現在(いま)を生きる⑦ 風宮先生とランチ
「ねえ、桧室君。お腹空いてない?」
帰りの車の中で先生が聞いてきた。
「そうですね。空いてますね。」
そういえば昼食をまだ摂っていないことに気づいて僕も言った。
「どこかで、お昼ご飯食べて行こっか?」
「いいんですか?」
「本当はダメだけど。今日は特別。みんなには内緒よ。」
そう言って先生はいたずらっぽく笑った。その横顔をみて、僕は(綺麗だな)と思った。何となく気恥ずかしくなり、僕は少し目をそらした。そんな僕には気づかずに先生がしばらく車を走らせているとファミリーレストランが見えてきた。
「あそこに入ろっか?。」
先生が言った。
「はい。いいですね。」
僕と先生は駐車場に車を停めてレストランに入った。ウィークデーでなおかつ時間も13時30分を回っていたので、席は空いていた。空いている席に通されて、メニューを広げた。
先生は日替わりのランチセットを注文した。僕は何にしようか迷ったが、先生と同じランチセットを注文することにした。
「桧室君。今日はどうだった?」
先生が水を口にしながら聞いてきた。
「はい。久しぶりに中学校の先生やみんなに会えて楽しかったです。」
しばらくして、注文した料理が運ばれてきた。
「いただきます。」
僕と先生は、先ほどの上陽館での話をしながら食事をした。僕は学校以外の先生の一面を見ることができて何か嬉しかった。ほどなくして、食べ終わると先生が言った。
「あんまり遅くなるといけないから出よっか。」
「はい、分かりました。」
僕はもうちょっと先生と話していたいと思ったので、少し残念だった。そして、レジへと向かった。僕は財布をだし、お金を払う準備をしていたら、
「桧室君、いいわよ。ここは私が出すわ。」
と先生が言ってくれて、2人分支払ってくれた。
「あっ、すみません。ごちそうさまでした。」
「さっきも言ったけど、本当はダメなんだから、内緒にしといてね。バレると私、怒られちゃうから。」
そう言って先生は笑った。先生と2人だけの秘密ができて僕は少し嬉しかった。そして僕たちは学校へと戻った。車を降り、先生にお礼を言って僕は帰宅するために自転車置き場に向かった。すると、自転車置き場の入り口のところに由美子が膝を抱えて座り込んでいた。
「由美子。どうしたの?」
僕は心配になって声を掛けた。確か由美子の部活は午前中で終わりのはずだった。
「一緒に帰ろうと思って待ってたの。今日はどうだったの?お話聞かせてほしいな。」
心なしか少し寂しそうに笑いながら由美子が言った。
「うん。久しぶりにいろんな人に会えて楽しかったよ。とりあえず、学校から出よっか。」
「そうだね。私お腹空いちゃった。お昼から何も食べずに待っていたから。大河君はお昼ごはん食べたの?」
「いいや。食べてないよ。」
本当は食べていたが、先生に内緒にしてねと言われているので、後ろめたさを感じながらもそう言った。
「じゃあ、だいぶん遅いけど何か食べに行こっか。」
「そうだね。そうしようか。ずっと待ってくれてたんだね。ありがとう。」
「ううん。私が勝手に待ってただけだから。」
僕たちは学校を出て、どこで食べようか考えて、前にレポートを書いた駅前にある喫茶店に行くことにした。駅まで自転車で行き、前と同じように一時預かりの駐輪場にお金を払って自転車を置いて、僕たちは喫茶店に入った。時間は15時をとっくに回っていた。
「あー、お腹すいたー。大河君は何食べる?」
メニューを広げながら由美子が言った。
「そうだな、僕はカツカレーを食べようかな。」
本当はお腹は空いていないが、何も食べないと怪しまれると思い僕はそう言った。
「じゃあ、私もそうしようっと。」
僕は店員さんにカツカレーを2つ注文した。ほどなくして、料理がやってきた。
「わあ、おいしそー。いただきます。」
由美子はそう言って食べ始めた。よっぽど、お腹が空いていたみたいでしばらく無言で食べていた。僕もお腹は空いていなかったが、頑張って食べた。
「あー、おいしかった。何か飲み物も頼もっか。」
食べ終わった由美子が言った。
「いいね。」
由美子はオレンジジュースを、そして僕はアイスコーヒーを注文した。飲み物はすぐに持ってきてくれた。
「それで今日はどうだったの?」
オレンジジュースを飲みながら由美子が言った。
「さっきも言ったけど、久しぶりにいろんな人に会えて楽しかったよ。」
僕は今日の上陽館での出来事をできるだけ詳しく由美子に話した。由美子は熱心に聞いていた。
「そうなの。良かったわね。大河君、今日は風宮先生と2人っきりだったわね。ちょっと妬けるな。」
少し頬をふくらませて由美子が言った。
「大丈夫だよ。先生と生徒だし。」
僕はそう言ったが、今日は先生を妙に意識してしまっていたので、どこかぎこちない返答になった。
「ねえ、大河君は風宮先生のこと、どう思ってるの?」
由美子が真面目な顔をして聞いてきた。
「どうって・・・。彩音さんの件とか、いろいろと気にかけて解決してくれたからありがたいと思っているよ。」
「それだけ?」
「うん。それだけだよ。」
「良かった。大河君、先生に気があるのかと思って心配しちゃった。」
そう言って由美子は笑った。
「そんなことないよ。」
本当は少し先生のことを意識し始めていたが、そんなことは言えなかった。それから少し雑談をして、お金を払い店を出た。
「今日は待っててくれてありがとう。」
「ううん。いいの。こうしてゆっくり2人でいられたから。」




