熱を持つ霧 1
室内はいたって普通の民家で世界特有の多少の物へのデザイン差異はあるが民家の中は生活の痕跡が残ったまま埃が積もり朽ちていた。
建物の中に複数の民家が入っているようでレンガ作りも外観だけ、内装は建物を支える柱以外のほとんどが木造のようで鍵も戸も簡単に壊せ民家の中へと入る。
玄関を入った先にここの民家の入口と上の階に続く階段がありベニユキは一番手前の部屋へと進んだ。
屋内を土足のまま歩き、埃の積もった部屋の奥へと進み入口の方へと銃を向ける。
同じく建物の中に逃げ込んでいた機関銃を抱えたウーノンはベニユキに弾倉を変えながら尋ねた。
「ベニユキか、敵は来ているか?」
「いいや、足音も聞こえない。向かって来たと思ったんだが、ほかの誰かを狙って行ったか? 近くには来ていると思ったんだが」
「相手は何百と居るんだ、全部が全部誰か一人を狙っているとも考えずらい。案外この建物のの外、霧さえなければ見えるような距離で突撃するタイミングを待っているのかもな。それにしても目くらましか、外の様子は何も見えないな」
「窓も水滴で曇ってるよ。蒸気って、こういうのだっけ?」
「水蒸気ではあるな。でも、これはまるで加湿器だな」
「外は何も見えん。他の連中は無事だろうか」
「みんな逃げきれているといいんだが。それより怪我の具合は? さっきの戦いで集中攻撃を受けたんだろ? アインは引き返したようだけど」
「まぁ、腕や足に攻撃を受けた程度だ。痛むが戦えないわけじゃない」
「その銃を扱えるのは頼もしいが、あまり無茶するなよ」
「昨日無茶をしたやつに言われても説得力がないな」
近くで窓が割れる音がしてそちらに銃口を向けるとホルテンが室内に転がりこんでくる。
割れたガラスで軽く頬を切るもそれよりぶつけた頭の方を押さえ、頭をさすりながら立ち上がりホルテンはベニユキたちを合流した。
「ホルテン!」
「てててぇ~……、おー頭打った! あ、ダイジョブっす」
窓の外の注意を向けながらホルテンはベニユキの方へと歩み寄る。
「おー、ベニユキさんと一緒だ。ここにはお二人だけですか?」
「ああ、近場の建物に逃げ込んだと思ったんだがはぐれてしまった」
「人んち壊しちまったんですけど怒られませんかね?」
「まぁ、今までの感じからしてこの世界も持ち主はいないだろうから怒られはしないだろうな?」
「ならよかった。壊してから、やばいかもって思ったんすけど」
「外の状況は? 敵はそこまで来ているか?」
持ってきた荷物の中から水筒を取り出し喉を潤すホルテン。
「いるっすね、この霧の中を槍を構えて隊列組んで進んでるっす。近接戦だったんでキュリルさんと一緒に戦ってたんすけど、すぐに逃げるよう言われここに」
傷が痛むのかウーノンは機関銃を抱えたまま椅子に腰かけ一息つく。
家の外は無音のまま、あえて言うのなら機械たちが蒸気を噴射するシュウシュウという音が小さく聞こえる。
「ホルテン、誰かやられたのを見たか?」
「手元しか見えなかった視界で、どこも真っ白でお互いの位置がわからなかったんすけど。何人かの悲鳴が聞こえました……」
そのまま三人は無言になる。
ふと外から銃声が聞こえてきて三人は武器を構えて外の様子をうかがう。
「誰が戦っている?」
「ああ、声は聞こえないが複数の銃声が聞こえるな」
耳を澄ませ外の音を聞いているとホルテンが飛び込んできた窓から、この世界の敵黒い兵隊が飛び込んできた。
「急に来た!」
二人が銃を構えようとしているとホルテンが剣を抜き赤く光る刀身で機械を両断する。
直後に黒い塊の背負った水の入ったタンクが暴発、部屋の中が真っ白になる。
「すみません! 俺、何も考えずに!」
「言い、どうせ誰かがタンクを撃ち抜いていた」
蒸気で視界が悪くなりベニユキは壁に手をつきながらひとまず奥へと身を隠す。
「みんな居るか?」
「俺は無事っす」
「俺も生きている」
皆の無事を確かめながら奥への部屋へと移動した。
奥まで進み扉が閉まっていたため霧が入ってきていない部屋に入ると、遅れてウーノンとホルテンが入ってくる。
二人とも部屋に入ると額の汗をぬぐう。
「熱い俺ら蒸されてないっすか?」
「ああ、熱いなサウナの様だ。テンメイがアイロンとかそんな話をしていたな。にしても何も見えないのはやばいな」
「でしょう、俺も見えないながらも向かってくる影を頼りに戦ってたんすよ!」
「まぁ、同士討ちの可能性もあるからな。一度仕切り直すために隠れたのはいい判断だったと思う」
ホルテンは剣をしまって持っていた二丁の拳銃を構える。
「……この後はどうするんすか?」
「ずっとここにいるわけにもいかないよな。連絡手段があればいいんだが、箱舟はいつになっても通信機器を用意してくれないな」
奥の部屋に移動し遠くはなったが外からかすかに誰かが戦っているであろう銃声が聞こえてきていた。
「俺らも、外に出て戦うべきだろうか?」
「誰かに戦闘を押し付けて、俺たちだけで目的地へと向かうって方法も考えられるな」
「それは酷いって思うっす!」
「一番最初の世界でグリフィンたちが囮を買って出てくれていたな」
「目的のものを手に入れられれば、一刻も早くこの世界から出ていける。結果的にどっちが犠牲者を減らされるか」
「むぅ……」
奥の部屋でガシャンと音が聞こえベニユキたちと同じ屋内に重たい足音が響く。
「入ってきたか」
「敵の武器は物干し竿くらいの槍でしたよね? 家の中で戦うって不利なんじゃ?」
「相手は機械だぞ、壁とか壊す力があれば別格だろう」
「それもそうか……」
そんな会話をした直後、黒い鉄の塊が壁をぶち破って入ってきた。
「……あれ?」「なんだ、と!?」「くそっ、何だこいつ!」
天井に頭をこすりつけるその巨体に慌てて銃を構え引き金を引く。




