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6話:始まりの歌
はっきり言って、それは
初めて家族の前で5歳児が歌うには
非凡すぎていたらしい。
歌といっても、この曲には歌詞はない。
メロディだけで楽しむのが
一番曲の良さが際立つと思ったからだ。
そのため、私はル~とかラ~とか
言葉にならない声で歌った。
とても低い重低音から始まるこの曲は
絶望、困惑、不安や憎しみ。
これら全てを凝縮した
魂の叫び様であった。
徐々に闇が晴れていき、曲に陽光がさす。
時々 低く、高くと繰り返し葛藤し
最後には美しい旋律で締め括った。
また、私はいつの間にか
目をつぶっていたらしい。
歌いきった余韻を感じながら瞼をあける。
何故か泣いている家族の姿があった。
困惑し、たたずむ私に両親は近寄り
優しく私を抱きしめた。
この日を境に、私は様々な曲を歌い始める。
しかし、私は知っていた。
この世界では歌をうたうことを
職業としている人がいない事を。
歌を娯楽として、たしなむ風習が
根付いていない事を。
この才能は、お金にはならない事を。




