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30.ヤク草を探せ!

「知らない天丼だ。」


 ふと目を覚ますと横には天丼を持ったアリサが立っていた。


「ヒデキ、朝ご飯持ってきたよ。」


 マジかよ、朝から天丼かよ。この世界の食生活はどうなってるんだ。


「朝から天丼はつらいんですけど。もう少し朝食らしいものを。」


「何年寄りみたいなことを言ってるの!冒険者なんだから朝からちゃんと食べる!」


「こんな朝から大声出してると、他の客から苦情こないか?」


「客はいないから大丈夫だよ。お母さんはまだ寝てるけどこれくらいじゃ起きないし。」


「え?てことは、俺一人の為にわざわざ朝から天丼作ったの?」


 何気に結構うれしいよね、朝食ならパンと飲み物程度で十分なのに手間がかかるもの作ってくれるなんて。


「私の晩御飯の残りだよ。」


 客扱いされてねぇ。


「客0じゃすぐ潰れるんじゃないか?」


「大丈夫。よくわからないけど、一日銀貨5枚の売り上げで店は潰れないってお母さんが言ってた。」


 銀貨5枚か。まぁ、一般的な庶民の月収が金貨1枚程度らしいから、銀貨5枚あれば30日で金貨1枚と銀貨50枚。一人泊まればこの宿はやっていけるのか。家族経営だと宿屋ってかなり儲かりそうだな。


 あれ?俺って素泊まりで銀貨5枚って話しか聞いてないけど、天丼はどんな扱いなんだ?


「なぁ、アリサ。その天丼って料金いくらだ?」


「お母さんが昨日の夜、銀貨1枚で出せって言ってたよ。」


 よかった、客扱いされてた!


「まぁ、いいや。それ食べたら冒険者ギルドへ行こう。アリサも天丼を食べたのか?」


「私は天丼(ざんぱん)じゃなくて普通の朝食を作るから少し待っててね。」


 あれ、気のせいかな。天丼が違う言葉に聞こえたような。なんかもう朝から疲れたから、気にせず飯食ってギルドへ行こう。





 そしてアリサとやってきた冒険者ギルド。


 私に任せてと言って依頼を受けに行ったアリサが最初の仕事に選んだのは、薬草採取かと思いきやヤク草採取だった。


「アリサ、ヤク草ってなんだ?」


「わかんない。薬草と思って受けてきたらヤク草だった。他の薬草依頼は一本銅貨2枚なのに、こっちは一本で銀貨1枚だからおかしいとは思ったんだ。」


 やばい、こいつは本物の馬鹿だった。


「ヤク草とは、成長したら最大2m近くなる草の名前だ。多目的に使えるので常に需要がある草だから覚えておくといい。」


 あ、あなたは!


「おはようございます、Cランクのエリスさん。昨日の夜はお世話になりました。」


「昨日の夜?昼の間違いではないのか?まぁいい。その依頼、私も現地まで一緒に行ってやろう、初仕事としては少し難易度が高い。あと昨日も言ったがエリスでいい、あとCランクもつけるな。あともっと普通に話せ。」


 あとが多いな。


「良いんですか?」


「Bランクに上がる為の評価には後進の指導も含まれるのだ。それに、その依頼を受ける奴は少ないからな。少しでも多くの者が受けられるようになるのが望ましい。」


「アリサもいい?」


「いいよ。」


「それではエリス、ヤク草採取の指導をお願いします。」


「よし。では道すがらヤク草について説明してやる、すぐに出よう。」


 こうして俺とアリサはエリスさん先導の元、ヤク草採取へと向かったのだった。



 


「ところでエリス、Bランクになったら何か良い事あるのか?」


「特に何かが優遇されるということはないが、Bランクからは一流の冒険者扱いになるな。基本的に受けられない依頼は無くなるし、お偉方からの指名依頼も来るようになる。私の場合はお家再興の足がかりになるのがBランク昇格だな。」


「お家再興?」


「そうだ。元々は貴族の家柄だったのだが、祖父が色々とヘマをやらかしてな。お取り潰しになったのだ。」


「苦労してるんだな。」


「否定はできない。いや、私の事より今はヤク草の話だ。」


「そうだな。さっき依頼を受ける人が少ないと言っていたが、ヤク草はそんなに採取が難しいのか?」


「難しい訳じゃないんだが、好んで採取してこようとは思えない。ほとんどの奴らは帰り道に偶然見つけたものを採ってくるだけだ。何しろ大きいからな、それなりのマジックポーチでも持ってないと、数本持ち帰るだけで一苦労だな。」


「不人気な理由はそれか…。」


「そうだな。ヤク草は最低でも高さ1mまで成長したものが採取対象になる。モワモワの葉っぱは乾燥させた後防寒具等の中綿(なかわた)として使われ、茎は食用、樹液は発酵させ照明用の油として使われる。」


 どこぞの高地に生息している羊もどきの家畜みたいな草だな。


「つまり、銀貨一枚を得るためには茎や葉っぱ、樹液を含めて持ち帰らなければいけないと言うわけだな。」


「察しがいいな。ヤク草は需要過多ではあるが嵩張(かさば)る割には値段が安く、常時品薄状態なのだ。だが、このままでは貧乏人の生活に支障が出るため、ギルドとしてはどうしても受けてほしい依頼だったわけだ。」


 そんなことを話しながら街から一番近い森へと到着。先導をしているエリスは草木が生い茂る、道ではない所へ迷わず入って行く。10分ほど草をかき分けながら歩いていくとエリスが立ち止まった。


「こっちだ、運がいいぞ。2m近いヤク草が30本くらい生えている。これなら銀貨2枚で買い取ってもらえるはずだ。」


 そこらへんに生えている薬草とは違い、ヤク草はある程度群生しているが生えている場所はわかりづらかった。分かりやすいところに生えているヤク草は、すぐに採取されるので残らないらしい。確かにこれは最初の依頼としては難易度が高い。


「ここのヤク草は全部取っちゃっても大丈夫なのか?」


「問題ない。雑草並みの生命力で根っ子が残っていればまた生えてくる。では、私はここまでだ。草取りでもいつモンスターに襲われるかわからないからな、注意は怠るなよ。」


 そう言い残してエリスは去っていった。



 さて、さっさとヤク草を採ってしまおう。


 他の奴らなら高価なマジックポーチが必要なんだろうが、俺にはインベントリという強い味方がある。スタックこそしないが、サイズ無視で1個扱いだから30個すべて収納できた。これで安くても銀貨30枚、高ければ銀貨60枚になるはずだ。


 まぁ、アリサと山分けで半分はアリサに持ってかれるんだけどさ。


 ヤク草採取が終わった俺たちが森の外へと出てきたとき、少し離れたところにあった森の中へと続く道からボロボロになった男が一人、転がり出てきた。


 これは、イベント発生の予感だ!





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