その先にあるもの③ 風宮先生と初詣
冬休みになり、家で勉強していたら、家の電話が鳴った。
「もしもし、桧室ですけど」
母親が電話に出た。
「私、暁南高校の風宮と申します。大河君はおられますか。」
「先生、いつも大河がお世話になっております。少々お待ちください。」
母親が電話機を保留にして、僕の部屋に来た。
「大河、先生から電話よ。」
僕はいったい何だろうなと思いながら、電話に向かった。
「もしもし、桧室です。」
「桧室君。勉強頑張ってる?」
「はい。もうすぐセンター試験なので必死に頑張っています。」
「あんまり、根詰めすぎたらダメよ。体を壊したら今までの苦労が水の泡になっちゃうから、体調には気を付けながら頑張りなさい。」
「はい。分かりました。ありがとうございます。」
「ところで、桧室君、息抜きがてら合格祈願を込めて初詣に行かない?無理にとは言わないけど。」
僕は突然のことにビックリした。
「あ、はい。喜んで。」
「あっ、他の生徒には内緒よ。桧室君は毎日私のところに来て頑張ってたからね。」
「分かりました。」
日時と待ち合わせ時間を決めて電話を終えた。自室に戻り、しばらくして、(先生と2人で初詣に行くんだ)と今更のように実感が湧いてきた。先生には他意はないのだろうけど、僕は受験モードで封印していた、先生への想いが一気に込み上げてきた。それがプラスに働き、さらに勉強に打ち込むことができた。
迎えた初詣の日になった。行き先は南海高野線沿線近くの有名な神社だ。毎年初詣客の数でテレビでも紹介されるくらいの大きな神社だ。待ち合わせは、その神社の近くの駅だった。僕は、楽しみで待ち合わせ時間よりもだいぶん早く着いた。そして、晴れ着を着た人や、親子連れなどの人の波を眺めていた。しばらくして、先生がやってきた。今日の先生は、ニットのハイネックのセーターにハーフコートを羽織り、下はGパンを履いていた。そして、うっすらと化粧をしていた。先生の私服姿を見るのは初めてだったので僕は感動した。(綺麗だな)と改めて思った。
「桧室君。もう来てたの。待ったでしょう。」
先生が僕に近づいてきて言った。
「いえ、僕もさっき着いたところです。」
「それじゃあ、行こっか。誰かに会ったら、偶然会ったことにしておいてね。」
先生が笑いながら言った。そして、僕と先生は、人の波に合わせて神社に向けて歩き出した。
「結構、混んでるわね。」
先生が混雑している人の流れを見て言った。神社に着き、僕と先生は参拝するために列に並んだ。順番が来て、お賽銭を入れて僕はお願い事をした。
(受験に合格しますように。先生への告白がうまくいきますように。)
2つも贅沢なお願い事をしたら神様が怒るのではないかなと僕はふと思った。もうちょっと奮発してお賽銭を多めに入れておけばよかったと思った。
「桧室君は何をお願いしたの?」
参拝を終えた先生が言った。
「受験に合格しますようにってお願いしました。」
先生への告白のことはもちろん黙っていた。
「そうなの。私も同じようなものよ。生徒みんなが志望した進路に行けますようにってお願いしたわ。あっ、あそこに御神籤があるわね。桧室君、やってみる?」
「そうですね。ちょっと怖いけどやってみようかな。」
僕は言った。大吉や中吉が出ればいいが、凶が出たらたまったものではないなと思った。でも好奇心には勝てず先生も誘ってくれているしやってみることにした。結果は僕と先生の2人とも大吉だった。書かれている内容も良く、「願い事叶う」、「待ち人来る」と書かれてあったので、お守り代わりに大切に持っておこうと思った。先生も、いい内容が書かれてあったらしく、御神籤をくくらずに財布の中になおしていた。
「これからどうする?お昼ご飯を兼ねて、露店を見てみる?」
露店が並ぶ方を見ながら先生が言った。
「そうですね。見たいですね。」
せっかく先生と2人きりでいられるので、少しでも長くいたいと思って僕は言った。露店が立ち並ぶエリアに入ると一段と人が溢れていた。うっかりすると先生とはぐれそうになるので、必死に先生について行った。露店ではフランクフルトやミルク煎餅などを食べた。そうしたものを食べているうちに、お腹も満たされてきた。
「さて、そろそろ帰ろっか。受験生があんまり遅くまで出歩いているわけにはいかないもんね。いい気分転換になったかしら?」
「はい、おかげさまでいい気分転換になりました。勉強頑張れそうです。」
「そう、それは良かったわ。」
家に帰り着くと、僕は御神籤を見返した。「願い事叶う」、「待ち人来る」と書いているのを見て力が湧いてきた。ここから、ラストスパートを頑張ろうと思った。
センター試験の日がやって来た。センター試験は土曜日と日曜日の2日間実施される。僕は、今まで頑張って来たこと全てを出し切った。自己採点の結果はまずまずだった。ここから2次試験まではまだまだ日があるから、まだ気は抜けない。2次試験までの間に、滑り止めの私大入試もあるので、試験と勉強漬けの日々が続いた。私大入試の方が先に結果が出て無事に合格することができた。もう、学校は休みに入っているので、私大の結果は電話で先生に報告した。先生は喜んでくれたが、本命の公立大学の2次試験に向けて頑張りなさいと言ってくれた。2次試験の前に卒業式が控えていた。卒業式の日は僕にとって待ちに待った大切な日だ。先生に告白する日だ。どうやって、告白しようかと考えていたが、卒業式が終わったら先生が学校から出てくるのを校門のところで待つことにした。どれぐらい待たないといけないかは検討つかないが、それしか方法が思い浮かばなかった。




