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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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与えられた試練 2

 中央に向かって窪んでいくホールの中央でガブは怪物と戦うベニユキたちを見る。


『ミカ、人では世界を救えない、どうせ私たちのたびは絶望で終わる。他の姉妹とは連絡が取れた? 他の姉妹は私の様に諦めていない?』


 銃声にかき消されガブの声に誰の耳に届くことはなく、彼女の視線の先でベニユキたちが追う怪物は四方からの攻撃に長細い尾が座席を薙ぐ。

 根元からへし折られた座席の綿や金具など飛び散る破片から身を守るため姿勢を低くする。


「痛い、飛んできた破片で頬切った」

「大丈夫かテンメイ、目には当たらなかったか?」


「頬だって、目は無事。でも銃弾全然聞かないじゃん、こんなのじり貧だよ。どうやって倒せっていうの」

「隠れるところもないしな」


「誰かがどうにかして腹の下に潜り込んでみる?」

「誰かって?」


「わたしじゃないよ絶対」


 怪物から逃げ回りホールのあちこちに散らばった皆を見回す。


「誰か対戦車兵器を持っていなかったか?」

「百足に噛まれた負傷者を支えて歩く時重いし邪魔だから置いてきてそのままなんじゃ? ずっと階段上ってたし、戦闘もなくって」


 背を向けた怪物に向かってキュリルが赤く光る刀身を振り上げるのが見えた。


「あいつ突っ込むきか」


 怪物は振り返ることもなく長い尾をしならせ迫るキュリルを叩き落とそうとする。

 咄嗟に身構え光る刀身が尾の先に触れる。

 その瞬間、刀身は白い湯気を放ち迫る尾を断ち切った。


「いける!」


 斬られた尾が勢いで吹き飛び床に当たって跳ねる。

 尾を切断したことで誰もが怪物の硬い鱗を断ち切れると期待し、尾を斬る際にすこしよろけたキュリルが再度怪物へと立ち向かう。

 その攻撃を支援するため少しでも怪物の注意を引こうとキュリルから離れた部位へと銃撃を加える。


「撃て撃て! キュリル君の援護を!」


 怪物は目を閉じたままで近くにあった座席を掴みキュリルのいる方向へと向かって、大雑把に長い前足を振るう。

 彼女はそれを躱し後ろ脚の付け根に刃を突き刺した。


 反射的に刺された脚でキュリルを蹴り返す怪物、彼女は吹き飛ばされ剣は足に刺さったまま血を蒸発させ白い湯気を立てている。


「斬り、落とせなかった。足一本、持っていきたかった」

「もう充分だキュリル」


 駆け付けたテオに支えられ彼女は後ろへと下がった。

 キュリルの行動に動かされアインやアンバーが剣やバットを受け取り飛び掛かるタイミングをうかがっている。


「俺も行く、剣を貸してくれ」

「いいよ、返さなくて良いからね!」


 テンメイは押し付けるように剣とバットの両方をベニユキに押し付けた。

 剣を受け取るとベニユキも怪物の攻撃の死角になる場所を探しながら近寄っていく。

 十メートル越えの体、近寄ればそれだけ怪物は大きく見え鱗が弾いた弾丸が近くへと飛んでくる。


「尻尾が」


 怪物に近寄る過程でそっと合流してきたアンバーがつぶやき、言われて尾を見ればキュリルが切り落とした尾の先が少しずつ再生を始めていた。

 足を引きずり不格好に歩きながら怪物はキュリルに刺された剣を抜こうと前足を後ろに伸ばし爪で足を搔いている。

 爪で引っ掻くたびに剣が動き湯気を出す肉が抉れるが、その傷もすぐに薄皮ができ血が止まっていく。


「この蜥蜴、再生能力が高い。一気に攻撃して倒さないと何度でも起き上がって来るかもしれないねぇ」


 後ろから追いかけていたアインが飛び掛かるが、キュリルと同じように尻尾を振り遠くへと弾き飛ばした。


「今か!」


 尻尾がアインへとむけられ振り切られているうちにベニユキが駆け出す。

 怪物は迫ってくるベニユキに気が付き体をのけぞらせるが、巨体へと飛び込み熱を帯びる刀身を体へと突き刺す。

 ジッと音を立てて焦げ臭いにおいが広がり、スッと軽い力で硬い鱗が断ち切られ肉へと食い込んでいく。

 ベニユキが突き刺したのは攻撃を防御しようとした怪物の前足。

 致命傷にはならずすぐに突き刺した剣を抜いて胴体を攻撃しようとしたが、剣が骨まで達し突き刺さったまま前足を動かしてベニユキの腕から剣を奪う。


「やぁ!」


 後を追ってきたアンバーが子供がふざけて傘を振り回すような適当な振り方で怪物に斬りつける。

 でたらめな攻撃だったがそれでも赤く光る刀身は鱗を削り肉まで達した。


「よし!」

「何がしたかったんだ、隠し包丁?」


「見様見真似で振ったんだが……駄目なのか? 斬れてはいたぞ」

「下がっててくれアンバー」


 ベニユキは少し後ろに置いてきたバットを拾い再度怪物へと近寄っていく。

 二度三度と攻撃が鱗を貫き怪物も迫ってくるものを警戒してベニユキ一人を見る。

 そして四方からの銃撃をすべて無視してベニユキを狙って腕を振り回し、ベニユキは振りかぶられた腕をバットで打ち返す。

 お互いの力が予想以上に大きく怪物がよろけベニユキも弾き飛ばされ床を転がる。


「くそっ、殴れなかったか。体が痛む」

「無茶をするな、ベニユキ君チャンスをうかがえ」


「俺の働いていた場所ではチャンスを待つのではなく自ら行動して作れと」

「立派な教えだが、チームプレイはそれではできない」


「わかった。そうだな協力しよう、どうしたらいいグリフィン?」

「こちらで囮をしよう、皆で接近し君が頭を殴る」


「わかったそれで行こう」

「では行くぞ」


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