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過去との対面⑦ 風宮先生、奔走する

 私にはまだやるべきことが2つある。まず1つは、今日のこの出来事を校長先生に報告すること。私は一旦、職員室へ戻り、自分の席に戻り一息ついた。校長先生の所へ行く前に自分の頭の中を整理したかったからだ。私は少しぼんやりしながら先ほどの出来事を思い返していた。まさか、彼にこんな過去があるとは全く想像できなかった。一人思いにふけっていると、教頭先生がやってきた。


「やはり、彼が何か問題を起こしたのか?」

嫌味たっぷりに教頭先生は私に聞いてきた。

「いえ、彼は問題を起こしたわけではありません。自分の過去に向き合っただけです。」

私は教頭先生を睨みつけるようにハッキリと言った。

「これから、校長先生のところに報告に行くので一緒に来られますか?」

私は少し挑発的に教頭先生に言った。

「もちろん行こう。話の内容によっては、こちらにも考えがあるからな。」

今になっても教頭先生は彼のことを認めていないらしい。ここは、私がしっかりして彼を守ってやらないと、と心に誓った。

「それでは教頭先生行きましょうか?」

私はそう言って例の資料を持って立ち上がった。


「風宮です。失礼します。」

私と教頭先生はノックして校長室に入った。

「おお、風宮先生か。何か騒がしかったが彼に何かあったのか?」

校長先生が心配そうに聞いてきた。

「校長先生は例の女子高校生の自殺事件をご存じですか?」

私はそう切り出した。

「もちろん知っているとも。痛ましい事件だった。確か未だに1通の遺書の宛先が不明のままだったね。」

いきなり校長先生が核心に触れてきたので私は少し驚いた。

「はい。そうです。その素性不明の男性が彼だったんです。先ほどは、私の机の上に置いていた研修用の資料を彼が偶然見てそれで取り乱してしまっただけです。今はもう落ち着いて話も聞いて下校させました」。

「なんだと!そうか・・・。彼がそうだったのか・・・。きっとつらい思いをしたんだろうな。」

校長先生も衝撃を受けたらしく呟くように言った。

「校長先生、良いのですか?このことが公になれば、被害者の親御さんが黙っていないと思うのですが。我が校としてどう対応なさるおつもりですか?」

教頭先生が相変わらず学校のことしか考えていないような発言をした。私は頭に来て何か言おうとしたが、それを察して校長先生が私を制止させ言った。

「教頭先生が学校のことを考えてくれるのはありがたいが、すでに我が校では彼を受け入れている。ここで、考えなければいけないのは学校の対応というよりも、彼の心のケアだ。」

いつも煮え切らない態度が多い校長先生にしては珍しくキッパリと言い切った。

「しかしねえ・・。」

教頭先生はまだ何か言いたそうだったが、ここまではっきりと校長先生に言われるともう何も言えなかった。

「風宮先生。この後、心のケアを含めて彼のことをよろしく頼むよ。」

校長先生は私を見つめてそう言った。私は校長先生が彼に寄り添う発言をしてくれたことがとても嬉しかった。

「分かりました。お任せください。また何かありましたらご報告に参ります。」

私と教頭先生は校長室を後にした。


『私にはやるべきことが2つある。』

 さっきも言ったが、1つは校長先生への報告で、これは今しがた終わらせた。もう1つだ。そのもう1つを実行するために私は再び校長室を訪れた。さきほど済ませれば良かったのだが、教頭先生がいると話がややこしくなりそうだったので、いったん出直すことにしたのだ。

「風宮です。失礼します。」

私は再び校長室に入った。

「どうしたのかね風宮先生。まだ何かあるのかね?」

訝しげに校長先生は言った。

「はい。校長先生に許可をいただきたく参りました。」

とだけ私は言った。

「何の許可だね?」

「彼を彼女のご遺族のもとに連れていき、過去と向かい合って清算させてあげたいのです。」

「うーん。ご遺族が何と言うかだね。」

「ご遺族の方の同意がなければ諦めますが、進めさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「よし。分かった。何かあったら私が責任を取ろう。その線で進めてみたまえ。」

持つべきものは話の分かる上司だ。私はこの時つくづくとそう思った。

「ありがとうございます。彼にはきちんと過去と向き合わさせ、これからはしっかりと前を向いて進んでいけるようにします。」

「うん。よろしく頼んだぞ。」


 校長先生の許可は貰ったものの、私は何から手を付ければいいか迷った。まず、ご遺族様の許可を得るべきか?それとも、彼の意向を確認するべきか?迷った末、私はまず現在の情報を収集することにした。偶然、私の知り合いが六城さんの通っていた学校で教師をやっているので、内密に現状を聞いてみた。聞きたかったのは、六城さんのご遺族が今でも素性不明の男性を探しているのか?また、その素性不明の男性にどういった思いを持っているのか?という点だった。

 聞いてみると、案ずるより産むがやすしという感じで、ご遺族は今でも素性不明の男性を探していること、その男性に対して、怒りなどはなく純粋に会ってみたいと思っていることが分かった。ここまで分かれば充分だ。あとは、彼の意向を確認してお互いに会う場を設定するだけだ。今日、彼は下校しているので、明日、彼に確認することにした。


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