与えられた試練 1
顔を見合わせていたがやがてベニユキたちは階段を上がり始めた。
今までより少し長い階段を登った先は巨大な一つの部屋。
講堂のホールのような中央に向かって沈んでいくすり鉢状の部屋で、その中心部には異界へ降りていくであろうエレベーターがあった。
「これ以上階段はない、ここが最上階だよな?」
「だと思います七階、広い部屋。でも何もいないですね? 背筋がぞっとしたのは気のせいだった?」
後を追ってグリフィンとアインが階段を上り切り部屋に入ってくる。
「箱舟に寄ってエレベーターのある部屋の形は違ってるんだな」
「何人ここに集まるんだ、これだけ大きいと?」
ホールの中央に立つ銀色の髪の少女のホログラム。
ミカの姿はなく小さな少女のホログラムをしたガブの姿だけ。
『あなたたちも大変ですね。疲労の知らない機械でも異形でもなくただの人間で言われるままに行動して』
ホールの中心低い位置にいるガブはホールに入ってきたベニユキたちの方を見上げて語り掛ける。
『世界を救うために無理やり働かされて』
「世界を救う? 何の話だ?」
『聞いていないのですか? そうですか、ミカもなかなか意地の悪いことをしますね。やはり機械と言えども姉妹というのはどこかで似てしまうのですかね?』
「ちゃんと教えてくれ、俺たちのいた世界に何かあったのか?」
『ミカが教えていないのであれば私も教えない。私も、意地悪なので。言葉の端から察しなさい』
目的地である七階に皆が集まりホールの中央へと進む。
皆がホールへと入ると階段へと続く出入り口全てがシャッターが閉まりベニユキたちはホールの中に閉じ込められた。
「閉じ込められたぞ!」
ブラットフォードやテンメイが階段の方へと駆け戻り開けようと試みるが、押しても引いても持ち上げようとしてもバットで殴っても扉はびくともせず皆がガブの方を見る。
「だめだ、閉じ込められらぞ」
「逃がす気がないってことだよね。私らは何と戦うの、あいつとそれともここの兵隊と戦わされるの戦うの?」
『試練、試練。何度となく世界を渡り歩き、何度となく繰り返し失敗する。リセットしても残るは我々への課題だけ』
エレベーターが下がっていき中央に空いた黒い穴の上にガブのホログラムがその場にとどまり浮かび続けた。
『ここも異界と言えば異界。私からあなた方への試練を与えよう。ミカには手出しさせない』
『異なる発展をとげた世界旅をして見つけた、万能細胞。大きく形状が離れなければ異種族でも子孫繁栄が可能な異形な生き物たちの世界。もっともその力を人は制御しきれず世界は荒廃してしまっていましたが』
黒い穴から現れたのは二本の脚で立つ巨大な爬虫類。
大きさは15メートルほどの巨獣はせりあがるエレベーターの中をぐるぐると回り出口を探している。
牙の生えそろった顎、長い前足に太い後ろ足、長い尾には棘が生え、首元にはライオンの様な鬣が生えていた。
「恐竜か?」
皆の後ろに隠れていたアンバーがボソッと呟く。
「図鑑などでは見たことがないな。まるで怪獣の幼体みたいだ、火を吹こうが電気を出そうが驚きはしないよ」
「いたのかアンバー」
「ガーネットが静かにしているように言ったからね。そっと人ごみに隠れて大人しくしていた」
「その、ガーネットは?」
「テンメイさんと一緒に扉をなんとかして開けようとしているよ」
エレベーターが止まり怪物はベニユキたちを見て、落ち着きなく歩き回っていた巨体が止まる。
怪物が動き出したとたんに一斉に銃声が響き、その後に話を続けるガブの声など誰の耳にも届かない。
『人間なんかよりこっちの方が強い、さぁ戦って。倒さないと生きて帰れないから』
相手は生き物、脳や重要機関が詰まっている頭部への攻撃が有効とグリフィンやブラットフォードたちが狙う。
怪物は集中して狙われた片目を負傷し鮮血を流すがそれ以外の部位は堅牢で、皆が撃つ機関銃の弾を弾き体を覆う鱗を貫くことができない。
「何だあの体!?」
「銃弾が弾かれてます」
怪物は姿勢を低くし四足歩行になり床に腹や胸などを付けるようにして進んできた。
流石のキュリルも剣を構えて立ち向かったりはせず皆と一緒に距離を取っている。
「体が大きくて通じてないならまだしも、弾丸を弾く体ってなんだよ」
「どこかに弱点はあるはず、撃ち続ければ」
現れた怪物が動き出しエレベーターから降りたのを見て、同じ場所に皆が固まっていると危険と判断してバラバラに別れて怪物への攻撃を続けた。
肌の弱い部分は弱点だと自分でもわかっているのか怪物は両眼を閉じきっており口も開かない。
銃弾の雨はただひたすらに鱗に覆われた巨体を叩き続ける。
「目を閉じてるのに追ってくる!」
「音か嗅覚か」
「警察犬かよ!」
「銃声も火薬のにおいも勢いよく出しているからな」
ウーノンが手榴弾を投げるが鱗に亀裂を入れるのが精いっぱいで肉を剥がすまでには至らなかった。
巨体は銃撃に怯みはするもののゆっくりと歩み寄っては来る、しかし攻撃を他人に任せ走って距離を取れば怪物に追いつかれはしない。
「こんなの無駄うちだ、弾切れになるぞ!」
「バット貸すよ、剣も」
皆と一緒に逃げ回っているテンメイがバットを差し出す。
「これで殴りに行くってのも手だけど、あの巨体に立ち向かえるか」
「嫌だよ、近づいてみんなが銃撃辞めたらパクッてなる!」
「踏みつぶされると思っていたが、そうか食われるってこともあるか」
「そうだよ」




