将軍の言い訳
数日後 評議会場 調査委員会
バルドー将軍が、召喚に応じ、委員会の前に立った。
がっしりとした体格の初老の男だった。軍服をきっちりと着込み、背筋を伸ばしている。その姿には、ロウデンとは対照的な揺るぎのなさがあった。恐れている様子は微塵も見せなかった。
長年、艦隊司令部で多くの決断を下してきた男の風格が、その立ち姿に滲み出ていた。委員たちは、その堂々とした態度にかえって警戒を強めているようだった。証拠を突きつけられても動じない者は、簡単には真実を語らないものだと、誰もが経験から知っていた。
「バルドー将軍」ゲラードが言った。「文書係のロウデンが証言した。あなたが、民間人被害の報告を削除するよう指示したと」
バルドーは、ゲラードをまっすぐ見返した。
「その通りだ」バルドーは言った。
議場に、緊張が走った。あっさりとした認めに、委員の何人かが目を見開いた。
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「認めるのか」ゲラードが言った。
「認める」バルドーは言った。「隠す理由はない。私は、正しいと信じてあの指示を出した」
議場の何人かが、その即答に戸惑いを見せた。事前に想定していた言い逃れや否認の展開とは、まったく違う反応だった。
三人目の評議員が、隣の者に小声で囁いた。
「随分と、あっさり認めたな」その評議員は言った。
「不思議なものだ」隣の者が答えた。「隠そうとする者は大抵、最後まで抵抗するものだが」
ゲラードは、その反応にも動じなかった。むしろ、その堂々とした態度こそが、まだ何かを隠している証拠だと言わんばかりにバルドーを見据え続けていた。
「正しい、と」ファリスが言った。「民間人の死を隠すことが正しいと」
バルドーは、ファリスに視線を向けた。
「聞いてほしい」バルドーは言った。「あの報告が、そのまま評議会に届けば何が起きたと思う」
議長が、静かに続きを促した。
「聞きましょう」議長は言った。「あなたの、判断の根拠を」
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「何が起きたと」議長が聞いた。
「動揺だ」バルドーは言った。「評議会は揺れる。強硬派も慎重派も感情に流される。冷静な判断ができなくなる。——遠征は、まだ続いていた。艦隊は、まだ戦っていた。その最中に評議会が混乱すれば、艦隊への支援が滞る。それは、前線の兵士たちの命に関わる」
「それは」オルグが、口を挟んだ。「前線の兵士の命を守るために、後方で死んだ民間人を隠したということか」
バルドーは、その言葉に少し間を置いた。
「そう聞こえるだろう」バルドーは言った。「だが、私の立場からは、そう見えたのだ。艦隊への支援が途絶えれば、更に多くの兵士が死ぬ。私は、その将来の犠牲を防ごうとした」
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バルドーは、オルグに目を向けた。
「そうだ」バルドーは言った。「厳しく聞こえるかもしれない。だが、私は艦隊司令部の副司令官として、常に大局を見る立場にあった。個々の悲劇に、心を動かされてはいられなかった」
「大局、というのは」ファリスが言った。「便利な言葉だ。都合の悪い事実を、その言葉一つで片付けられる」
「片付けたわけではない」バルドーは言った。「私は忘れていない。あの十一人の名前も、被害の詳細も、全て記憶している。ただ、それをあの時点で評議会に伝えることが最善だとは思えなかった」
三人目の評議員が身を乗り出した。
「あなたは」その評議員は言った。「その十一人の名前を、覚えていると仰った。それは証明できますか」
バルドーは、しばらく目を閉じた。それから、一人一人の名を静かに口にし始めた。
老人の名前。女性の名前。子供の名前。一つ一つ、淀みなく、語られていく。議場の誰もが、その言葉に、耳を傾けていた。
「暗記していたのですね」その評議員は、驚いたように言った。
「毎晩、思い出していた」バルドーは言った。「忘れることは、許されないと思っていたからだ」
ファリスが、その様子をじっと見つめていた。
「その暗記が」ファリスは言った。「あなたの罪の重さを、軽くするとは思いません。ですが、少なくともあなたが、あの十一人を単なる数字として扱っていたわけではないことは伝わりました」
「数字として、扱ったことは、一度もない」バルドーは言った。「だからこそ、報告書からその名を消すという行為が、これほど私の心に重くのしかかったのだと思う」
「それでも」オルグが言った。「消した。その事実は、変わらない」
「変わらない」バルドーは、静かに頷いた。「どれほど名前を覚えていようと、報告書からその名を消したという事実は消えない」
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「最善だと思えなかった、というのは」議長が聞いた。「あなた個人の判断だったということですか」
「私個人の判断だ」バルドーは言った。「誰の指示も受けていない。私が決めた」
議場が、静まり返った。
ゲラードが、その言葉を注意深く聞いていた。
「あなた個人の判断、と」ゲラードは言った。「では、なぜ、ロウデンに書面ではなく口頭で指示したのか。記録に残らない形で」
バルドーは、その問いに僅かに視線を逸らした。
「答えられないのか」ゲラードが、重ねて聞いた。
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バルドーは、しばらく沈黙した。
「それは」バルドーは言った。「——正直に言えば、後ろめたさがあったからだろう」
「後ろめたさ」ゲラードが、その言葉を繰り返した。
「自分の判断が正しいと信じていた」バルドーは言った。「だが、同時に、それを堂々と書面に残す勇気はなかった。矛盾している、と自分でも思う」
「矛盾している、という自覚が」ファリスが言った。「あったのなら、なぜ思いとどまらなかったのですか」
バルドーは、その問いにしばらく答えられずにいた。
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ファリスが、静かに口を開いた。
「あなたの信じる正しさと」ファリスは言った。「後ろめたさ。その二つが同時にあったということですね」
バルドーは、しばらく答えなかった。
「そうだ」バルドーは、やがて言った。「私は、この評議会の混乱を避けたかった。それは、嘘ではない。だが、同時に、あの十一人の死をなかったことにするようで——毎晩眠れなかった。ロウデンだけではない。私も、そうだった」
「眠れない夜を、どう過ごしたのですか」ファリスが聞いた。
「窓の外を、見ていた」バルドーは言った。「都の灯りを。この灯りの下に住む人々は、あの十一人のことを、知らない。私だけが、知っている。その孤独が、重かった」
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オルグが、口を開いた。
「その眠れない夜の中で」オルグは言った。「一度でも、真実を評議会に伝えるべきだと思わなかったのか」
バルドーは、オルグを見た。
「思った」バルドーは言った。「何度も。だが、遠征は続いていた。艦隊は、まだ戦っていた。その最中に真実を告げれば、艦隊への支援が揺らぐ。私は、それを恐れた」
将軍という立場にありながら、その声には隠しきれない疲労が滲んでいた。半年以上抱え続けてきた重荷が、この場で初めて言葉として吐き出されようとしていた。
「その恐れは」オルグは言った。「誰のための恐れだったのか。前線の兵士のためか。それとも、あなた自身の立場を守るためか」
オルグの問いは、鋭かった。議場の誰もが、その問いの重みを、感じ取っていた。
バルドーは、その問いにしばらく目を閉じた。過去の記憶を、たどっているようだった。
「あの頃」バルドーは、やがて言った。「艦隊司令部には、連日、前線からの損耗報告が届いていた。負傷者の数、戦死者の数。それを見るたびに、私はこの戦争を少しでも早く、有利な形で終わらせなければならないと思っていた」
「有利な形、というのは」オルグが聞いた。
「本国にとって、有利な形だ」バルドーは言った。「遠征を継続し、あの海を制圧すれば、この戦争は終わる。それが、当時の、私の信念だった」
「その信念のために」オルグが言った。「民間人の死を、隠したということか」
「そうだ」バルドーは言った。「私は、あの信念が、正しいと思っていた。だが、いま思えば、その信念そのものが間違っていたのかもしれない」
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バルドーは、その問いにしばらく答えなかった。
「両方だ」バルドーは、やがて言った。「正直に言えば、両方だったと思う。前線の兵士のためだと自分に言い聞かせながら、同時にこの判断の責任を問われることを恐れていた」
その告白に、議場が静かになった。
「今は」ファリスが聞いた。「その判断を後悔していますか」
バルドーは、しばらく視線を机に落とした。
「後悔しないと言えば、嘘になる」バルドーは、静かに続けた。「だが、後悔だけでは、あの十一人は戻らない。私にできるのは、これから同じ過ちを二度と繰り返させないことだけだ」
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バルドーは、深く息を吐いた。
「後悔している」バルドーは言った。「あの証言が評議会に届き、休戦が成立した。それを見て、初めて分かった。真実を隠すことより、真実を告げることの方が、この戦争を早く終わらせる力を持っていた、と」
「それに気づくのが」ゲラードが言った。「遅すぎたとは思わないか」
「思う」バルドーは言った。「遅すぎた。あの十一人には、もう届かない。だが、これから先同じ過ちを繰り返させないために、私はこの場で全てを話している」
ゲラードは、その言葉をしばらく吟味するように沈黙した。
「あなたの後悔は」ゲラードは、やがて言った。「本物かもしれない。だが、後悔することと責任を負うことは別の話だ」
「その通りだ」バルドーは言った。「私は、責任から逃げるつもりはない」
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議長が、評議員たちを見渡した。
「バルドー将軍の証言は」議長は言った。「記録に残す。その上で、然るべき処分を検討する必要があります」
バルドーは、頷いた。
「どのような処分も受け入れる」バルドーは言った。「私は、逃げるつもりはない」
三人目の評議員が、口を挟んだ。
「処分の前に」その評議員は言った。「一つ、確認したい。ロウデンへの処分についても、あなたの意見を伺いたい」
バルドーは、少し、目を見開いた。
「ロウデンは」バルドーは言った。「私の指示に従っただけだ。彼に、罪はない。もし、処分するなら、私一人で十分だ」
「その言葉は」議長が言った。「記録に残しましょう。ロウデンの処分を検討する際の、重要な材料になります」
ファリスが、その様子を静かに見つめていた。
「あなたは」ファリスは言った。「部下を守ろうとしている。だが、あの十一人を守ることは、できなかった。その違いに、何を思いますか」
バルドーは、その問いにしばらく沈黙した。
「その通りだ」バルドーは、やがて言った。「私は、部下は守れても、あの十一人は守れなかった。その事実こそが、私の最大の罪だと思う」
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ゲラードは、しばらくバルドーを見つめていた。
「一つだけ」ゲラードは言った。「聞いておきたい。あなたの上には、誰もいなかったのか。この判断を支持した者、あるいは示唆した者は」
バルドーは、その問いに僅かに体を強張らせた。
「なぜ、そこまで、疑う」バルドーは言った。「私は、既に、全てを認めている」
「全てを認めている、と」ゲラードは言った。「だが、その全てが真実かどうかは、また別の話だ」
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バルドーは、しばらく沈黙した。
「いない」バルドーは、やがて言った。「これは、私一人の判断だ。誰も、巻き込みたくない」
ゲラードは、その答えをじっと見つめた。真実か、あるいは誰かを守るための嘘か。それを見極めようとしているようだった。
「『巻き込みたくない』という言葉が」ゲラードは、静かに言った。「気になる。それは、誰かを既に頭に思い浮かべているということではないのか」
バルドーは、その指摘に何も答えなかった。ただ、視線を、床に落としていた。
議長が、その沈黙を静かに見守っていた。
「バルドー将軍」議長が、やがて言った。「もし、あなたが誰かを庇っているのなら、その人物にもいずれ、この委員会の召喚が及ぶことになります。今、あなたが正直に話すことが、結果としてその人物のためにもなる可能性があります」
バルドーは、その言葉にしばらく考え込んだ。
「分かっている」バルドーは言った。「だが、いまはまだ話せない。私自身の心の整理が、まだついていない」
「心の整理、とは」ファリスが聞いた。
「誰かを、名指しすることの、重みだ」バルドーは言った。「その人物にも、家族がいる。地位がある。私の一言で、その全てが、崩れることになる」
「あなたの沈黙が」ゲラードが言った。「既に、その人物を庇う結果になっているとしても、それでもか」
バルドーは、その問いに、答えなかった。
「分かった」ゲラードは、やがて言った。「今日は、ここまでとする」
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その日の夕方 オルグの控室
オルグとファリスは、その日の証言を振り返っていた。
「バルドー将軍は」ファリスが言った。「単独犯行だと言い張っている」
「信じるか」オルグが聞いた。
「半分は」ファリスは言った。「彼の苦悩は本物だと思う。だが、半分は——誰かを庇っているようにも見える」
「私も、同じ印象を持った」オルグは言った。「特に、最後の、あの言葉。『巻き込みたくない』という言い方は、既に庇うべき相手が彼の中にいることを示唆している」
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オルグは、しばらく考えた。
「ゲラードは」オルグは言った。「どう見ている」
「疑っている」ファリスは言った。「あの男は、簡単には納得しないだろう。バルドー将軍の証言だけで、調査を終わらせるつもりはないはずだ」
「まだ、続くということか」オルグは言った。
「続く」ファリスは言った。「証言外交が、まだ終わっていないのと同じように」
ファリスは、しばらく窓の外を見た。
「もし」ファリスは言った。「バルドー将軍が庇っている相手が、評議会の中にいる者だったら。この調査は、更に深いところまで進むことになる」
「深いところまで」オルグは言った。「どこまで、行き着くのか」
「分からない」ファリスは言った。「だが、ゲラードは、行き着くところまで行くだろう」
オルグは、しばらく窓の外を見た。
「もし」オルグは言った。「その庇っている相手が、ゲラード自身の、近しい人物だったら。あの男は、それでも追及を止めないだろうか」
「止めない」ファリスは迷わず言った。「あの男を見ていて、確信したことがある。あの男にとって、血縁や派閥の絆よりも、真実を明らかにすることの方が重い」
「その確信は」オルグが言った。「危険でもある。もし、この調査があの男自身の大切な人間を傷つけることになったら」
「それでも」ファリスは言った。「あの男は、進むだろう。それが、あの男の生き方だ」
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その頃 豪州基地 交渉の場
赤城は、バルドー将軍の証言の詳細を、報告として受け取っていた。
「単独犯行、と主張しているそうだ」赤城は言った。
十六夜が、その報告書に目を通した。
「信じますか」十六夜が聞いた。
「分からない」赤城は言った。「だが、彼の苦悩そのものは演技には見えなかった、とオルグ殿は言っている。少なくともあの十一人のことを忘れていなかった、というのは」
十六夜は、報告書のある一節を指差した。
「十一人の名前を、全て、諳んじたそうですね」十六夜は言った。「これは、確かに演技では、なかなかできないことだと思います」
「そうだな」赤城は言った。「あの男の苦悩は、本物だったのだろう。だが、それでも彼が犯した過ちの重さは消えない」
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「証言外交という言葉が」十六夜は言った。「本国の中でも、少しずつ意味を広げていっていますね。あの海の民との対話だけでなく、本国自身の内側の対話にも」
「そうかもしれない」赤城は言った。「証言は、他者に向けたものだけじゃない。自分自身の過ちに向き合うための力にもなる」
十六夜は、しばらく考え込んだ。
「バルドー将軍の証言が」十六夜は言った。「本当なら、私たちの証言外交への評価にも、影響が出るでしょうね。証言というものが、これほど人の心を動かす力を持つ、という証明にもなります」
「そうだな」赤城は言った。「証言は、両刃の剣だ。都合の悪い事実を明るみに出す力がある一方で、都合の悪い過去を隠し続けることの重さも、それだけ大きくなる」
「もう一つ、気になることがあります」十六夜は言った。「バルドー将軍は、誰かを庇っているようだ、とオルグ殿は言っています。もし、それが本当なら、この調査はまだ終わりません」
「終わらないだろうな」赤城は言った。「一つの真実が、また次の真実への扉を開く。証言というのは、そういうものだ。一度口を開けば、そこで止まることは難しい」
「私たちの、証言外交も」十六夜は言った。「同じ道を、辿ってきましたね。ナサとミゼンの証言が休戦を生み、使節団を生み、そして、いま、この本国内部の隠蔽まで明るみに出した」
「一つの証言が」赤城は言った。「これほど多くのものを動かすとは思っていなかった」
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その頃 湾口 交渉の場
ミゼンとナサは、バルドー将軍の証言を聞いていた。
「単独犯行、か」ミゼンが言った。「信じるか、お前は」
「半分」ナサが言った。「将軍。苦しんでた。それ。本当。多分。でも。全部。一人。それ。分からない」
「誰かを、庇っているかもしれない、ってことか」ミゼンが言った。
「そう」ナサが言った。「でも。ゲラード。諦めない。もっと。調べる。多分」
カーターが、その話に、加わった。
「十一人の名前を、全部、覚えていたそうだな」カーターは言った。
「覚えてた」ナサが言った。「毎晩。思い出した。将軍。言った」
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カーターは、しばらく、考え込んだ。
「それは」カーターは言った。「あの男なりの、罪の償い方だったのかもしれないな」
「償い方」ミゼンが言った。「でも。それだけ。じゃ。足りない」
「足りない」ナサが言った。「隠した。事実。それ。誰か。傷つけた。忘れる。だけ。じゃ。戻らない」
ミゼンは、その言葉に、頷いた。
「証言の力ってのは」ミゼンは言った。「悪いことをした人間の心にも、届くんだな」
「届く」ナサが言った。「でも。届いても。遅い。こと。ある。バルドー将軍。それ。証明」
カーターは、しばらく、考え込んだ。
「もし」カーターは言った。「バルドー将軍が、もっと早く、真実を告げていたら。あの十一人は、まだ、生きていたかもしれないのか」
「分からない」ミゼンは言った。「でも、可能性は、あったかもしれない。もし、もっと早く休戦の話が進んでいたら」
ナサは、しばらく黙っていた。
「たら。れば。考える。苦しい」ナサが言った。「でも。考えない。もっと。苦しい。バルドー将軍。今。それ。感じてる。多分」
ミゼンは、その言葉に深く頷いた。
「後悔って奴は」ミゼンは言った。「一度、感じ始めたら消えないもんだからな」
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窓の外には、夕暮れの光が差し込んでいた。
ナサは、その光をしばらく見つめていた。
「証言。バルドー将軍。それも。証言」ナサが言った。「悪い。こと。話す。それも。勇気。いる」
「そうだな」ミゼンが言った。「証言ってのは、誰かを、告発するためだけのものじゃない。自分自身の過ちを認めるためのものにもなるんだな」
カーターは、その言葉に頷いた。
「証言外交、か」カーターは言った。「最初は、あの海の民のためだけの言葉だと思っていた。だが、いまはもっと大きな意味を持つようになったな」
ナサは、頷いた。
「証言。始まり。小さい。でも。広がる。あの海。本国。今。本国。中。も」ナサが言った。「一つ。証言。多く。もの。動かす」
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バルドー将軍は、認めた。だが、その認めの中に、まだ何かが隠されているように見えた。単独犯行なのか、それとも、もっと大きな意図の一部だったのか。
証言から交渉へ。そして、隠された事実を掘り起こす戦いは、その根をまだ深く辿り続けていた。
その先に何が待っているのか、まだ誰にも分からなかった。




