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星が重なる日(改訂版)  作者: 橘花


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最後の柱

湾口 捕虜収容区画


天幕が、一張りずつ畳まれていった。


朝の光が、丘の麓に斜めに差し込んでいた。夜露に濡れた天幕の布が、陽を受けて薄く湯気を立てている。鉄条網の向こうでは、湾の水面が静かに光っていた。


杭が抜かれ、綱が解かれ、布が地面に落ちる。豪州軍の兵たちと、残っていた捕虜たちが、並んで作業をしていた。誰が命じたわけでもなく、そうなっていた。


最初は、兵たちだけで始めるはずだった。カーターは、捕虜たちには荷物をまとめさせておくよう命じていた。だが、最初の天幕の杭に兵が手をかけた時だった。中から出てきた捕虜の一人が、反対側の杭を黙って握った。


二人で引くと、杭はすぐに抜けた。


それから先は、自然とそうなった。兵が杭を抜き、捕虜が綱を解く。捕虜が布を畳み、兵がそれを荷車に積む。言葉は、ほとんど交わされなかった。それでも、手の動きは揃っていた。


天幕の布は、船乗りの手で畳まれていった。角と角を合わせ、空気を抜きながら、きっちりと四角に。豪州の兵が畳んだ布は、どこか膨らんで不格好だった。捕虜の一人がそれを見て、黙って畳み直した。兵は少し照れたように笑い、次の布からは捕虜の手元を真似るようになった。


最後の組は、百と十三人だった。この日の夕方、「サフィ」で帰る。


軍曹が、名簿を手に広場を回っていた。一人ずつ顔を確かめ、名簿の名に印をつけていく。三百二十の名のうち、二百七に既に印がついていた。残りは、百十三。


ドラフォは、広場の端に立っていた。


一本の柱の前だった。


────


柱には、刻み目が並んでいた。


天幕の布が取り払われた後も、その柱だけは地面に立ったまま残っていた。兵たちは、他の柱を次々と引き抜いていた。だが、この柱には誰も手をかけなかった。


柱の半ばに、深い印が一つ。その先に、三つ。若い水夫が「ミルテ」で帰る前に刻んだものだった。


その先にも、刻み目は続いていた。別の手で、別の刃で刻まれた跡だった。若い水夫が残していった木の小刀を、誰かが拾って刻み続けていたのだ。


刻み目の深さは、一つずつ違っていた。浅く遠慮がちなもの。力任せに深く彫ったもの。斜めに傾いたもの。一人の手ではなかった。


ドラフォの横に、一人の捕虜が立った。若い水夫の隣の寝台にいた男だった。三十日目の夜、一晩じゅう鉄条網の前で北の海を見張っていた男でもある。


「誰が刻んだ」ドラフォが聞いた。


「この天幕にいた者が、順番に」男は言った。「一日に一人ずつ。あの小刀を回して、朝起きた者から刻みました」


男は、刻み目の一つを指差した。


「これは、塩田の村の男です。『オーレン』で帰りました」


次の一つ。


「これは、私です」


次の一つ。


「これは、昨日。一番若い砲手見習いが刻みました。十五だそうです」


ドラフォは、刻み目を一つずつ目で追っていった。それぞれに、刻んだ者の顔があった。


隅には、離れて小さな印が一つ。ヨアンの印だった。


その印だけは、誰も上から刻み直していなかった。周りの刻み目は、日に日に増えていった。それでも、隅の小さな印の周りだけは、指一本分の隙間が空けられていた。


「あの印には、誰も触れませんでした」男は言った。「砲術長が刻んだものだと、皆が知っていましたから」


ドラフォは、しばらく黙っていた。


「これを、船に積む」ドラフォは言った。


カーターが、通訳の兵を通して聞いた。


「柱を、ですか」


「この柱を」ドラフォは言った。「本国へ持って帰る」


通訳の兵が、その言葉を伝えた。カーターは、しばらく柱を見ていた。


刻み目の列を、カーターは上から下まで目で辿った。その一つ一つが、この広場で過ごされた一日だった。投降した日から、今日まで。自分の部下たちが見張り台に立ち続けた日々と、同じ数の刻み目だった。


「一つ、聞いてもいいですか」カーターは言った。「本国で、この柱をどうするんです」


ドラフォは、少し考えた。


「北の軍港に、鍛冶屋の老人がいる」ドラフォは言った。「その老人の孫の印が、この柱にある。老人に、見せる」


通訳の兵がそれを伝えると、カーターはゆっくりと頷いた。


それから、部下を二人呼んだ。


────


柱は、地面に深く埋め込まれていた。


天幕を支えるための柱だった。強い南風にも倒れないよう、兵たちが設営の時に深く掘って埋めたものだ。根元は、乾いた土に固く締めつけられていた。


兵たちがスコップで根元を掘り始めた。ザク、ザクと土を削る音が広場に響いた。


捕虜たちが、手で土をかき出した。スコップは、二本しかなかった。残りの者は、素手で掘った。爪の間に土が入るのも構わず、指で土を崩し、両手ですくって脇へ寄せた。


「刃を当てるな」ドラフォが言った。「刻み目に、傷をつけるな」


その言葉が伝わると、スコップを持った兵たちは、柱から少し離れた場所を掘るようになった。柱のすぐ周りは、捕虜たちの素手に任された。


腰の深さまで掘り下げた時、柱の根元が見えてきた。土に埋まっていた部分は、湿って黒ずんでいた。


やがて、柱がぐらりと傾いた。


倒れかけた柱を、何本もの手が受け止めた。灰色の袖の手と、擦り切れた本国の服の手。


柱は、思ったよりも重かった。受け止めた手が、一瞬だけ沈んだ。隣の手が、さらにその下に入った。後ろから、もう一本の手が加わった。


「ゆっくり」カーターが言った。


「ゆっくり」ドラフォが言った。


二つの言葉が、ほとんど同時に重なった。意味は、通訳を介さなくても同じだった。


ゆっくりと、柱は地面に横たえられた。


刻み目の並んだ面が、空を向いていた。


広場に、短い沈黙が落ちた。柱を囲んだ者たちは、誰もすぐには手を離さなかった。


────


荷車に布を積み終えた兵たちが、広場の隅で一息ついていた。


その中に、署名の日に弾倉を抜いた若い兵がいた。若い兵の前に、本国の少年が一人立っていた。柱に昨日の刻み目を入れた、十五の砲手見習いだった。


少年は、若い兵の上着の袖を指差した。袖口のボタンが一つ、取れかけて糸でぶら下がっていた。


少年は、自分の懐から針と糸を取り出した。帆を縫う太い針だった。身振りで、袖を出せと示した。


若い兵は、戸惑いながら袖を差し出した。少年は、慣れた手つきでボタンを縫いつけた。帆を縫う時と同じように、糸を二重にして、きつく締めた。


「ありがとう」若い兵は言った。


少年には、その言葉は分からなかった。それでも、若い兵の顔を見て、少しだけ笑った。


若い兵は、ポケットを探った。出てきたのは、銃の手入れに使う小さな布切れだった。油の匂いが染みついている。若い兵は、それを少年の手に握らせた。


少年は、布切れを不思議そうに眺めた。それから、大事そうに懐へしまった。


二人とも、それ以上は何もしなかった。少年は荷物をまとめに天幕の跡へ戻り、若い兵は荷車の方へ戻っていった。


────


湾口 浜


「サフィ」は、新しい帆を張っていた。


「エイカ」から贈られた、亡命艦隊の予備の主帆だった。焦げた帆柱の表面は、白い木肌が見えるまで削られていた。


帆柱の削り跡は、まだ新しかった。「あさひ」の工作員たちと「サフィ」の船大工たちが、三日がかりで炭になった表面を削り落としたのだ。白い木肌の上に、ところどころ黒い筋が残っていた。火の跡を、全部は消さなかった。


「サフィ」の船長は、その黒い筋を残させた理由を、誰にも説明しなかった。


ただ、ランプを倒した若い水夫だけは、その黒い筋の前を通るたびに足を止めた。


予備の帆は、本国の帆とは縫い方が違っていた。亡命艦隊の帆は、継ぎ目が細かく、布の端が二重に折り返されている。「サフィ」の水夫たちは、最初はその帆を扱いかねていた。「エイカ」の水夫が二人、帆の張り方を教えに来て、ようやく帆桁に収まった。


柱は、小舟に載せられて「サフィ」へ運ばれた。


小舟一艘では、柱の端が舟べりから大きくはみ出した。二艘の小舟を横に並べ、その上に柱を渡して運ぶことになった。漕ぎ手は、豪州軍の兵と捕虜が半分ずつだった。櫂の拍子が合わず、最初は舟がふらふらと蛇行した。やがて、捕虜の一人が拍子をとる掛け声をかけ始めた。兵たちも、その声に合わせて櫂を引いた。


甲板の上で、水夫たちが綱を掛けて引き上げた。両手に白い布を巻いた若い水夫も、綱を引いていた。


火傷は、まだ治りきっていなかった。綱を握るたびに、若い水夫は顔をしかめた。船長が見かねて綱から離そうとしたが、若い水夫は首を振った。


「この船の柱は、私が燃やしかけました」若い水夫は言った。「この柱くらいは、引かせてください」


船長は、何も言わずに離れた。


柱は、甲板の中央に縛りつけられた。刻み目の面を上にして、綱で何重にも固定された。


浜には、見送る者たちが集まっていた。


アルセナとレナ。赤城と十六夜と白瀬。カーターと部下たち。「あさひ」の乗員たち。そして、ミゼンとナサ。


────


ドラフォは、浜で赤城の前に立った。


二人が向かい合うのは、これが初めてだった。協定の末尾に、赤城の名は書かれていた。ドラフォは、その名を写しの上で何度も見ていた。だが、顔を見るのは初めてだった。


十六夜が、二人の間に立った。


「あの紙に、名を書いた方ですね」ドラフォは言った。


「書きました」赤城は言った。「あなたの名の隣は、まだ空いていると聞いています」


ドラフォは、少し驚いた顔をした。それから、小さく頷いた。


「湾口で、あなた方の基地に砲を向けたことはありません」ドラフォは言った。「ですが、あなた方の町が燃えた戦は、私の艦隊が始めた戦です」


十六夜は、その言葉を訳すのに少しだけ時間をかけた。


赤城は、黙ってそれを聞いていた。


「その戦を始めたのは」赤城は言った。「あなたではなく、遠い机の上だったと聞いています」


「机の上の命令を、海の上で実行したのは私です」ドラフォは言った。


赤城は、しばらくドラフォの顔を見ていた。


「では、その海の上で帆を下ろそうと言われて頷いたのも、あなただ」赤城は言った。「どちらも、あなたの手がしたことです」


十六夜がそれを訳すと、ドラフォは長いこと黙っていた。やがて、深く頭を下げた。赤城も、同じように頭を下げた。


────


ドラフォは、浜でアルセナの前に立った。


「最後の組を、送り届けます」ドラフォは言った。


「一人も落とさずにか」アルセナが聞いた。


「一人も落とさずに」ドラフォは言った。


アルセナは、頷いた。それから、懐から一枚の紙を取り出した。協定の写しだった。自分の名の隣に、空白が残っている。


その紙は、署名の日から一度も懐を離れていなかった。折り目が、柔らかく擦り切れかけていた。


アルセナは、それを畳んだままドラフォに差し出した。


「本国の港で、帆が畳まれたら」アルセナは言った。「書け」


ドラフォは、紙を受け取った。両手で、深く頭を下げた。


レナが、アルセナの半歩後ろに立っていた。ドラフォは、顔を上げるとレナを見た。


「手紙の返事は、書かなかった」ドラフォは言った。


「存じています」レナは言った。


「書く代わりに、来た」ドラフォは言った。「それで、足りただろうか」


レナは、しばらくドラフォを見ていた。


「足りました」レナは言った。


────


ミゼンが、ドラフォの前に来た。


「また会えるか」ミゼンが聞いた。


「分からん」ドラフォは言った。「だが、この海は、もう渡れる海だ」


ミゼンは、海を見た。「サフィ」の白い帆の向こうに、湾口の外の青い海が広がっていた。


「俺が海に落ちた時」ミゼンは言った。「この海の向こうには、何も無いと思っていた。あんたの艦隊も、そう思っていたはずだ」


「思っていた」ドラフォは言った。「今は、違う」


ナサが、本国の言葉で何か言った。短い言葉だった。ドラフォは、少し驚いた顔をしてから、同じ言葉を返した。


「何て言ったんだ」ミゼンが聞いた。


「良い。風。を」ナサは日本語で言った。「船。出る。人。言う。言葉」


ドラフォは、ナサを見た。


「寝返った技師が、船出の言葉を言うのか」ドラフォは言った。


ナサは、本国の言葉で答えた。


「寝返ったのではない。両方の言葉を覚えただけだ」


ドラフォは、何も言い返さなかった。ただ、ナサに向かって、軽く頭を下げた。


────


夕刻、「サフィ」が帆を上げた。


亡命艦隊の白い帆が、本国の船の帆柱で風を掴んだ。バサリと大きく鳴って、帆がいっぱいに膨らんだ。


錨鎖が巻き上げられ、ガラガラと鳴った。船体が、ゆっくりと動き始めた。


甲板の手すりに、最後の組が並んでいた。その足元に、一本の柱が綱で縛りつけられていた。


手すりに並んだ男たちの中から、歌が聞こえ始めた。帆を縫う時の古い歌だった。一人が歌い出すと、次々に声が重なっていった。


「あさひ」の甲板では、乗員たちが舷側に整列していた。


「帽振れ」


号令がかかると、乗員たちは一斉に帽子を取り、頭上で大きく振った。


「サフィ」の甲板の男たちは、最初、それが何を意味するのか分からなかった。灰色の服の男たちが、揃って帽子を振っている。やがて、誰かが手すりから身を乗り出して、手を振り返した。


「エイカ」の帆柱には、信号旗が掲げられていた。航海の無事を祈る旗だった。


浜でも、皆が手を振っていた。カーターの部下たちも、軍曹も、通訳の兵も。白瀬も、控えめに片手を上げていた。


ドラフォは、船尾に立っていた。浜の方を振り返らなかった。


懐の中に、協定の写しがあった。アルセナの温もりが、まだ紙に残っているような気がした。


「サフィ」は、湾口の外で向きを変えた。


湾口の外に出ると、南風が帆を強く押した。船足が、ぐんと速まった。


ドラフォの横に、隣の寝台の男が来た。手すりに肘をついて、遠ざかる湾口を眺めていた。


「あの小刀は、持ってこなかったのか」ドラフォが聞いた。


「置いてきました」男は言った。「柱を掘った穴の底に」


ドラフォは、男を見た。


「柱は本国へ帰る」男は言った。「だが、刻んだ刃まで持って帰ったら、あの広場には何も残らない。あそこで待っていた日は、あそこに置いてくるべきだと思いました」


「誰かが拾うかもしれん」ドラフォは言った。


「拾われたら、それでいい」男は言った。「あちらの民の誰かが、あれを見て何かを思うなら」


ドラフォは、何も言わなかった。


甲板の中央で、柱が綱に縛られたまま静かに揺れていた。刻み目の並んだ面に、夕日が斜めに当たっていた。刻み目の一つ一つに、小さな影ができていた。


────


「サフィ」の帆が水平線の向こうへ消えるまで、浜の者たちは誰も動かなかった。


最初に口を開いたのは、白瀬だった。


「三百二十人」白瀬は言った。「全員、船に乗りました」


「乗っただけだ」赤城は言った。「着くまでは、まだ分からない」


「分かっています」白瀬は言った。「それでも、記録しておきたいと思いました」


白瀬は、手帳を開いた。一行だけ書いて、すぐに閉じた。何を書いたのか、赤城は聞かなかった。


アルセナが、赤城の横に来た。


「帆を畳むと書いた紙の上で、初めて人が動きました」アルセナは言った。


十六夜は、少し離れた場所にいた。それでも、アルセナの言葉は赤城に届いた。この数か月で、アルセナの日本語は通訳を要しない場面が増えていた。


「紙の上の言葉が、人を海の向こうへ運んだ」赤城は言った。


「次は、何を運びますか」アルセナが聞いた。


赤城は、湾口の外の海を見た。


「まずは、塩と布でしょう」赤城は言った。「通商の協定は、もう結んであります。帆を畳んだ海なら、荷を積んだ船が通れる」


アルセナは、小さく笑った。


「戦の後に、塩と布」アルセナは言った。「悪くない順番です」


────


ミゼンとナサは、浜に残っていた。


他の者たちが引き上げた後も、二人は波打ち際に座っていた。日が沈みかけ、湾の水面が橙色に染まっていた。


「行っちまったな」ミゼンが言った。


「行った」ナサは言った。「全部。三百二十。全部」


ミゼンは、砂の上に指で線を引いた。一本、二本、三本。


「何だ、それ」ナサが聞いた。


「刻み目だ」ミゼンは言った。「俺も、何か数えてみたくなった」


「何。数える」


ミゼンは、しばらく考えた。


「次にあいつらと会う日までの日数、かな」ミゼンは言った。「いつになるか分からないから、終わりの印は入れられないけど」


ナサは、ミゼンの引いた三本の線の隣に、一本だけ線を足した。


「数える。人。待てる」ナサは言った。


波が寄せてきて、四本の線を半分だけ消していった。


────


湾口 捕虜収容区画


天幕は、一張りも残っていなかった。


鉄条網も、半ばまで巻き取られていた。見張り台の上には、もう誰も立っていなかった。


広場の地面には、天幕の跡が四角く残っていた。草の生えていない、踏み固められた土の四角だった。二十四の四角が、整然と並んでいた。


その一つ一つに、人が寝起きしていた。歌があり、喧嘩があり、日を数える刻み目があった。


広場の端に、穴が一つ開いていた。柱が抜かれた跡だった。


十六夜は、その穴の前に立っていた。


浜での見送りを終えた後、十六夜は一人で丘を登ってきた。誰に頼まれたわけでもなかった。ただ、ここを見ておきたかった。


穴の縁には、素手で掘った跡が残っていた。指の形にえぐれた土が、いくつも並んでいた。


一年前、十六夜はあの民の言葉を、音として聞いていた。意味の分からない音の連なり。それを記号に分け、規則を探し、少しずつ言葉に変えていった。


あの民も、同じことをしていたのだろう。日本の言葉を、音から言葉に変えていった。ナサの片言も、ミゼンの日本語も、その道の途中にある。


そして、この広場の男たちは、言葉の代わりに刻み目を残していった。


穴の底に、木の匙が一本落ちていた。先が丸くなるまで削られた、小さな刃だった。


柱を掘り起こす時に、誰かの懐から落ちたのだろう。あるいは、わざと置いていったのかもしれない。十六夜には、どちらとも分からなかった。


十六夜は、穴の傍らにしゃがみ込んだ。


穴の壁に、柱の跡が残っていた。四角く削れた土の面に、木目の模様がうっすらと写っている。長い間、そこに柱が立っていた証だった。


丘の下から、鉄条網を巻き取る音が聞こえてきた。カラカラと乾いた音だった。明日には、この広場はただの空き地に戻る。


十六夜は、それを拾い上げた。


手のひらに載せると、驚くほど軽かった。この軽い刃が、何十人もの手を渡り、何十もの日を刻んだ。


それから、穴を土で埋めた。

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