艦長の沈黙
数日後 評議会場 調査委員会
召喚状に応じ、一人の男が委員会の前に立っていた。
先日、緩衝地帯で示威行動を行った艦の艦長だった。名を、ドレクといった。眼光の鋭い壮年の男だった。
議場には、これまでの調査の経緯が既に詳細に記録されていた。ロウデンの証言、バルドー将軍の証言、セドリックの告白。その全てが、この場に、積み上げられていた。今回の証人が、その延長線上にある存在であることを誰もが感じ取っていた。
「ドレク艦長」ゲラードが言った。「なぜ、緩衝地帯に無断で進入した」
ドレクは、その問いにまっすぐゲラードを見返した。
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「無断ではない」ドレクは言った。「私は正当な任務として、あの海域に赴いた」
「正当な任務、とは」ゲラードが聞いた。
「巡視だ」ドレクは言った。「湾口周辺の海域を警戒するのは、艦隊の通常の任務に含まれる」
三人目の評議員が、資料を確認しながら口を挟んだ。
「あなたの艦の、通常の巡視区域は」その評議員が聞いた。「どの範囲に、定められていますか」
「湾口の、南側です」ドレクは言った。「今回、その範囲を多少逸脱しました」
「多少、というのは」その評議員が更に聞いた。「どの程度の逸脱ですか」
「かなりの、逸脱です」ドレクは、しばらく間を置いてから認めた。
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「あの海域は」ゲラードは言った。「既に緩衝地帯として正式に定められている。巡視の対象には含まれないはずだ」
ドレクは、しばらく沈黙した。
「知らなかった」ドレクは、やがて言った。「正式な通達を受け取っていなかった」
「知らなかった、というのは」ファリスが言った。「不自然だ。緩衝地帯の設定は、既に艦隊全体に周知されているはずだが」
議長も、その言葉に頷いた。
「この設定は」議長は言った。「評議会の正式な決定として、各艦隊に、通達されています。周知の徹底は、私自身も、確認しました」
「それでも」ドレクは言った。「私の艦には、届いていませんでした」
「不思議な話ですね」ファリスは言った。「他の全ての艦には届き、あなたの艦にだけ届かなかった、というのは」
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「私の艦には」ドレクは言った。「通達が届いていなかった。それだけだ」
ゲラードは、その答えをしばらく吟味した。
「艦隊司令部の、伝達記録を」ゲラードは、書記官に言った。「確認してくれ。ドレク艦長の艦に、緩衝地帯の通達が正式に送られていたかどうか」
書記官が、資料を確認し始めた。しばらくの沈黙の後、書記官が報告した。
「記録によれば」書記官は言った。「通達は、確かに、送られています。ドレク艦長の艦にも」
議場に、僅かなざわめきが広がった。
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「発光信号で」ゲラードは言った。「交渉、継続、反対、という意思表示を行ったと聞いている。単なる巡視の艦が、なぜそのような政治的な信号を発する必要があった」
ドレクは、その問いに僅かに目を逸らした。
「乗員の中に」ドレクは言った。「独自の判断で、そうした信号を発した者がいたのかもしれない」
「独自の判断、というのは」ゲラードが言った。「艦長であるあなたの指示ではなく、ということか」
「そうだ」ドレクは言った。「私は、その信号を発するよう命じていない」
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「では」ゲラードは言った。「誰が、その信号を発したのか」
ドレクは、しばらく答えなかった。
「分からない」ドレクは、やがて言った。「乗員は多い。誰が実際に、その信号を操作したのかは確認していない」
ゲラードは、その言葉にしばらく沈黙した。
「艦の、通信記録は」ゲラードが聞いた。「確認できるか」
「通常は」ドレクは言った。「記録を、残しています。ですが、今回のあの信号については——記録が見当たりませんでした」
「見当たらない、というのは」ファリスが言った。「消去された、ということですか」
ドレクは、その問いに何も答えなかった。
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「あなたの証言には」ゲラードは、静かに言った。「矛盾が多い。通達を受け取っていなかったと言いながら、実際は、届いていた。政治的な信号の意味を、あなたが把握していないというのも不自然だ」
ドレクは、その指摘に何も答えなかった。
議場に、重い沈黙が、続いた。誰もが、ドレクの次の言葉を待っていた。
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「本当のことを話してほしい」ゲラードは言った。「この場での証言は記録に残る。もし、隠し事があれば後に必ず明らかになる」
ドレクは、しばらく沈黙を続けた。その表情には迷いが色濃く浮かんでいた。
議長が、静かに口を挟んだ。
「ドレク艦長」議長は言った。「あなたが今日、この場で話さなければ——他の証言や記録から真実が明らかになることもあり得ます。その場合、あなたの、この場での沈黙が不利に働くことも考えられます」
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「一つだけ」ドレクは、やがて言った。「言えることがある。私は命令を受けた」
議場に緊張が走った。
「誰の、命令だ」ゲラードが聞いた。
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ドレクは、その問いにしばらく答えなかった。それから深く息を吐いた。
「今日は、これ以上話せない」ドレクは言った。「時間をいただきたい」
ゲラードは、その言葉に疑わしげな視線を向けた。
「時間を稼ごうとしているのか」ゲラードは言った。
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「そうではない」ドレクは言った。「ただ——私にも守るべきものがある。それを整理する時間が必要なだけだ」
「守るべきもの、とは」ファリスが聞いた。
ドレクは、その問いにしばらく答えなかった。
「今は、言えません」ドレクは言った。
議長が、しばらく考え込んだ。
「一日だけ」議長は言った。「猶予を与えます。ですが、明日には全てを話していただきます」
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その日の夜 都 ドレクの宿舎
ドレクは、一人、部屋の中で机に向かっていた。
机の上には、家族の写真が置かれていた。妻と、まだ幼い、二人の子供。ドレクは、その写真をしばらく見つめ続けていた。
窓の外には、夜の静けさが広がっていた。ドレクは、しばらく、その闇を見つめていた。
そこへ、扉を叩く音が響いた。
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「誰だ」ドレクが警戒したように聞いた。
「私です」扉の外から声が返ってきた。「話があります」
ドレクは、しばらく迷った末、扉を開けた。そこには見知らぬ一人の男が立っていた。フードを目深に被り、顔ははっきりと見えなかった。
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「お前は」ドレクが聞いた。
「詳しい素性は明かせません」男は言った。「ですが、あなたに伝えたいことがあります。明日の証言を控えてください」
ドレクは、その言葉に目を細めた。
「なぜ、そんなことを、言う」ドレクが聞いた。
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「あなたが話せば」男は言った。「多くの人間が困ることになります。あなた自身も——例外ではありません」
ドレクは、その言葉にしばらく沈黙した。
「私自身が、困る、というのは」ドレクが聞いた。「どういう、意味だ」
男は、その問いにしばらく答えなかった。
「あなたの、家族のことを」男は、やがて言った。「私たちはよく知っています」
ドレクの体が僅かに強張った。
「妻と二人の子供」男は続けた。「毎朝、決まった時間に家を出て、市場へ買い物に行くようですね。長女は、来月学校へ上がる予定だとか」
その詳細さに、ドレクの顔から血の気が引いた。
「なぜ、それを」ドレクが声を震わせながら聞いた。
「私たちは」男は言った。「知ろうと思えば、何でも、知ることができます。それだけ、覚えておいてください」
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「脅しか」ドレクが言った。その声には、抑えきれない怒りが、滲んでいた。
「忠告です」男は言った。「賢明な判断を期待しています」
「家族を盾に取るとは」ドレクは、低い声で言った。「卑劣なやり口だ」
男は、そう言い残すと、静かに暗闇の中へと姿を消した。
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ドレクは、しばらく、その場に立ち尽くしていた。拳が、震えていた。怒りと恐怖が入り混じった複雑な感情が、その胸の内で渦巻いていた。
それから部屋の中に戻り、机の引き出しを開けた。中から一枚の書類を取り出した。
その書類には、あの日彼が受けた指示の詳細が記されていた。
ドレクは、その書類をしばらく見つめ続けた。家族の写真と、その書類を交互に見比べた。
「守るべきものは」ドレクは、独り言のように、呟いた。「家族だけじゃない」
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翌朝 評議会場 調査委員会
ドレクが、再び委員会の前に姿を現した。
その表情には、昨夜とは違う決意めいたものが浮かんでいた。目の下には、隈がはっきりと見て取れた。おそらく、一晩中、眠れなかったのだろう。
「昨夜」ドレクは言った。「私のもとに一人の男が訪れました。証言を控えるよう脅されました」
議場に動揺が広がった。
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「その男の正体は」ゲラードが、すぐに聞いた。
「分かりません」ドレクは言った。「顔も、はっきりとは、見えませんでした。ですが、その脅しを受けて——私は決めました。全てを話す、と」
「脅されて、それでも話す、という決断は」議長が言った。「容易では、なかったでしょう」
「容易では、ありませんでした」ドレクは言った。「ですが、脅されて黙り続けることは、私の軍人としての誇りが許しませんでした」
「家族の安全は」ファリスが心配げに聞いた。「大丈夫なのですか」
「基地の、警護部隊に」ドレクは言った。「昨夜のうちに、保護を、要請しました。今は、安全な場所に匿われています」
「賢明な判断です」議長が言った。「これからも必要であれば、評議会として、あなたとご家族を保護します」
ドレクは、その言葉に深く頭を下げた。
「感謝します」ドレクは言った。
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ドレクは、懐から一枚の書類を取り出した。
「これが」ドレクは言った。「あの日、私が受けた命令書です」
ゲラードは、その書類を受け取り目を通した。その表情がみるみる険しくなった。
「これは」ゲラードは言った。「バルドー将軍の名だ」
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議場に静まり返るような沈黙が落ちた。
「バルドー将軍が」ファリスが驚いたように聞いた。「既に処分の対象となっている、あのバルドー将軍が」
「そうだ」ドレクは言った。「私は、バルドー将軍から直接指示を受けました。証言外交への抵抗の意志を示すよう命じられました」
「その指示を」三人目の評議員が聞いた。「あなたは、なぜ、受け入れたのですか」
「バルドー将軍は」ドレクは言った。「私の、かつての上官でした。長年の、恩義があります。断ることは、できませんでした」
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「バルドー将軍が」ゲラードが言った。「まだ独自の影響力を行使していた、ということか」
「そうかもしれません」ドレクは言った。「彼は処分を待つ間も、まだ艦隊の中に一定の支持者を持っていました」
ゲラードは、その言葉に深く息を吐いた。
「これは」ゲラードは言った。「単なる、個人の問題ではない。組織の中に、まだ根強く残る影響力の問題だ」
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「あなたを脅した男も」ゲラードが言った。「バルドー将軍の関係者だと考えられる」
「その可能性が高いです」ドレクは言った。「ですが、その男の正体までは、私にも分かりません」
「引き続き」議長が言った。「その男の身元についても、調査を続ける必要がありますね」
「はい」ゲラードは言った。「この件は、まだ終わっていない」
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その日の夕方 都 バルドーの拘留所
ゲラードは、拘留中のバルドーのもとを訪れた。
質素な、拘留室だった。バルドーは、その一角で静かに座っていた。かつての堂々とした将軍の面影は、そこには既になかった。
痩せた、頬。落ち窪んだ、目。この数週間の拘留生活が、その体に確かな痕跡を残していた。
「ドレク艦長が」ゲラードは言った。「証言した。あなたが彼に直接指示を出していたと」
バルドーは、しばらく沈黙した。それから、静かに、顔を上げた。
「ゲラード評議員」バルドーは言った。「あなたが直接、ここへ来るとは思わなかった」
「あなたの、事件は」ゲラードは言った。「私が、担当している。当然のことだ」
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「否定は、しない」バルドーは、やがて言った。「私は、まだ艦隊の中に一定の影響力を持っていた。それを使った」
「なぜ」ゲラードが言った。「処分を待つ身でありながら」
「証言外交に」バルドーは言った。「最後まで抵抗したかった。それが、私の最後の意地だった」
「意地、というのは」ゲラードが言った。「誰のための、意地だ。本国のためか。それとも、あなた自身の誇りのためか」
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バルドーは、その問いにしばらく考え込んだ。
「分からない」バルドーは、やがて言った。「もう、自分でも、その境界が分からなくなっていた」
「ドレク艦長の家族を脅すよう指示したのか」ゲラードが鋭く聞いた。
バルドーの表情が初めて大きく揺らいだ。
「まさか」バルドーは言った。「家族を脅すなど——そこまでは私は決して指示していない」
「だが」ゲラードは言った。「あなたの指示を受けた者たちが、そこまで、暴走した。その責任は、どこにあると思う」
バルドーは、しばらく沈黙した。その顔には、明らかな動揺があった。
「私に、ある」バルドーは、やがて言った。「私が、あの指示を出さなければ、こんなことにはならなかった」
「そこまでは」バルドーは、続けて言った。「私は、指示していない。それは——私の、関知しないところで、行われたことだ」
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「では」ゲラードが言った。「誰が、その脅しを、実行したのか」
「分からない」バルドーは言った。「私の指示を受けて動いていた者たちの中に、独自の判断でそこまでやった者がいたのかもしれない」
「その者たちを」ゲラードが言った。「教えてほしい」
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バルドーは、しばらく沈黙した。
「その意地が」ゲラードは言った。「多くの人間を危険に晒した。ドレク艦長も脅された。使節団の代表も脅された。あなたの身勝手な抵抗が、多くの人間を巻き込んでいる」
バルドーは、その言葉に深くうつむいた。
「私は」バルドーは言った。「まだ間違った道を選び続けていた。この期に及んでも」
「後悔は」ゲラードが聞いた。「していますか」
「している」バルドーは言った。「だが、後悔だけでは何も変わらない。私にできるのは、これ以上被害を広げないことだ」
「では」ゲラードが言った。「協力してくれるか」
「協力する」バルドーは言った。「これ以上、誰かが私のせいで傷つくことは耐えられない」
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「教えてくれ」ゲラードは、繰り返した。「これ以上、誰かが危険に晒される前に」
バルドーは、長い沈黙の後、ようやく口を開いた。
「艦隊司令部の、若い、士官が数名」バルドーは言った。「私に、忠誠を、誓ってくれていた者たちです。彼らが、独自に、動いたのだと思います」
「名前を」ゲラードが言った。
バルドーは、しばらく目を閉じ、それから静かに数名の名を口にした。
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その頃 豪州基地 交渉の場
赤城のもとに、この一連の真相が届いていた。
「バルドー将軍が」赤城は言った。「拘留中も、なお抵抗を続けていたとは」
十六夜が、その報告に目を通した。
「若い士官たちも、関与していたそうですね」十六夜が言った。「その者たちへの、処分も、必要になりますね」
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「証言外交が」十六夜が言った。「一人の男を、どこまでも追い詰めていくのですね」
「追い詰める、というより」赤城は言った。「真実がいずれ明らかになる、という確信を私たちに与えてくれるのだと思う」
「バルドー将軍のような」十六夜は言った。「意地を張り続ける人間にも、いずれ、限界が来るということですね」
「そうだ」赤城は言った。「証言は、いつか必ず真実に辿り着く。時間がかかることもあるが」
十六夜は、しばらく資料をめくった。
「ドレク艦長の、決断も」十六夜が言った。「印象的でした。家族を脅されながらも、最終的には証言を選んだ」
「あの決断には」赤城は言った。「相当な、勇気が、必要だっただろう。証言外交は、こうした名もなき人々の勇気の積み重ねで成り立っているのかもしれない」
「証言外交、という言葉が」十六夜は言った。「本当に多くの人間の決断の物語を生み出していますね」
「そうだな」赤城は言った。「ナサとミゼンの最初の証言から始まった、この流れが、いまこうして多くの人の勇気を引き出している」
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その頃 湾口 護衛艦
ミゼンとナサは、その報せを聞いていた。
「バルドー将軍」ミゼンが、その名を繰り返した。「まだ諦めてなかったんだな」
「そう」ナサが言った。「でも。今。終わった。ドレク。話した。それ。証拠」
「家族を、脅すなんて」ミゼンは言った。「バルドー将軍自身は、そこまで、指示してなかったみたいだが」
「でも」ナサが言った。「それ。言い訳。じゃない。彼。始めた。それ。責任。ある」
カーターが、その会話に、加わった。
「ドレク艦長は」カーターは言った。「家族を危険に晒しながらも、証言することを選んだ。それは、簡単なことじゃない」
「簡単。じゃない」ナサが言った。「でも。選んだ。それ。証言。力」
ミゼンは、その言葉に深く頷いた。
「一人一人の、選択が」ミゼンは言った。「積み重なって、この道が、続いていくんだな」
「そう」ナサが言った。「証言。一つ。次。証言。呼ぶ。それ。連鎖。まだ。続く」
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窓の外には、夕暮れの光が差し込んでいた。
一つの抵抗の芽が、また摘み取られた。だが、その根がどこまで深く張り巡らされているのか、まだ誰にも分からなかった。
証言から交渉へ。そして、この道を脅かそうとする最後の抵抗が、いま静かに終わりを迎えようとしていた。
その先に何が待っているのか、まだ誰にも分からなかった。




