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その先にあるもの⑤ 本当の気持ち

 私は職員室に戻った。同僚の先生に「何だったのですか?」と聞かれたが、「何か名残惜しくて帰りにくかったみたいです。少し話をしたら気が済んで帰って行きました。」と適当にはぐらかして返事をしておいた。それよりも彼への返事をどうしようか考えると仕事が手に着かなかった。キッパリ断るか?それとも、彼と付き合ってみるか?お友達の関係にするか?結論はなかなか出なかった。まだ時間があるし、じっくりと時間をかけて考えることにした。私が悩んでいても、仕事は待ってくれない。日々の仕事に追われながら、なかなか結論が出ず、少しずつ焦ってきた。私は、大学時代の友達で、他校で先生をしている女友達に相談してみることにした。


「もしもし、私、享子。お久しぶり。」

「あら、享子、お久しぶりね。どうしたの?」

「実は、卒業式の後、教え子から告白されてね、どう返事をしたらいいか迷っているの。」

私は桧室君との関係をできるだけ詳しく話した。

「ふーん。羨ましいわね。ちょっと一線を越えてしまっていたわけね。」

「私は一線を越えていたつもりはなかったんだけど、やっぱりそうなっていたのね。」

「こうやって、私に相談してくるところを見れば、少なからず彼のことを想っているってことよね。」

友達はそう言って電話口で笑った。

「そうなのかな。」

「きっとそうよ。特別な想いがなかったら、相談なんかせずに断ってるだけだと思うから。」

「それで私はどうしたらいいと思う?」

「それは、享子次第ね。この際、先生と生徒という関係は置いておいて、自分の気持ちに正直になって考えてみたらどうかな?」

「自分の気持ちに正直にね。」

私は口に出して言ってみた。

「難しく考えなくていいと思うわ。もう、卒業して先生と生徒でもないわけだから。」

「そうね、自分の気持ちと向き合って考えてみるわ。ありがとう。」

そう言って電話を終えた。友達に相談して少しは気が楽になった。私は、友達のアドバイス通り、自分の気持ちに正直になって考えてみることにした。そうやって考えてみると、このまま彼と離れてしまうのは嫌だと感じている自分がいた。だから、キッパリ断るという選択肢は捨てた。後は、お友達としての交際にするのか、それとも男女としての交際にするのか迷った。私と彼とは年齢差が10歳あるのも私には気になった。でも、そこは逆に彼に私の迷っている気持ちを伝えようと思った。そして、約束の日を迎えた。


 2次試験の合格発表の日。僕は、合格発表を見るために大学まで来ていた。もう既に掲示板に合格者の受験番号が掲示されてあった。僕はドキドキしながら掲示板を見に行った。

(合格していますように!)祈りながら掲示板に自分の番号を探した。

「やった!あった!」

思わず僕は声に出して言ってしまった。でも、番号を間違っていないか心配になり、何回も見た。間違いはなかった。合格していたのだ。僕は、場所を変えて携帯を取り出し学校に電話をした。

「はい、暁南高校です。」

「卒業生の桧室と言います。風宮先生はおられますか?」

「おお桧室か。ちょっと待ってな。」

電話に出た先生が言った。

「桧室君、久しぶり。どうだった?」

「合格していました。」

「おめでとう。良かったわね。」

先生はそう言って喜んでくれた。僕は、先日の返事を聞きたかったが、僕から催促することは出来なかった。このまま、何の返事もなく電話を切られたらどうしようかと思ったが、先生はそんなことはしなかった。

「桧室君、この間の返事だけど・・・」

急に小声になって先生が言った。

「この電話では伝えられないから、今度の日曜日会えないかしら?」

相変わらず先生が小声で言った。

「はい、いいですよ。」

「じゃあ、10時に桧室君の家の近くの公園に車で行くからそこで待ってて。」


 それだけを早口で言うと先生は電話を切った。どんな返事を貰えるんだろうと気になったが、自分の想いを伝えて、先生が考えてくれて時間を取って返事をしてくれるのだから、どんな返事でも受け入れようと僕は思った。その後、僕はその足で彩音さんのお墓参りに向かった。彩音さんのお墓参りは月に1回定期的に参っていたが、今日は第一志望の大学に合格したことと先生に告白したことを報告しに来た。

(彩音さん。第一志望の大学に合格したよ。しっかり勉強して立派な理学療法士になって人の役に立てるように頑張るよ。それと、先生に告白したんだ。今度の日曜日に返事を貰えるからまた報告に来るね。)

僕は墓地を後にした。


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