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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
3章 --刹那を刻むアルヒェエンゲル--
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熱を持つ霧 2

 縦だけでなく横にも大きい、まるで釣鐘でも羽織っているかのような寸胴体系の人型の機械兵。


「ひっ人型の装甲車!」

「こんなのいなかったぞ!?」


 銃撃を放ち破壊しようとするが巨体は見た目通りの重装甲でウーノンの持つ機関銃ですら弾は弾かれる。

 巨体はゆっくりとした動きで歩き部屋を破壊しながらベニユキたちを追う。

 武装は無いようで装甲化され太くなった腕で掌底を放って家具や机を容易く叩き潰す。


「手足の関節部を狙え」


 一撃ごとに建物が揺れる中ウーノンが足元を狙って機関銃を撃つが、それすらも装甲がはじき返す丈夫な装甲。

 しかしその巨体の後に続く槍を持った黒い兵隊たちは脆くベニユキによって破壊された。

 銃声と建物が破壊される音が響き、茶色い土煙が上がる。


「全然通じないぞ! こいつ硬い、ぞろぞろいたやつが脆かったのになんでこいつだけこんなに硬いんだ!」


 背後に回り込んでいたホルテンが剣を持ち巨体に飛び掛かった。

 だが、ぐるりと体をひねりベニユキを狙って放たれていた掌底が向きを変えホルテンを迎え撃つ。

 赤く光る刀身の一本は金属の手のひらに突き刺さるが破壊することはできず、彼の体は壁に激しくぶつかり壁をぶち抜いて奥の部屋に消える。


「ホルテン!」


 ぐるりと向き直り再びベニユキを狙って歩みだす。

 部屋を出で細長い廊下に出るが、巨体は戸も壁も意に返さずに突き進みメリメリと音を立てながら迫ってくる。


「急いで離れろベニユキ」


 機関銃をわきに抱えてウーノンが手榴弾を放り投げた。

 それは巨体の足元へと転がり爆発する。

 ベニユキが狭い建物内で行き場を失った爆風に煽られ転倒した。

 どこか損傷したのか巨体はぐらりと揺れ、手をついて転倒を阻止しようとする。


「効いてる」


 ベニユキは天井すれすれに達していた巨体に対して以上に小さく見える頭が倒れそうになったことで頭を垂れた。

 そこに起き上がったベニユキの銃撃。

 金属の頭は銃撃で損傷し、破壊した頭から体の中へ装甲の内側へと銃弾を注ぐ。

 巨体はブォォと音を立てて蒸気を放つと、そのまま白い煙を吐いて機能を停止し支えていた腕も力を失い床に倒れる。


「鼬の最後っ屁か、熱い何も見えん」

「ホルテンは無事か! おい、ホルテン!」


 室内に充満する蒸気のおかげで何も見えなくなりベニユキは壁伝いに移動しながら、破壊された部屋へと戻り吹き飛ばされたホルテンを探す。


「生きているかホルテン!」

「無事っす、イテテ……やっぱり無事じゃないっす」


 部屋の奥からホルテンの声だけが聞こえてきた。

 声の聞こえてきた方向へと進み瓦礫の中に埋もれるホルテンの姿を見つける。

 歩み寄りベニユキは瓦礫の中からホルテンを引き起こす。


「生きていたか、よかった」

「かっちょいいととこを見せようとしたんすけどね……」


 建物が揺れ近くで銃声が聞こえてきて大きな破壊音が聞こえてきた。


「近場で戦闘か、隣の建物か? 煙で何も見えん」

「行ってください、俺は大丈夫っす」


「すぐ戻ってくる。休んでいてくれ」


 白い視界の中ベニユキは再び壁伝いに移動しウーノンと合流して音の聞こえる方向を探す。

 部屋の蒸気は時間とともに散っていき壁や床はびっしょりと濡れている。


「敵は?」

「たぶん俺たちが今戦ったやつと同じだ、重たい足音と続けざまな建物が壊れる音が聞こえる」


「壁をぶち抜いていけないのか?」

「忘れたのか外はレンガ作りだ。壊せないこともないだろうが弾の無駄だ、危険だが一度外に出た方が早くたす……」


 どうするかウーノンが考えていると壁を叩き割ってバットを持ったキュリルが飛び込んできた。

 急に壊れた壁にウーノンとベニユキが慌てて銃を構えると、飛び込んできたものが金属の塊ではないとわかり攻撃はしなかったが突然のことで驚き固まった。


「おわっ! 壁壊してきた!」


 彼女は着地と同時に転がりスッと立ち上がる。


「あれ、誰かいる」


 転がってくるとキュリルはすぐに立ち上がり躱してきた壁を見て部屋の奥へと進む、その後からアンバーとテオが銃を撃ちながら部屋に入ってきた。


「弾かれる弾かれる、跳弾が怖いねぇ。ひぃ」

「ならあんたは撃つのをやめろ」


 銃撃の先にはバットで何度も殴られたのかボコボコになった体の巨体。

 胸のあたりに赤く光る剣が突き刺さったままになっている。


「離れて、こいつ硬い。弱い攻撃は弾かれる」

「頭を狙え、そこから体の内側を攻撃すれば止まる」


 それを聞きキュリルは踵を返し壁を蹴ってテオとアンバーを飛び越え迫る巨体へと向かう。

 軽やかに着地すると渾身の力でその熱い装甲版を叩く。

 よろけ後ろ向きに倒れそうになり鉄の巨人は手をついて転倒を防ぐ。

 胸に差した剣の柄を握って飛び上がり背後に回り込み傾いた体の上に乗る頭を叩き潰す。

 衝撃は頭から体の奥まで響いていき、蒸気を吹き出すことなく機能を停止した。


「すごいな、何してんだかわからなかったぞ。サーカスとかで働けるんじゃないか?」

「いや、こんなに動けはしなかったんだけど。戦っていくうちに身体能力も上がっている」


 他に敵がいないことを確認しながら、キュリルは倒した巨体の胸に刺さったままの剣を抜きとり戻ってくる。

 アンバーとテオも銃の弾倉を取り換え一息つく。


「2人だけ?」

「向こうの部屋に負傷したホルテンがいる」


「どうして一緒にいないの、生きてるの?」

「ああ、怪我の具合を見ていないが、今倒した奴の同型と戦ってもろに攻撃を受けちまったからな。立てるかどうかもわからない」


 キュリルたちを引き連れホルテンのもとへと向かう。

 すでに屋内の分の蒸気は消え去り湿度の濃い湿った屋内。

 アンバーは倒れた機械の手に刺さったホルテンの持っていた剣を引き抜いた。

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