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過去との対面⑨ 大河の覚悟

さて、ここは職員室。

(そろそろ来る頃かしら)

私は仕事をしながら彼が来るのを待っていた。すると、扉の方から、

「失礼します。」

と声が聞こえた。間違いなく彼の声だ。そして、彼は真っすぐに私の机までやって来た。

「あら?もう終わったの?」

と私は表情を緩めて言った。

「はい。終わりました。入部もしてきました。」

「あらそうなの。これで空手道部と兼部ね。無理せずに頑張ってね。」

私はそう言って立ち上がった。そして、近くに置いてあったパイプ椅子を持ってきて広げた。

「まあ、桧室君。座ってちょうだい。」

「はい。ありがとうございます。」

勧められるままに彼はパイプ椅子に腰を下ろした。


「話っていうのは、昨日のこと。単刀直入に聞くけど、桧室君は六城さんのご両親に会う気はある?」

私は真剣な眼差しで彼を真っすぐ見つめて聞いてきた。

「いきなり言われましても・・・。いったいどういうことですか?」

彼は私にいきなり言われて困惑しているようだった。

「そうね。いきなり言われても答えようがないわね。昨日の桧室君の様子を見ているとこのままでいることは桧室君にとって良くないことだと思ったの。」

私は慎重に言葉を選びながら彼に言った。

「はい・・・。」

彼はどう答えていいか分からないようだった。

「ところで、桧室君は、六城さんの遺書をまだ読んでないわよね。」

私は少し切り口を変えて彼に聞いた。

「はい。読んでいません。」

彼は答えたが、未だに私の意図するところを理解できずにいるようだった。

「読んでみたいと思う?」

私は続けて聞いた。

「はい。可能であれば是非読んでみたいです。」

今度は彼は私の目を見つめて言い切った。

「分かったわ。でも、ここに六城さんの遺書だけを持ってくるっていうのは出来ないの。読むためには、六城さんの家に行ってご両親にお会いして許可をもらってからってことになるの。桧室君は六城さんのご両親に会う覚悟はある?」

ここが一番肝心なところなので私は熱を込めて彼に聞いた。

「はい。僕もこのままでいるのは嫌なので、ご両親に何を言われようともお会いしてみたいと思います。」

 彼はそう言ったが、少し目がうつろで心なしか震えているように見えた。やはりご両親に会うのは相当の勇気がいるようだ。私は、ご遺族さんの意向は先日確認して彼に対しての怒りなどないことは知っていたが、あえてそのことは彼に言わないことにした。これは、彼自身がきちんと決断して、過去と決別するための大事なステップであると思ったからだ。そんなことはおくびにも出さず私は彼に言った。

「分かったわ。それじゃあ、私が六城さんのご両親と桧室君が会えるようにセッティングするわ。といっても、桧室君が六城さんの家を訪問する形になるけど。もちろん、私も一緒に行くわ。近いうちにアポを取ってみるから日が決まったらまた言うわね。」

「ありがとうございます。」

彼はまだ緊張した面持ちで言った。


「失礼しました。」

僕は半分夢見心地で職員室を後にした。するとそこに武隈さんが立っていた。

「どうしたの武隈さん?先に帰ったんじゃなかったの?」

「うん。そうしようかと思ったけど、何か桧室君のことが気になって・・・。大丈夫だった?先生に何言われたの?」

僕はさっきの話を言おうかどうか迷ったが、昨日のこともあり、僕を心配してくれている気持ちが嬉しかったので言うことにした。

「実は、彩音さんのご両親に近々お会いすることになったんだ。」

「へえ!そうなの。そんなこと本当にできるの?」

まっとうな疑問だった。僕も先生と話をするまではそう思っていた。

「実は風宮先生が間に入ってくれて、彩音さんのご両親に会いに行く段取りをしてくれるんだ。でも、正直言って怖いんだ。僕がどう思われているのかわからないし・・。」

僕は少し俯き加減になって言った。

「大丈夫だと思うわ。私は会った方がいいと思うわ。このまま中途半端なままでいるより、しっかりと過去と向き合ってきた方がいいと思うわ。」

武隈さんが僕を勇気づけるように言った。

「ありがとう。頑張ってお会いしてくるよ。」

僕はそう言った。武隈さんに話をして少し気が楽になった気がした。

「話してくれてありがとう。じゃあまた明日ね。」

そう言って武隈さんは帰っていった。僕も帰ることにした。少し気が楽になったとはいえ、やはりそのことは頭から離れなかった。家に帰る道中も自転車を漕ぎながらずっとそのことを考えていた。


彼が帰った後、私は職員室にある電話を手に取った。

「もしもし、六城様のお宅でしょうか?」

「はい。そうですが、どちら様でしょう?」

「私は暁南高校教諭の風宮と申します。突然お電話して申し訳ございません。今、お時間いただいて大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫ですが何の御用でしょうか?」

「彩音さんの件でお電話させていただきました。」

「えっ!彩音はもう亡くなっています!どういうおつもりですか!」

「申し訳ありません。実は、彩音さんの遺書にありました素性不明の男性が本校の生徒であると判明しまして、六城様がよろしければ彼を連れてご挨拶にお伺いさせていただきたいと思いましてお電話させていただきました。」

「えっ!何ですって?やっと見つかったのね・・・。どんな子なのですか?今何年生ですか?」

「お母さま落ち着いてください。それは彼の口から直接話させます。ところで、近いうちにお時間をいただくことは可能でしょうか?」

「そういうことなら、いつでもいらしてくれたらいいです。私も早く会ってみたいですし。ただ、土曜日まで主人は仕事なので、次の日曜日はどうでしょうか?」

「分かりました。次の日曜日ですね。時間は何時ごろがご都合よろしいでしょうか?」

「うちは何時でもいいですけど、昼からはいかがですか?」

「そうしましたら13時ごろお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「分かりました。13時に主人とお待ちしております。」

「ありがとうございます。あと、ご住所をお教えいただけませんでしょうか?」

この後、私は住所を聞いて電話を切った。あとは、明日彼に伝えるだけだ。おそらく彼に予定はないだろう。


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