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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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沈黙の楼閣 6

 静まり返ったその部屋に置いて行かれたベニユキたち。


「俺らはどうすればいいんだ?」

「戻ればいいのか、進めばいいのか?」


「一応いつでも帰れるように戻っておくべきか。怪物もまだ何かうろついているし」

「上に上がっていったグリフィンさんたち戻ってくるの大変そうですね?」


「そうだな」


 どこからか消えたミカの声が響く。


『すみません、ガブを追いかけて皆様への指示を忘れておりました。この建物の最上階、この施設のエレベーターホールへとお集まりください』


 声はそこで消えミカの残していった言葉を聞いて皆が脱力する。


「階段を上がるしかないか」

「上まで……私たちも大変でした。七階建てだから……。エレベーターとか無いんですかね」


「迂回したり階段を上ったりしてこの施設内を走り回ってきたけど、エレベーターなんか見当たらなかったな。地道に階段を上るしかないだろうな」

「ああ……」


 部屋を出て足や戦闘が出来なさそうな負傷者たちをオートマトンが守る箱舟への入り口が待機している部屋へと運び階段を上り始めた。

 通路と違って折り返しがあり見通しが悪く狭い階段で怪物と鉢合わせないようにベニユキが一人、武器を構えて慎重に偵察として先行して階段を上がる。


 上を見て戻ってくるとベニユキは後からゆっくり歩いて階段を上がってくるブラットフォードたちに状況を告げた。


「こっちは駄目だ、この先の天井にさっき見た足跡が付いている」

「裸足の足跡のやつですね。足跡を付けている怪物はいたんですか?」


「見えなかったけど、無理に進んで鉢合わせるのも嫌だろ。どうせふざけた不思議な力を持ってるんだ」

「別の階段に向かうの……」


 別の階段へと向かうと聞いてエレオノーラをはじめとした皆の表情が曇る。

 階段を下り舌の階から別の階段へと向かおうとすると、下の階から複数の足音が聞こえ立ち止まった。


「足音、足跡のか?」

「足跡があったのは上の階だったが、見てくる。待っていてくれ」


 ベニユキが階段を下りて足音の聞こえる下の階へと降りる。

 すぐにオレンジ色の防弾チョッキを着た人影が見え、彼らもベニユキに気が付き立ち止まった。


「ベニユキ君かな?」

「ああ、ミカに言われて上の階に向かっていた」


「我々も上の階に向かって移動していたところだ。困ったな目的地がころころ変わる」

「ほんとにな、帰りは一番下まで降りないといけない」


 階段の途中で止まっているブラットフォードたちに振り返る。


「グリフィンたちだった」

「側だけ同じで、実は何かが姿を模していたりゾンビとかだったりしないか? 操られているとか」


「なら自分で確かめてくれ」

「冗談だよ信じるよ」


 ブラットフォードたちはグリフィンたちと合流しともに階段を上り始める。


「別の階段を見て来たが、怪物がのさばっていた。倒したのだがその死骸で道がふさがってしまってな」

「この上ににも何か居そうなんだ。別の道を探そうとしていた」


「怪物がいるなら倒せばいい。今までもそうしてきただろう」

「そう簡単に言ってくれるなよ、疲れるんだよ、痛いし」


 天井に付いた足跡を見上げはしたものの怪物の姿はなくテオとともにベニユキが階段を上がっていく。


「怪物との戦闘はなるべく避けたいんだけどな」

「俺らは無理に戦わされてるんだろ、戦って倒して何が悪い」


「状況を楽しんでないか?」

「楽しんでないとやってられないだろ。死んでも次の日にはクローニングで蘇生させられるんだからな。弾薬を惜しむことなく撃てるしトリガーハッピーにもなるだろ。まぁ、撃ちまくってるのはウーノンやアインな気もするけど」


「そういえば、グリフィンと一緒に行動しているが箱舟に来る前もしりあいだったりするのか?」

「まぁ、それもあるが、数少ない戦闘経験者だし生存率が一番高そうだからな。あと、あいつもついて行ってるし」


「あいつ?」

「キュリルだよ、あいつは前に出ていくから援護してやらないと」


 階段をのぼりながらテオは機関銃を担ぎなおし壁や天井を進む怪物の残した足跡を目でたどっていた。


「普通の人間は銃撃って楽しんだり化け物相手にして楽しんではいられないんだ」

「慣れろよ」


「出会うたびに大きさも姿形も違う何かには慣れないだろ」

「怪物は怪物だ、割り切れ」


 階段を上がっているとひたひたと裸足で歩く音が聞こえ二人は銃を構える。


「足跡の持ち主か」

「サッサと倒して安全を確保しようぜ」


 二つほど上の階に上がったところで足跡を壁や天井に残す怪物を見つけた。

 灰色の石膏像のような体が平行に二つ連なり胸より上の部位はなく、二つの体の間の腕は肘でくっついていて二人三脚のように歩幅を合わせ歩いている。


「目も口もないけど何だあれ、彫刻か?」

「俺が知るかよ」


 向こうがベニユキたちに気が付く前にテオが機関銃を撃ち仕留めた。


「あっさり終わったな。ビビる必要なんかないんだよ」

「ああ……まぁ、安全に住んでよかった」


 六階まで階段を上がるとベニユキたちの足が止まり、あとから階段を上がってきて追いついてきたグリフィンが尋ねる。


「どうした? この上から冷気が降りてきているな? いや冷気ではないか気配、背筋が凍る感じ、俺の勘がここで止まれと言っている」


 ブラットフォードやテンメイも何かの存在を感じ階段の途中で足を止めた。


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