過去との対面⑫ 遺書
「これが、桧室君あての彩音の遺書だよ。読んでやってくれるかね」。
僕は少し手が震えながら受け取った。そして手紙を広げた。
〈私の大好きなあなたへ
この手紙を読んでいるということは、私はきっとこの世にはいないのでしょう。ごめんね。勝手なことをして・・・。このまま生きていも、いずれ私はあなたを失うことでしょう。このままあなたと別れるのは私には耐えられなかったの。それにパパやママの期待に応えるのが疲れちゃったの。初めてあなたに会った日のこと、こんな私に告白してくれたこと、一緒にデートしたこと・・・。その全てが私にとって宝物なの。これを書いていても、あなたとの楽しい思い出ばかりが頭に浮かぶの。でも、ごめんなさい。このまま「いい女子大に行って、いい男性とお見合いする」という人生は私には耐えられないの。私の人生は私が決めたかった・・・。私は、苦痛の生よりも、安楽の死を選びます。でも、あなたは生きて。私の分までいろんなことを経験して。これ以上書いているとこの世に未練が出てきそうだから、ここで私のこの世の最後の筆を置くね。
六城彩音〉
彩音さんから話は聞いていたがここまで追い詰められていたとは、と改めて思った。あの時、無理やりにでも彩音さんにどうにかして会って話ができていればと、今更ながらに後悔の念が襲ってきた。気が付けば涙があふれてきた。泣かないようにしようにも、とめどなく涙があふれてきてどうすることもできなくなった。
「気のすむまで泣きなさい。桧室君は彩音さんが亡くなってちゃんと泣いたの?」
先生が僕の横に来て優しく声をかけてくれた。
僕は声にならずに首を振って答えた。そういえば、彩音さんが亡くなってから泣いたことはなかったなと気付いた。
「私らに気を使わなくてもいいから、先生の言う通り、気の済むまで泣きなさい。」
父親も優しく声をかけてくれた。それから僕は堰を切ったように、声を出して泣き出した。(彩音さんはもうこの世にはいないんだ。)改めてそう実感すると止まることなく涙があふれてきて、子どものように僕は泣き続けた。どのくらい泣いたのだろうか、ようやく泣き止んだ僕は顔を上げた。
「ごめんなさい。お見苦しいところをお見せしまして。」
僕は泣き止んだ直後なので、少しひきつった声で謝った。
「いいんだよ。これだけたくさん泣いてくれる人がいて彩音も幸せだよ。」
僕を見ながら父親が言った。その声は僕にとても優しく響いた。
「また、これからも彩音に会いに来てくれてもいいのよ。その時は遠慮せずにいらっしゃい。それと、彩音の部屋をそのままにしてあるから見ていかないかしら。」
と母親が言った。
「はい。是非見せていただきたいです。」
僕は言った。そして、4人で2階に上がり彩音さんの使っていた部屋に入った。母親の言った通り、彩音さんの使っていた部屋は机やベッドなどが全てそのまま残されていた。
「遺書の宛先の人が来るまでそのままにしておこうと思ってそのままにしておいたの。ゆっくり見てね。」
「はい。ありがとうございます。」
僕はゆっくりと部屋を見回した。女の子の部屋に入るのは初めてだった。机の上には教科書などがそのままにされてあったし、衣装掛けには制服もそのまま掛けられてあった。ベッドの上を見ると僕がプレゼントしたクマのぬいぐるみが置いてあった。
「あっ、あのクマのぬいぐるみ・・・。」
僕は思わず声に出して言った。
「あのぬいぐるみがどうかしたの?」
母親が言った。
「はい。僕が初めて彩音さんにプレゼントしたものです。」
「あら、そうなの。じゃああのぬいぐるみは大切に置いておくわね。桧室君が来たから、もうこの部屋は整理しようと思ってるの。ずっとこのままでは私たちも辛くなってくるしね。他には何か思い出のものとかないかしら?」
「思い出は僕の心の中にあります。と言いたいところですが、もしよろしければ何か形見のものを一ついただけないでしょうか?」
「そうねえ。じゃあ、このペンダントはどうかしら?中に写真を入れることができるの。今は何も写真は入ってないけれど、おそらく彩音はあなたの写真を入れていたのだと思うわ。」
「ありがとうございます。一生大切にします。」
僕はありがたくペンダントをいただいた。中に彩音さんの写真を入れて常に持ち歩こうと思った。これで、彩音さんにいろんな風景を見てもらえると思ったし、彩音さんとずっと一緒にいることができると思った。
「ああ、それと彩音のお墓を案内しよう。うちに来にくかったらお墓の方にお参りしてくれたらいいから。」
父親がそう言い、僕たちは彩音さんのお墓へ向かった。お墓までは彩音さんの家から歩いて10分ぐらいのところにあった。ここなら、いつでも来ることができるなと思った。そして4人でお墓参りをして彩音さんの家に戻った。家の前まで来たところで先生が言った。
「それでは、本日はお時間をいただきましてありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
僕も続けて言った。
「いやいや、こちらこそありがとうございました。桧室君、彩音に会いたくなったらいつでも来てくれたらいいからね。」
「はい。ありがとうございます。」




