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過去との対面② 苦手な自己紹介

 翌日になった。今日はまず、始業式がある。全校生徒がグラウンドに集合した。上陽館中学は1学年で2クラスの80人程度だったので、1学年300人以上いるこの学校の全校生徒の数には圧倒された。始業式では校長先生のありがたいお話があり、その後、新任の先生や転勤してきた先生の紹介があった。先生の数だけでもものすごい数なんだろうなと思った。

 始業式が終わり、自分の教室に戻り席に着いた。昨日の入学式と、今日の始業式のまだ2日も経っていないのだが、すでに教室のあちらこちらで話声が聞こえている。やはり、同じ境遇の者同士、仲良くなるのも早いのかと思った。そういう僕も、乾君や武隈さん以外に友達ができた。僕の席の前に座っている男の子で、名前を東原(ひがしはら)君という生徒だった。乾君たちは小学校からの友達なので、高校に入って初めて友達ができたのは嬉しかった。


「校長先生の話が長いのって、小学校の時から変わらへんな。」

前の席に座っている東原君が振り向いて話しかけてきた。

「そうだね。何か違うこと考えてたから、何の話をしてたのか覚えてないよ。」

僕は笑いながら応じた。

「そういえばさあ、桧室君ってどこの中学出身?」

東原君が聞いてきた。

(そら来た。)僕は思った。東原君には悪気はないのだけれども、やっぱりこの質問は僕にとっては少し辛いものがある。でも、誤魔化さずに答えることにした。

「いずれバレると思うけど、実は僕、私立中学から来てるねん。」

ひとまず、僕はそう答えた。

「えー、そうなん。どこの私立?」

驚いた表情をして東原君が聞いてきた。

「上陽館中学だよ。」

僕は少し笑いながら答えた。

「上陽館って、ここよりレベル高いのに、なんでわざわざ暁南高校に来たん?」

いたって当然のことを東原君は聞いてきた。

「どうしても公立高校に行きたくて来たんだ。」

ここでは僕は少しはしょって答えた。そんなやり取りをしているうちに担任の風宮先生がやってきた。

「また今度、私立ってどんなんか教えてな。」

そう言って東原君は前を向いた。


(さあ、いよいよだわね。それにしてもうちの校長先生の話ったら相変わらず長いわね。澄ました顔して立っているのにも疲れるわ。)

私はそんなことを考えながら、1年4組の教室に入っていった。

「はい、みんな始業式お疲れさまでした。今からホームルームを始めます。では、起立。」

私が言うと、生徒はみんな椅子から立ち上がった。

「礼。着席。」

型通りの礼をして、生徒たちは着席した。

「今日はまず、みんなに自己紹介をしてもらおうと思うの。ではまず、私から自己紹介するわね。昨日も言ったとおり名前は、風宮享子といいます。担当教科は数学です。クラブは空手道部の顧問をしています。大学までずっと空手をしていたから3段を持っています。そうねえ、あと、趣味はドライブをすることかな。ちなみに年齢は、秘密にしてもしょうがないから言うわね。今年で26歳になります。今はまだ25歳ね。教師歴は4年目になるのかな。それではみんな、1年間よろしくお願いします。」

私が自己紹介するとパチパチと遠慮がちに拍手が起こった。

「それでは、出席番号順に前に出て自己紹介をしてもらおうかな。名前と、出身校と趣味や将来の夢、中学の時の部活を言ってもらおうかしら。」

そう言って私は黒板に自己紹介で言ってもらいたい項目を書き上げた。

「この他にも言いたいことがあったら遠慮せずにどんどん言ってね。それでは、出席番号1番の浅野君、よろしくお願いします。」


 こうして、生徒たちの自己紹介が始まった。私は準備してきた生徒ごとの個人ファイルに1人ひとり言ったことをメモしていった。あと、話の口調や態度で気になったことや何となくわかった性格などもメモした。これから1年間指導していく生徒たちだし、まだ彼らのことはほとんど何もわかっていないので、この自己紹介は生徒たちだけでなく、私にとってもたいへん有意義なものだったのだ。1人ひとり人数を重ねていくごとに、クラス内で笑いやどよめきが起こったりして、雰囲気も固いものから和やかなものにと変化していった。そして、いよいよ彼、桧室君の番が回ってきた。


「はい、次、桧室君お願いします。」

私は平静を装って言った。内心では、彼の自己紹介がどのようなものになるのか不安だった。

少し緊張した面持ちで桧室君が教壇へとやってきた。

「桧室大河といいます。出身校は私立の上陽館中学です。クラブは入っていませんでした。趣味はこれといってありません。1年間よろしくお願いします。」

ここで、予想されたどよめきが起こった。

(上陽館だって?)

(私立やん)

教室の中で、ザワザワとした私語が巻き起こった。

「はい、みんな静かにして。私立の中学出身だからって、これからみんなで一緒に勉強していくのには何の関係もないからね。」

私がそう言うと教室内は静かになった。

「桧室君は、中学の時クラブをやっていなかったみたいだけど、高校では何かクラブに入るつもりなの?」

私は少しでも桧室君の情報を掴もうと当たり障りのないことを聞いてみた。

「はい、ボランティア部に入ってみようかなと思っています。」

「そうなの。頑張ってね。」

もっといろいろと聞きたかったけど、桧室君だけにたくさん質問をすると不公平になってしまうので止めておいた。

「はい、ありがとう。では次の人お願いします。」

こうして、予想された少しのざわつきはあったものの無事に自己紹介は終わった。

「みんなお疲れさま。みんなの自己紹介を聞けて先生も勉強になったわ。これからもっとみんなのことを知っていこうと思うから、どんどん話しかけてきてね。明日のホームルームでは学級委員や係を決めたいと思うから立候補とか考えてきてね。あと、簡単なクラブ紹介やアルバイトなどの学校生活について説明するのと、学校の中を案内します。では、今日はこれで終わります。」


(はあ、何とか無事に自己紹介が終わった。ザワザワした時はどうなるかなって思ったけど先生がフォローしてくれて助かった。)

 僕は自己紹介の順番が一番最初ではなくて良かったと思った。何人かの自己紹介を聞いていてどんな風に言うかを考えられたので良かった。昨日のうちに自分なりにシミュレートしていたけれど、みんなの自己紹介を聞いていて、さらっと流すことにした。多少のざわつきはあったが、先生がフォローしてくれたおかげで深く突っ込まれることもなく済んで良かったなと思った。今後、みんなに興味本位で私立について聞かれると思うけど、それは折り込み済みなので良しとしよう。明日は、バイトのこととかクラブのこととか重要な話があるからしっかりと聞いておかなければならないなと思った。高校生活の2日目もこのようにして、無事に終了した。


「風宮です。失礼します。」

私は校長室に行き、ノックして中に入った。

「おお、風宮先生か。彼の様子はどうかな?ええと桧室君だったっけ?」

校長先生が私を見て言った。

「はい。そのことについて、ご報告に上がりました。今のところ、入学式と始業式及びホームルームしかしていませんけど、特に問題はありません。他の生徒と変わりなく過ごしています。何か問題がありましたら、直ちにご報告とご相談に伺います。」

私はそう答えた。

「そうか。何事もなければそれに越したことはない。よろしく頼んだぞ。」

「はい、かしこまりました。それでは失礼します。」

私は校長室を出た。

(そういえば桧室君はボランティア部に入りたいようなことを言っていたわね。そのあたりのことも少し抑えておこうかしら。)

私はそんなことをふと思いながら職員室の自分の机へと向かった。


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