表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/43

現在(いま)を生きる④ 女の子からの告白

「まだ帰りたくないな。」

武隈さんが少し俯き加減に顔を落として言った。

「それじゃあ、この辺をぶらぶらしよっか。」

「うん。いいわね。」

武隈さんはニッコリとして言った。僕たちは繁華街のメイン通りを歩き出した。歩き出してから何となく武隈さんが元気がないことに気づいた。

「どうしたの?疲れたの?もう帰る?」

僕は心配になって声をかけた。

「ううん。大丈夫。ちょっと疲れただけ。どこかに座れるところはない?」

「そうだね、もうちょっと行った川沿いにベンチがあるけど、そこまで歩ける?」

「うん。大丈夫。歩けるわ。」

武隈さんが少し元気になり笑顔で言った。

「じゃあ、そこまで頑張って歩こう。荷物持つよ。」

僕はそう言って武隈さんのカバンを半ば強引に持った。

「あっ、ありがとう。桧室君優しいのね。」

照れ臭そうに武隈さんが言った。そこからは、何となく2人とも無言になって、川沿いのベンチまで歩いた。

「ここだよ。座ろっか。」

「うん。」

僕たちは並んでベンチに座った。

「ちょっと疲れちゃったのかな?」

僕は武隈さんの顔を覗き込むような感じで言った。

「ううん。そうじゃないの。」

そう言うと武隈さんは俯いて黙り込んでしまった。

「いったい、どうしたの?何か嫌なことでもあったの?」

全く訳が分からず僕は聞いた。


「ごめんなさい。どうしても、桧室君に伝えたいことがあったの。」

「僕に伝えたいことって?」

ここまでくると、さすがに僕もひょっとしてと思った。すると、武隈さんが僕の方を向いて真剣な顔をして言った。

「桧室君。私、桧室君のことが好きなの。良かったら私と付き合ってくれませんか?」

何となく予想はついたが、言われた瞬間僕の頭の中は真っ白になった。女の子から告白されるのはもちろん初めての経験だ。僕が何も返事できずにいると武隈さんが続けて言った。

「桧室君の中に六城さんがいることは分かっているわ。それでもいいから、私と付き合ってくれませんか?」

そう言って武隈さんは立ち上がって右手を僕の方に差し出した。

「ちょっと待って。すごく嬉しいけど、頭の中が混乱してるんだ。ちょっと座って話しようか。」

僕はとりあえずそれだけを言って、武隈さんをベンチに座らせた。

「やっぱり、私じゃダメかな?」

武隈さんが泣きそうな顔をして言った。

「そうじゃないんだ。いきなりでビックリしてるだけだよ。それより、いつから僕のことを好きだと思ってくれてたの?」

いくらか冷静さを取り戻した僕は聞いた。

「実は小学校の時から桧室君のこといいなって思ってたの。私が苛められてたとき、さりげなく助けてくれたよね。とても嬉しかったの。」

そんなことあったっけなと僕は思った。

「それなのに私立中学に行っちゃったから私ショックだったの。そしたら、高校でまた一緒になって、ボランティア部でも一緒になれて・・・。また想いが大きくなってきてお付き合いしたいなって思ったの。」

 

 それだけいうと武隈さんは黙ってしまった。今度は僕が何か答えないといけない番だ。曖昧な返事をしたり、適当に誤魔化したりするのは嫌だったので、僕はどういう返事であれ、きちんと返答しようと思った。それに、僕の中では答えは決まっていた。

「こんな僕でよかったら、こちらこそよろしくお願いします。」

そう言うと僕は武隈さんの手を握った。

「えっ?いいの。ありがとう。嬉しいわ。」

武隈さんはそう言うと涙を流し始めた。

「武隈さん、泣かないで。何か僕が泣かしているように見えるやん。」

僕は武隈さんをそっと抱き寄せて子どもをあやすように言った。

「ごめんね。嬉しすぎて泣いちゃった。」

そう言って顔を上げた武隈さんはとびっきりの笑顔をしていた。

「これで私たちは恋人同士ね。」

僕にもたれかかったまま武隈さんは言った。

「うん。そうだね。」

僕も武隈さんの肩を抱いたまま言った。しばらく2人とも無言でいたが、おもむろに武隈さんが口を開いた。


「ねえ、私のこと下の名前で呼んでくれる?」

「いいよ。由美子さん。」

「さん付けはおかしいわよ。由美子って呼んで。」

「分かった。由美子。」

「ふふ。嬉しいわ。私も桧室君のこと大河君って呼んでいい?」

「いいよ。」

そういえば彩音さんともこんなやり取りをしたなと淡い想い出がよみがえってきたが、それはもちろん口にはしなかった。それから、2人でいろんな話をしていると少し薄暗くなってきた。

「明日も学校だし、そろそろ帰ろっか。」

あまり遅くなるといけないと思い僕は由美子に声をかけた。

「そうね。ちょっと暗くなってきたわね。本当はもっとお話ししたかったけど帰ろっか。」

由美子もそう言った。僕たちは手をつないで歩き出した。僕たちにとって祝福すべき一歩だった。帰りの電車は運良く座ることができた。電車の中でも学校の話や今日の映画の話をした。2人で話をしていると、どんな話題でも楽しかった。話しているうちに電車がK駅に着いた。

「大河君は駅まで何できたの?」

「僕は自転車だよ。」

「私はバスできたから、また明日ね。」

「バス停まで送るよ。」

「ありがとう。」

そう言って2人でバス停まで行った。由美子の乗るバスが来たので、由美子はバスに乗った。

「じゃあね。大河君。」

「バイバイ。由美子。」

由美子の乗るバスを見送って僕は自転車に乗り家に帰った。


 火曜日の放課後、クラブ活動のない僕は家には帰らず電車に乗っていた。行き先はM駅だ。駅に着くと、僕は歩き出した。15分ほど歩くと目的に着いた。そう、彩音さんのお墓参りに来たのだった。本当は由美子と2人で来たかったのだが、何となく悪いなと思って1人で来た。墓地に到着した僕は、すぐそばにある花屋さんで花を買い、まっすぐに彩音さんの墓に向かった。花を替え、墓石に水を掛けて僕は手を合わせた。

(彩音さん。今日は報告したいことがあって会いに来たよ。実は新しい彼女ができたんだ。

高校の同じクラスの子で、ボランティア部で一緒なんだ。そうそう、今僕は、空手道部とボランティア部を兼部してるんだ。毎日、忙しいけど頑張ってるから応援していてね。そしたら、また会いに来るから。)

 しばらく手を合わせてから僕は立ち上がった。そして、次に会いに来るときにはもっと成長した姿を見てもらいたいなと思った。そして、僕は墓地を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ