、燃やしました」艦長は言った。「使者の船の乗員は、私の船と、他の船に分けて乗せました。残りの半分は、小舟で本国へ帰しました」
「なぜ、半分だけ帰した」
「帰りたいと言った者を、引き止める理由がありませんでした」艦長は言った。「家族のいる者たちでした。命令書が燃えたことは、黙っていると約束させました」
「船は」
艦長は、しばらく答えなかった。
「沈めました」艦長は言った。「残しておけば、殿下の目に触れる。だから、夜のうちに」
船底に穴を開けたのだという。夜明け前には、船は湾口の外の深い海に沈んでいた。翌朝、殿下の艦隊の誰も、使者の船の帆を見ることはなかった。
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船室は、静まり返っていた。
レナが、帳面の上で筆を止めていた。その手が、わずかに震えていた。
「小舟で帰した者たちは」アルセナは言った。
「分かりません」艦長は言った。「本国に着いたのか、途中で沈んだのか。記録に行方不明とあるなら、着かなかったのかもしれません」
アルセナは、艦長の顔を見つめていた。
「何人だ」
「十四人です」艦長は言った。「名は、覚えています。全員」
艦長は、一人ずつ名を口にした。レナが、それを帳面に書き留めていった。十四の名が、頁に並んだ。
「使者の船の船長は」アルセナは言った。
「今も、私の船におります」艦長は言った。「名を変えて、ただの水夫として」
アルセナは、目を閉じた。この数年、自分の艦隊の中に、三通目の命令を運んできた男がいた。毎日帆を張り、綱を引き、同じ甲板で働いていた。
「なぜ、今まで黙っていた」
「殿下を、守ったつもりでした」艦長は言った。「殿下が知らなければ、殿下は命令を拒んだことにならない。受け取っていない命令は、拒めない」
艦長は、深く頭を垂れた。
「今は、分かっています」艦長は言った。「知らされないまま決められることが、どういうことか。この艦隊は、それを本国にされて、ここにいるのですから」
アルセナは、長いこと何も言わなかった。
「私は」アルセナは、やがて言った。「お前を責めるべきか」
「責めてください」艦長は言った。
「責めれば、楽になるか」
艦長は、答えなかった。
「お前を責めるのは、評議会だ」アルセナは言った。「私は、お前の言葉を評議会に運ぶ。お前が燃やした命令書の代わりに」
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艦長が船室を出ていった後、レナはしばらく筆を置いたままでいた。
「殿下」レナは言った。「お怒りにならないのですか」
アルセナは、窓の外を見ていた。甲板では、まだ水夫たちが手紙を読んでいた。娘の背丈の紐を、隣の水夫に見せている者がいた。
「怒っている」アルセナは言った。「だが、誰に怒ればいいのか分からない」
「艦長に、では」
「艦長は、私を守ろうとした」アルセナは言った。「三通目の命令を書いた評議会は、家族を盾にした。使者の船長は、その命令を運ぶのを恥じた。どこにも、一人だけ悪い者はいない」
アルセナは、窓から目を離した。
「ゲラードが、この記録を送ってきた理由が分かった」アルセナは言った。「隠したことは、隠した者だけのものではない。隠された者も、知らないうちに同じ船に乗せられている」
レナは、何も言わなかった。ただ、帳面の十四の名の頁に、そっと指を置いた。
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オーレンの船長は、荷揚げが終わるまで「エイカ」に残っていた。アルセナは、船室を出ると船長を呼んだ。
「一つ、聞きたい」アルセナは言った。「三通目の命令が送られた頃、お前はどこにいた」
「将軍の艦の副長として、本国の港にいました」船長は言った。「まだ、湾口へ来る前のことです」
「三通目の使者が戻らなかった時、本国では何と言われていた」
船長は、少し考えた。
「殿下が、使者を捕らえたと」船長は言った。「あるいは、殺したと。艦隊の中では、そう噂されていました。だから、四通目は送られなかった。代わりに、艦隊が送られることになった」
アルセナは、黙った。
湾口の戦いは、遠い机が決めたことだった。その机の上に、三通目の使者が戻らなかったという報せが置かれていた。
「その噂も、評議会で語ってくれるか」アルセナは言った。「ドラフォと一緒に、追った側の言葉として」
「語ります」船長は言った。「将軍も、そうおっしゃるはずです」
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日が傾く頃、アルセナは年嵩の艦長の船に小舟で渡った。
艦長の船の甲板で、一人の水夫が帆を繕っていた。白髪の混じった、痩せた男だった。アルセナが近づくと、男は手を止めて顔を上げた。
その顔を見て、アルセナはようやく思い出した。この艦隊に加わった水夫の一人として、何度か甲板ですれ違ったことがあった。名も、聞いたことがあった。だが、それは本当の名ではなかった。
「三通目の命令を運んできたのは、お前だな」アルセナは言った。
男は、帆布を膝に置いたまま、しばらく黙っていた。
「はい」男は言った。
「評議会で、私はそれを語る」アルセナは言った。「お前の名も、語ることになる。本当の名を」
男は、膝の上の帆布を見つめていた。
「小舟で帰した十四人のことを、ずっと考えていました」男は言った。「あの者たちが本国に着いていれば、命令書が燃えたことは評議会に伝わっていたはずです。記録に行方不明とあるなら、伝わらなかった」
男は、顔を上げた。
「語ってください」男は言った。「十四人の名と一緒に。あの者たちの家族も、まだ知らないはずです」
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アルセナの帰りの小舟を、年嵩の艦長は自分の船の甲板から見送っていた。
その夜、艦長は自分の船の水夫のうち七人を船室に集めた。三通目の命令を運んできた船の乗員だった者たちだ。使者の船長も、その中にいた。
「殿下に、全てを話した」艦長は言った。
七人は、黙って艦長を見ていた。
「評議会で、殿下が語る」艦長は言った。「お前たちの本当の名も。お前たちが本国の命令を運び、それを燃やされ、この艦隊に残ったことも」
一人の水夫が、顔をこわばらせた。
「本国に帰れば、命令を運ばなかった罪に問われるのでは」
「問われるかもしれん」艦長は言った。「それでも、語る。語らずに帰れば、お前たちは一生、名を変えたまま生きることになる」
使者の船長が、口を開いた。
「私は、本当の名で帰りたい」使者の船長は言った。「小舟で帰した十四人の家族に、会いに行くために。名を変えたままでは、扉を叩けない」
他の水夫たちは、しばらく顔を見合わせていた。やがて、一人ずつ頷いた。
────
その頃、豪州基地の交渉の場では、十六夜が荷揚げの帳面を整理していた。
ナサが、部屋に入ってきた。
「殿下。帰る。決めた。かもしれない」ナサは言った。
十六夜は、手を止めた。
「どうして分かるの」
「エイカ。甲板。静か」ナサは言った。「手紙。来た。のに。静か。殿下。船室。出ない。艦長たち。一人ずつ。入る」
十六夜は、窓の外の沖を見た。「エイカ」の帆柱が、夕日を受けて黒く立っていた。
「殿下が帰ったら」十六夜は言った。「ナサは、通訳として付いていくの」
ナサは、首を振った。
「殿下。本国。言葉。話す」ナサは言った。「通訳。要らない。殿下。自分。言葉。全部。言う」
十六夜は、しばらくナサの顔を見ていた。
「それが、一番いいことなのね」十六夜は言った。
「一番。いい。でも。少し。寂しい」ナサは言った。
扉が開いて、赤城が入ってきた。白瀬も一緒だった。二人とも、荷揚げの報告を受けに来たところだった。
十六夜が、ナサの話を伝えた。
赤城は、窓の外の「エイカ」をしばらく見ていた。
「殿下が帰ると決めたなら」赤城は言った。「こちらがすることは、一つだけだ」
「何ですか」白瀬が聞いた。
「湾口を、殿下が帰れる海のままにしておくことだ」赤城は言った。「帆を畳んだ海を、また帆を上げなければならない海に戻さないこと」
白瀬は、手帳を開いた。何かを書きかけて、手を止めた。
「殿下の艦隊が湾口を離れたら」白瀬は言った。「この浜から、あの帆柱が消えますね」
赤城は、何も答えなかった。十六夜も、ナサも、黙って沖の帆柱を見ていた。半年以上、そこにあるのが当たり前だった帆柱だった。
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その夜、アルセナは船室で一人だった。
机の上に、三つのものがあった。ゲラードの手紙。記録の綴り。そして、レナが書き留めた艦長の言葉。十四の名が書かれた頁。
アルセナは、筆を取った。
ゲラード殿。
今度は、先が書けた。
三通目の命令を、私は受け取っていません。ですが、受け取らなかったことは、私の艦隊がしたことです。その命令を燃やした者も、使者の船を沈めた者も、私の下にいました。
私が覚えていないことを、私の艦長が覚えていました。それを、私が評議会で語ります。艦長も、共に参ります。三通目の命令を運んだ船長も、本当の名で参ります。
小舟で本国へ帰したという十四人の名を、別の紙に記します。この者たちが本国に着いたかどうかを、評議会の記録で確かめていただきたい。ドラフォが北の軍港で名を探しているように。
帰ります。全てを語るために。
アルセナは、筆を置いた。
窓の外で、畳まれた帆が月の光を受けていた。




