過去との対面① 高校入学式
4月×日。
今日は、暁南高校の入学式の日だ。天候にも恵まれ、絶好の入学式日和となった。桜もまだ散っておらず、美しいピンク色を彩っていた。真新しい制服に身を包んだ僕は、自転車で暁南高校に向かった。今日は母親も来てくれることになっていて、母親はバスに乗って来ることになっていた。学校へ着き、校門のところに案内の先生が立っていてくれたので、案内されたとおりに自転車を自転車置き場に止めに行った。そこから、校舎の方へ歩いていくと、校舎の入り口のところにクラス分けが掲示されてあった。そこには、もうたくさんの人だかりができていた。
「おはよう、桧室。今着いたんか?」
「桧室君、おはよう。」
乾君と斎藤さんが僕を見つけて近づいてきた。
「クラス分け見たか?」
乾君が聞いてきた。
「いや、まだ見てないけど。乾君は見た?」
僕は逆に聞いてみた。
「見たよ。言うと面白くないから、直接見ておいでや。」
「うん、分かった。」
そう言って、僕は少しずつ人垣をかき分けながら掲示板に向かった。新入生の数が多くてなかなか見つけられなかったけど、ようやく自分の名前を見つけた。僕は1年4組だった。その4組の名前を見ていくと、乾君と武隈さんの名前があった。残念ながら、上林君と斎藤さんは別のクラスだった。
「今、見てきたよ。乾君と同じクラスだったね。あと、武隈さんも。よろしくね。斎藤さんと上林君は残念ながら違うクラスだったけど。」
僕は、乾君と斎藤さんのところに戻って言った。
「とりあえず、体育館へ行こうか。入学式は体育館みたいだし。」
乾君が、斎藤さんと僕を見て言った。そして、3人で体育館へと向かった。
他にもたくさんの生徒及び保護者が体育館へと向かっていた。体育館へ着くと内部はパイプ椅子がずらりと並んでおり、生徒用と保護者用に座る場所が分かれていた。生徒用はさらに区切られていてクラス単位で座る位置が決められていた。体育館の入り口のところで今日の式次第を書いた紙をもらい、僕と乾君は4組の場所へ座り、斎藤さんも自分のクラスの場所へ座った。
入学式が始まった。開式の辞、国歌斉唱に始まり、校長先生の話や来賓の人の話があった。こういう式は今までに何度か経験しているはずだが、やはり緊張するものだと思った。その後も、新入生代表による宣誓や先輩からの歓迎の言葉があったりした。最後に、主だった先生や担任の先生の紹介があり、式は終了した。僕や乾君のクラスの担任の先生は風宮先生という女性の先生だった。その後、各クラスの教室へ行くようにと指示があったので、生徒たちは全員移動を始めた。下足室に行き、持参した上履きに履き替えて、1年4組の教室へと向かった。教室では出席番号順に座ることになっていたので、その通りに座った。乾君とはだいぶん離れた席になったが、武隈さんがたまたま隣の席になったので少しびっくりした。こんな偶然もあるもんだなと思った。ほとんどが知らない者同士みたいで、教室内は静かだった。
しばらくして、担任の風宮先生が入ってきた。身長は150から155cmぐらいの小柄で、髪型はショートカットをした若い女性の先生だった。
「はい、みなさん。おはようございます。私がこのクラスの担任を受け持つことになりました風宮享子といいます。まずは、みなさん、高校入学おめでとう。そして、ようこそ暁南高校へ。1年間、みんなと一緒に頑張っていきたいと思うのでよろしくお願いします。ちなみに、教科は数学を担当しています。」
風宮先生は、型通りの自己紹介とあいさつをされた。僕は中学の時に女性の先生を、簿記講座以外で見たことがなかったので、珍しそうに見ていた。
私は、教室に入り、型通りのあいさつを行った。生徒たちはみんな緊張しているみたいで強張った表情をしていた。全員を公平に見ないといけないのだが、私はさりげなく桧室君を観察してみた。今日のところは自己紹介もしていないし、彼が上陽館中学から来たことはこのクラスでは乾君、武隈さん以外は知らないはずだし、桧室君もみんなと同じで緊張した面持ちだった。まあ、私も出席番号順の席で、桧室君の隣に武隈さんがくるとは思ってもみなかったのでびっくりした。私は、言葉を続けた。
「明日は、始業式です。持ち物などを書いたプリントを配るので、そのプリントを見て行動してください。明日は、始業式の後、みんなに自己紹介をしてもらうから、そのつもりで何を話すか考えてきてくださいね。」
そう言って、私はプリントを配った。
(明日の自己紹介で桧室君がどういう自己紹介をするのか、そして周りの反応はどうかをしっかりと見極めなくっちゃね。)
私はそっと自分に言い聞かせた。
「はい、今日はこれで終了です。入学式お疲れさまでした。明日はこの教室に来てから、みんなで始業式に行きますので、今日のこの席を覚えておいて8時半までに着席しておいてください。」
こうして、入学式は何のトラブルもなく無事に終了した。明日からが本番だ。頑張ろうと改めて私は自分に言い聞かせた。
「やっと終わったな。ところで、担任の先生可愛かったな。」
乾君がやや的外れな感想を言った。
「そうだね。上陽館中学では女の先生が保健室の先生しかいなかったからびっくりした。」
僕はそう答えた。僕もきれいな若い女の先生だなと思っていた。
「それより、明日の自己紹介が緊張するな。乾君は平気?」
僕は明日の自己紹介が不安だった。絶対に出身中学はどこか答えなくてはいけないし、そのときに上陽館中学と言ったらざわつくだろうなと思った。
「まあ、入学とかの自己紹介は儀式みたいなもんだから仕方ないやろ。桧室だけじゃなくてみんな緊張してると思うし大丈夫やって。」
乾君が笑いながらそう答えた。
「それじゃあ、また明日な。俺は斎藤のクラスが終わったら一緒に帰るから。」
乾君はそう言って斎藤さんのクラスの方へ向かって言った。
「それじゃあ、また明日。バイバイ。」
僕はそう言って下足室へ向かった。母には先に帰っておいてと言ってあったので、明日の自己紹介のことを考えながら帰途についた。
家に帰り着いてからも明日の自己紹介のことを考えていた。どうしても出身中学の名前を言うのが憂鬱だった。いずれバレていろいろと聞かれるとは思うけど、いきなりクラスメイト全員の前で言うのは勇気のいることだった。それに、クラブもやっていなかったしなどと考えると何か一人だけ浮いてそうで怖かった。まあ、うだうだと考えていてもしょうがない。いずれ、遅かれ早かれ乗り越えなければならないところなので、頑張ろうと腹をくくった。(なるようになれ!)と思うと少し気が楽になった。




