23.旅の賢者
「旅の賢者ですか?」
「そうじゃ。ヘルメス様がこの街を捨てると決断された日の夜、フラリと旅の賢者様が辺境伯邸を訪れ、無償で大量のポーションを提供してくれたそうじゃ。」
伝心の使える距離を測るために壁沿いを歩いていたら、倒木に座っている暇そうなおじいさんを発見。話しかけたらこの街に来た時に話をしたおじいさんだったので、そのままこの街の現状を聞くことにした。
「随分と気前の良い方ですね。」
「それだけではないぞ。その賢者様は大量の浪漫コンクリートの提供までしてくれたのじゃ。しかもその浪漫コンクリートが驚くほど高性能でのぅ、ブロックの型枠に流し込んだあと、たったの一晩で乾燥して使えるようになるのじゃ!」
「それはそんなに凄いことなんですか?」
「この凄さがわからんのか!今まで三日三晩かかってた乾燥の工程が一晩で済むのじゃぞ!お陰で、あそこを見よ!既に出来上がったブロックで壁の修復作業が始まったのじゃ!」
「かなり短くなったんですね。」
「さらにじゃ!賢者様は復興にかかる費用の相談にまで乗ってくださってるそうじゃ!」
大迫力で熱弁するおじいさん。そろそろ逃げたい。
「そ、それは凄いですね。」
「うむ!おかげでヘルメス様は、壁の修復の仕事に日当銀貨10枚も出してくださると発表されるし、賢者様とヘルメス様のお陰でフンデルの街は空前の好景気を迎えておるのじゃ。」
その後もじいさんの話は延々と続き、浪漫コンクリートのブロックを作る工程だとか、それにかかる費用だとか、ブロックを積む作業。最後はハンマーで地面を固めるコツなんて話もされた。
どうもこのじいさんは、現場から叩き上げで親方になったタイプの元職人だったらしい。運良く現場の生きた話を聞けたと思うべきか、年寄りの長話につきあわされて大変だったと思うべきか。
だが、これで俺が旅の賢者とバレたら間違いなく面倒なことになることはわかった。ヘルメス様は俺のことを公開するとかいってたが、俺と賢者は無関係って感じで話をつけよう。
そしてもう一つ、防壁工事作業についての詳細がわかったので、必要な費用の算出がある程度できるようになった。
まず、おじいさんの話だと日当が銀貨10枚の割の良い仕事。まぁ、一人の人間が休みなく働くわけじゃないが、人件費的には一月で金貨三枚。
そして、壁の高さは800cm、幅が600cm。
ブロックのサイズは40cm*20cm*10cm(20kg)、結構重い。ちなみにこのブロックは、100個で金貨一枚分の浪漫コンクリートを使用している。ブロックを作る人の人件費が1000個で金貨ニ枚。
一人が一日に積めるブロックの量は30個、一月900個。残念ながら異世界の労働者は普通の人間だったようだ。
幅600cm、奥行き40cm、高さ20cmの壁を作るのに60個のブロックを積む事になるので、高さ8mの壁を40cm作るのに2400個のブロックを積むことになる。
事故や熟練度の差などを考慮して、800個を一人の人間が一月で積める量と仮定。三人で一月に40cmの壁が作れる。
壁の長さが11km。1100000cm。1100000/40*3=82500。
完成までに必要な労働者数は82500人。人件費が金貨247500枚。白金貨で2475枚。基礎にも似たような数のブロックを積むので、予算の白金貨10000枚だと、ブロックを作成するのと堀を作るのを考えると、結構予算はギリギリ。
仕方ない、ここは旅の賢者様が資金調達を考えなきゃ駄目だな。まぁ、足りなくなるのは当分先なので、急ぐことはないけど。
まず俺がやるべきことは、基礎と堀のための穴掘り作業を楽にするための道具作成だな。そんな訳で、俺は鉄製のシャベルとツルハシ、土工用の木槌を買って人気の無い所へ移動。
シャベルとツルハシと木槌は武器と自分に言い聞かせながら、武具作成スキルでの複製を試みる。
三つとも簡単な構造だったため、何とか一時間ほどで複製ができる様になった。そして、俺が武具作成スキルで作った武器には攻撃力1920%アップがのっている。つまりは、
「地面に対する攻撃力も約20倍!」
軽く地面にツルハシを振り下ろすと、まるで地面が豆腐で出来ているかの様に突き刺さる!
「これで穴掘りは簡単にできるな。」
こんな道具を配ったら、旅の賢者の名声は更に高まり、ますますバレるのが怖いな。まぁ、今そんなことを考えても仕方がない。とりあえず今日の目的が達成出来たので、夕方まで街の外でも見に行くかな。
そう思ってあるき出したその先に、新たな出会いが待ち受けていた。




