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明日へと向かって⑤ 合格発表

 今日は待ちに待った暁南高校の合格発表の日だ。昨晩は緊張してあまりよく眠れなかった。卒業式はもう終わっているが、上陽館中学の制服を着て僕は暁南高校へ向かった。

 公立高校の合格発表は校内に掲示する形式を取っていた。合格していれば、そのまま手続きや物品購入という流れになり、不合格の場合は、その足で併願合格の私学へ手続きをしに行くことになっていた。だから、今日は母親と一緒に来ていた。いつものとおり同じ中学の生徒はおらず、僕一人だったが、緊張のあまり今日は全く視線も気にならなかった。おそらく、他の中学の生徒も自分の合否のことで、精いっぱいで私立中学の制服を着た生徒がいても気にも留めなかったというのが本当のところだろう。

 学校の正門から入ると掲示板があった。大げさかもしれないが、いよいよ運命の瞬間がやってくる。僕はしばらく掲示板の近くで 逡巡していたが、意を決して掲示板の前まで行った。そこには、他校の生徒で人だかりができていた。その人垣をすり抜けながら番号の見える場所まで行った。自分の受験番号はすっかり覚えていたが、再度確認して掲示板に目をやった。


〈あった・・・。〉


 そこに、僕の番号が確かにあった。見間違いじゃないか何度も確認した。見間違いではなかった。涙が出そうになるのを必死にこらえて母親の待つ少し離れた場所へ戻ろうとした。そしたら、後方から声をかけられた。


「桧室。どうやった?」

先日ですっかり聞き覚えた乾君の声だった。

「おかげさまで合格してたよ。乾君は?」

「俺も合格してたよ。これからは、また同じ学校やな。よろしくな。」

乾君がにっこりと笑った。乾君の周りに3人の生徒がいた。2人は顔なじみの小学校の同級生だった。上林君と武隈さんは分かった。もう1人は誰か分からなかった。

「やあ、桧室、久しぶりだね。上林だよ。また、よろしくな。」

「桧室君、久しぶりね。武隈よ。またみんなで頑張りましょう。」

上林君と武隈さんが言った。

「こちらこそ、俺は3年間クラブも何もやっていなかったから、みんなに付いていくので必死だと思うけどよろしく頼むね。」

僕は言った。僕は何かが変わった気がした。極端な言い方をすれば新しい世界の扉が開いた気がした。

「あっ、そうそう。紹介しとくな。こちらは斎藤さん。俺とか上林、武隈さんと同じ中学校やってん。うちの中学校は2つの小学校からくるから、俺とかは西小やけど、斎藤さんは東小の出身やねん。東小の出身の子には桧室の知らん子もいっぱいおると思うよ。そんでもって、斎藤さんは今、俺と付き合ってんねん。」

乾君はそう言ってもう1人の子、斎藤さんを紹介してくれた。

「はじめまして、斎藤です。桧室君のことは乾君から聞いてるわ。これから一緒の学校だからよろしくね。」

斎藤さんはそういってあいさつしてくれた。

「こちらこそはじめまして。桧室です。よろしくお願いします。」

少しぎこちなく僕は応じた。

「それじゃあ、手続きもあるし、中学校にも報告しないといけないから、今日はこの辺でな。また、連絡するから、入学までの間にこのメンバーで1回会おうか。」

乾君がそう提案した。

「うん。喜んで。それじゃ連絡先言っとくね。」

そう言って乾君と携帯の連絡先をお互いに交換して、僕たちはこの日は分かれた。そして、僕は母のところへ行った。


その様子を少し遠くから見ている人物がいた。そう、暁南高校教諭の風宮享子その人だった。

(あれが彼、桧室君ね。上陽館の制服を着ているからすぐに分かるわ。)

私は彼こと桧室大河君を一目見ておこうと合格発表を見に来ていた。

(おやおや、何か仲良く話をしている生徒も数人いるわね。きっと同じ小学校の生徒だわ。このあたりを調べておいて、クラス決定の時に少し配慮していただこうかしら。)

(あとは彼の出身の小学校と、上陽館中学校に情報収集ね。担任の先生がいいかしら。頑張らなきゃ。)

私はそう思って静かにその場を立ち去った。


「お母さん。やったよ。合格してたよ。」

「おめでとう。えらく遅かったじゃない?」

「うん。小学校で一緒だった乾君とかがいたから少し話をしてた。」

「ああそう、乾君と一緒なんだ。それは心強いわね。」

小学校の時、よく遊んでいた乾君は母もよく覚えていたようだ。

「お母さん、ちょっと中学校に電話してくる。」

僕はそう言って、携帯を取り出し少し離れたところで上陽館中学に電話した。

「はい、上陽館中学校です。」

「あの、桧室という者ですが、米沢先生いらっしゃいますか?」

「少々お待ちください。」

「おう、桧室か。どうやった?」

「おかげさまで合格していました。いろいろとありがとうございました。」

「そうか、それはおめでとう。私立に3年間おったお前にとっては、最初は慣れないと思うけど頑張れよ。」

「ありがとうございます。精いっぱい頑張ります。」

「またいつでも遊びに来いよ。」


 上陽館中学への報告も終わり、次は手続きと物品購入だ。これが、予想以上に時間がかかり、終わったのは夕方近くになっていた。本当に長い1日だった。生まれてから1番長く感じた日だったかも知れない。ようやく家に帰りつき、僕が最初にしたことは携帯を取り出してメールをしたことだった。

 

 それは、決して返信の来ることのないメールだった。


 〈彩音さん。やったよ。僕、公立高校に合格したよ。これからも一生懸命頑張るから、彩音さんはゆっくり僕のこと見ててね。〉


 そして、ゆっくりと携帯を閉じ、ベッドの上に寝転んでいるといつのまにか寝落ちしてしまっていた。僕が疲れているのを分かってか、母親も僕を起こさなかった。その日は朝まで、どっぷりと泥のように眠った。


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