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過去との対面⑥ 保健室にて

 場所は変わり、ここは保健室の中。私はベッドに寝かされている桧室君を見ていた。先ほど、保健の先生に診てもらったところ「頭を打って意識を失っているだけだろう。しばらくしたら目覚めると思うよ。」と言われて少し安心した。私には、もう一つ気になることがあった。


「ねえ、乾君。さっき桧室君、何て言ってた?」

「何と言われると・・・。どの段階の話ですか?」

逆に乾君が聞いてきた。

「乾君が、桧室君を止めたときの話なの。桧室君、何か女の子の名前を言ってなかったかしら?」

「そういえば、言ってましたね。確か、アヤネさんがどうのこうの言ってたような気がしますが・・・。先生、何か心当たりでもあるのですか?」

乾君が寝ている桧室君を心配そうに見ながら聞いてきた。

「ないでもないわ。桧室君が目覚めてから確認しないとわからないけど・・。みんな、ちょっと待ってて。」

そう言って私は職員室に戻った。職員室ではちょっとした騒ぎになっていた。


「風宮先生。何かあったのですか?」

教頭先生が少し咎めるような感じで私に聞いてきた。

「たいしたことではないです。後ほど報告します。」

そっけなくそれだけ答えて私は自分の机に向かった。そして、机の上から《女子高校生自殺事件について》と書かれた資料を取り上げた。それを持って私は再び保健室に向かった。


「先生。桧室君、まだ意識が戻らないけど大丈夫ですか?」

心配そうに武隈さんが聞いてきた。

「さっき、保健の先生が気を失っているだけだって言っていたから大丈夫だと思うわ。それに、今は気を失っているというより、眠っているようにみえるけど。」

私は桧室君の様子を見ながら言った。

「そうですか。それより先生がさっき言われた心当たりって何ですか?差し支えなければ僕たちに教えてくれませんか?」

乾君が真剣な眼差しで私を見つめて言った。

「そう。君たちにも知ってもらおうと思って資料を持ってきたの。私が説明する前に、その資料を読んでみて。」

 

 そう言って私は《女子高校生自殺事件について》の資料を彼らに読むように促した。みんな順番で読んだ。その表情は真剣さと驚きと入り混じったようだった。みんなが読み終わったのを確認して私はみんなを見渡して言った。

「これを読んだら、みんななら大体の想像はつくわね。」

「まさか、素性不明の男性っていうのが桧室君なんですか?」

武隈さんが遠慮がちに言った。

「さっきの桧室君の取り乱し様を見てみると、そう考えるのが自然ね。ちなみに、自殺した女子高校生の名前は六城彩音さんっていうから、さっき乾君が聞いた名前とも符合するわ。」

と私は資料を手に言った。

「そうなんだ・・・。そんな過去があったんだ・・・。」

乾君が少ししんみりと言った。そこからは、みんな無言になった。それぞれの思いにふけっているようだった。私もみんなの思いにふける邪魔をしたくなくて無言でいた。それからしばらくして、

「うーん。」

とベッドから声がした。


「あっ、桧室君が気付いたみたいね。」

私は言って、ベッドに近づいた。

「気分はどう?」

私は彼を安心させるように優しく声をかけた。

「あれ?ここは?彩音さーん。どこにいるの?」

彼はベッドから半身を起こして言った。

「桧室君。しっかりして、ここは暁南高校の保健室よ。私が誰だか分かる?」

私は今度は真剣な眼差しで彼を見つめて言った。

「えっ?暁南高校?あっ、そうか・・・。夢だったんだ・・・。彩音さんはもういないんだった・・・。」

我に返った彼はそう言って寂しそうにうつむいた。

「そう、六城彩音さんは、もうこの世にいないの。」

私は必死にその言葉だけを絞り出した。残酷な言葉だった。しかし、他に何と声を掛けていいのかが分からなかった。本当は、もっと優しくて説得力のある言葉を掛けたかった。私は自分がまだまだ力不足であると痛感した。

「お見苦しいところをお見せしてすみませんでした。」

と彼は力なく自嘲気味に言った。

「いいのよ。それより、体の方は大丈夫?頭とか痛くない?」

私は彼の体調を心配して聞いた。

「頭?大丈夫です。どこも痛くありません。」

彼はキッパリと言った。


「そう。それは良かった。いろいろと聞きたいことがあるのだけどいいかしら?」

私は少し遠慮がちに聞いた。

「いいですよ。六城さんのことですね。」

彼は正気に戻って全てを悟ったかのような表情で言った。

「ここにはお友達もいるけど、みんなにも聞いてもらってもいいの?」

私はみんなを見渡して彼に確認した。

「はい。みんなにも聞いてもらいたいです。」

彼は今度もキッパリと言った。どうやら完全に元に戻ったみたいで安心した。

「では聞くわね?亡くなった六城さんの遺書で素性不明の男性って桧室君のことだったの?」

「はい。おそらくそう思います。僕たちは付き合っていましたから。」

彼は今度は俯くことなく、真っすぐ前を見据えて言った。

「そうなの。それは辛かったわね。こんな一言では言い表せないと思うけど。ごめんね。私が机の上にあの資料を無防備に置いていたからつらい過去を思い出させちゃったね。」

私は申し訳なさそうに彼に言った。

「いえいえ。先生は悪くないです。夢の中とはいえ、彩音さんに会えて嬉しかったです。」

そう言って彼は笑ったが、どう見ても無理している感じが見え見えだった。


「それで、桧室君は何故、暁南高校に来たの?」

私は気になっていたことを聞いた。この質問は乾君たちも興味があるらしく、

「良かったら教えてや、桧室。」

と乾君が言った。

「それは、彩音さんと付き合ってたときに話してたことだけど、僕たちは2人とも私立に行きたくて行ったわけじゃなかったんだ。僕も彩音さんも本当は公立中学に行きたかったんだけど、家庭の方針で私立に行ったんだ。それで、カッコつけたわけじゃないけど、彩音さんの遺志を継ぐ意味と、自分の希望でもあった公立高校を受けようと思ったんだ。」

一言ずつ紡ぎだすように桧室君が言った。

「そうやったんや・・・。知らんかったな。」

乾君がつぶやくように言うと、みんな頷いていた。

「福祉関係に進みたいのも、ボランティア部に入りたいのも彩音さんの影響なんだ。彩音さんが将来、人の役に立つ仕事をしたいって言ってたから。そのころ僕はやりたいことがなかったから、彩音さんの分もその道で生きていこうと思ったんだ。」

桧室君はそこまで一気に話した。


「そう。そんな思いで桧室君は暁南高校に来たのね。それじゃあ、2人分しっかりと頑張らなくっちゃね。」

私はそう言うのが精一杯だった。

「あっ、武隈さん。明日、ボランティア部の説明、一緒に聞きにいかない?」

桧室君が武隈さんを誘った。どうやら、もう迷いはないようだ。

「いいわよ。行きましょう。」

武隈さんが笑顔で応じた。

「さあ、話が一段落ついたし、桧室君も疲れてるから今日はもうこのあたりで解散しましょう。」

私はみんなを見渡して言った。


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