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その先にあるもの④ 卒業式。そして・・

 迎えた卒業式の日。


高校生活が今日で最後かと思うと感慨深いものがあった。乾君たちとの再会、風宮先生との出会い、武隈さんと付き合ったこと、クラブ活動のこと、いろんなことが走馬灯のように僕の心を駆け巡った。そして、今日、先生に告白するんだと考えると緊張していた。教室の黒板には先生からのメッセージが書かれてあった。


『卒業おめでとう!

高校生活、本当によく頑張りました。この暁南高校で、学んだことはいつか必ずあなたの役に立ちます。大変な時は、いつでも連絡してね。

これからも夢に向かって、自分のやりたいことにどんどんチャレンジしてね。応援しています。

                               風宮享子』


 もちろんみんなに向けて書かれたメッセージだったが、僕は不覚にも涙が出そうになった。体育館に移動して卒業証書の授与が行われた。1人ずつ校長先生から卒業証書を受け取った。それから、各種の表彰があった。僕は、学業優秀ということで、学校長表彰を貰えた。

 素直に嬉しかった。授与式が終わり、その後はみんなで写真を撮ったりしていた。僕もたくさん写真を撮った。だんだんみんな帰っていき、残っている生徒が少なくなって来たころ

乾君が声を掛けてきた。

「これからみんなでご飯食べて、カラオケに行くけど桧室も一緒に行くか?」

「ごめん。僕はまだやることがあるから。」

僕は申し訳ない感じで断った。

「やることって何だ?」

乾君が不思議そうに聞いてきた。

「風宮先生に想いを伝えるんだ。」

「何だ。もう諦めたと思っていたよ。桧室って一途なんやな。頑張れよ。みんなには適当に言っとくから。また、連絡してや。」

そう言って乾君は去っていった。1人になった僕は、校門の方に向かった。今日は何時まででも待つと決めていた。そして、校門のところに行き座り込んで待ち始めた。


「終わったわね。」

ここは、誰もいなくなった教室の中。私は教室の片付けをしなくてはいけなかったが、すぐには取り掛かる気になれず、ぼんやりと教室の中を眺めていた。思えば、あっという間の3年間だった。3年間同じ学年の生徒を受け持ったことも初めての経験だった。この3年間のいろいろなことが私の頭の中を駆け巡った。そんなことを考えていると、まぶたの奥から熱いものが込み上げてきた。

「いけない。いけない。感傷に浸っている暇はないわ。やることはたくさんあるんだから。」

私は自分に言い聞かせ、涙を拭いて教室の片付けを始めた。何かをしている方が気が紛れて良かった。教室の片付けを終え、職員室に戻った。


 私が職員室に戻ると、同僚の先生に声をかけられた。

「風宮先生、校門のところに風宮先生のクラスの生徒がずっと居るんですけど、何か心当たりはありませんか?」

「私の生徒って、誰ですか?」

「例の彼ですよ。桧室君でしたっけ。」

「桧室君が・・・。ちょっと様子を見てきます。」

私は、(何だろう?)と思いながら、校門へと急いだ。校門の所には、同僚の先生が言った通り、何かを待つように彼がポツンとしゃがみ込んでいた。私は彼の傍まで行き、彼の前に立った。

「桧室君。こんなところで何しているの?」

私は彼をのぞきこみながら、努めて優しく声をかけた。

「先生を待っていたんです。どうしても先生に伝えたいことがありまして・・・。先生、もうお仕事は終わったのですか?」

彼は、思いつめた感じで顔を上げ、私の顔をじっと見つめて言った。

「いいえ。まだ終わっていないわ。」

「じゃあ、終わるまで待っています。」

「そんなことさせられないわ。今なら時間があるから、言いたいことがあるなら言ってちょうだい。」

 私は彼の顔を見て言った。何となく彼から言われる内容は想像がついた。すると、彼は立ち上がり、思いつめた眼差しで私を見つめていた。彼は何か言いたそうにしているが、なかなか言葉が出ないみたいで、しばらく見つめ合ったまま無言でいた。私は、辛抱強く彼の言葉を待った。すると、覚悟ができたのか、彼が言葉を発した。


「先生、僕、先生のことが好きです。僕とお付き合いしていただけませんか?」

そう言って彼は右手を差し出した。私の予想通りの内容だった。

「ごめんね。気持ちは嬉しいけど。お付き合いはできないわ。だって、私たち、先生と生徒でしょう。」

私は彼を傷つけないように言葉を選びながら優しく言った。

「僕の中では先生はいつまでも先生ですけど、卒業した今、形の上では先生と生徒ではなくなったんじゃないでしょうか?僕は高1の時から先生のことが好きになりました。でも、先生と生徒という関係があったので、今日まで想いを伝えるのを我慢してきました。お願いです。僕と付き合ってください。」

「やっぱり元生徒と付き合うことはできないわ。」

私は重ねて断ったが、心のどこかでこのまま彼と会えなくなるのが寂しいなと感じていることを自覚した。特殊な形で入学してきた彼の担任を自ら引き受け、常に彼に寄り添ってきたことが頭をよぎった。彼を特別扱いしていたつもりはないが、知らず知らずのうちに特別視していたのかもしれないとも思った。

「どうしてもダメですか?」

彼は泣きそうな顔になって言った。この時、私はキッパリと断らないといけないと頭では分かっていたが、口から出たのは自分でも意外な言葉だった。

「そこまで私のこと、想っていてくれたんなら私もうれしいわ。でも、少し考えさせて。」

どうしてそんな言葉がでたのか私にも分からなかった。私の中で彼の存在が消せないものになっていることに今気付かされた。

「ありがとうございます!僕のこと考えてくれるだけでも嬉しいです。」

彼はさっきとは打って変わって明るい表情で言った。

「返事はきっちりするわ。でも、桧室君、それは公立大学の2次試験が終わって、結果が出てからね。それまでは、切り替えてきちんと勉強すること。分かった?」

私は先生の立場に戻りそう言った。

「はい、分かりました。それまではちゃんと勉強して、必ず合格します。」

「2次試験の結果が出たら、私に連絡をちょうだい。その時に、今日の返事をするわ。だから、今日はもう帰りなさい。」

「分かりました。」

そう言うと彼は素直に帰って行った。



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