過去との対面⑩ 空手道部の練習
そして、金曜日。
僕は昨日の話が脳裏から離れず、心ここにあらずといった感じで過ごしていた。何とか1日の授業をやり過ごしたが、今日は金曜日で空手道部の活動のある日だ。空手道部での活動初日だったが、正直今日は休みたい心境だった。だけど、そういう訳にはいかないので放課後になり、僕は武道場へ向かおうとした。するとそこへ風宮先生が近づいてきた。
「桧室君。今日は何だか集中力がないわね。昨日の話が気になっていると思うけど、そんなんじゃ部活でケガするわよ。それじゃ、気になっていることを教えてあげるわ。六城さんのお宅に行く日が決まったの。」
「えっ、もう決まったんですか?」
僕はビックリして言った。
「明後日、日曜日の13時にお伺いすることになったわ。桧室君、予定は大丈夫?」
「はい。大丈夫です。よろしくお願いします。」
「オッケーね。桧室君、六城さんへのお供え物を準備しておいてね。」
「お供え物ですか?」
見当がつかず、僕は困ってしまった。
「そんなに難しく考えなくてもいいわ。六城さんの好きだったもの、桧室君だったら知ってるでしょ?そういうものでいいと思うわ。」
「分かりました。準備しておきます。」
「日曜日の13時だから、住所から見て駅から近いところみたいだから、12時30分にM駅の改札で待ち合わせよっか。」
「明後日の12時30分にM駅の改札ですね。ありがとうございます。よろしくお願いします。」
僕は神妙に頭を下げた。
「これで少しは気掛かりなことは解消されたでしょう?部活で集中できていなかったら、容赦なく帰らすからね。気持ちを切り替えて頑張りなさい。」
「はい。切り替えて頑張ります。」
風宮先生にはすべてお見通しだったみたいだ。先の見通しが決まって少し気が楽になったのは確かだった。完全にスッキリとした訳ではないが、これ以上考えても仕方がないので今は部活に集中することにした。およそ3年ぶりに着る道着は新鮮だった。全員が黒帯だったらどうしようかと思ったが、黒帯ではない先輩部員もいて僕は少しホッとした。練習は、3年間、運動という運動をしていなかった僕にとってはとてもきつく感じた。それでも何とか必死に食らいついていった。風宮先生も途中から道着姿で参加して指導にあたってくれた。
そこで、先生や先輩、そして上林君を交えて僕の今後のビジョンについて考えてくれた。年に3回、6月と10月と2月に昇級及び昇段試験があるが、僕には3年間のブランクがあるので、この1年間は昇級試験を受けずにブランクを埋めるために頑張ること。昇級試験は高2になってからその時の僕の状況を見て、受けられそうだったら6月の試験で2級の試験を受ける予定で、そこを目指して練習していくこと。対外試合も僕の状態を見て出るかどうかを決めること。そういったことを決めてくれた。ここまで真剣に考えてくれて僕は嬉しかった。これならブランクがあっても何とかやっていけそうだと思った。ちなみに上林君は即戦力候補で今日の練習も余裕でこなしていた。近々ある新人戦と、6月の昇段試験を目指して頑張るそうだ。部活のない日は、近所の道場に通い、練習するとも言っていた。僕は少しでも早く強くなれるように頑張ろうと思った。
「どうだった?久しぶりの空手は?」
風宮先生がにこやかに声をかけてきてくれた。
「はい。正直キツかったけど何とか頑張っていこうと思います。」
「ちゃんと集中できていたから良かったわ。これからも頑張ってね。」
こうして空手道部の初日の活動が終わった。




