明日へと向かって④ 風宮享子先生
時を同じくして、ここは暁南高校の会議室。
「私は反対です!どのような理由があろうが、我が校を受験している以上、特別な扱いはしてはいけないと思います。」
私、風宮享子は、教頭先生の発言に対して声を大にして言った。
「しかしねえ、風宮先生。私立の名門、上陽館中学からわざわざ我が校を受験するのには何か深い理由があると思うがねえ。内申書を見ても、成績優秀だし、特記事項も特にないのは何か怪しい気がしないかね。」
教頭先生は猜疑心あふれる感じで言った。
「では、彼をどうするおつもりですか?」
私は、逆に教頭先生に聞いた。
「幸い彼は、併願の私立高校に合格しているようだから、そちらでお世話してもらうというのはどうかと思ってな。やはり、私立育ちの子は、私立に行った方が水が合っていいかと思うからな。他の先生はどう思われるかな?」
教頭先生が会議室を見渡して他の先生に聞いた。
「彼には申し訳ないが、私も教頭先生の意見に賛成です。」
「私もです。何かトラブルが起こってからでは遅いと思います。」
何名かの先生が、教頭先生の意見に同調した。
「では、みなさんは我が校の合格ラインを突破している彼に、我が校への入学を諦めろというのですか?それは、あまりにも酷くありませんか?」
私はだんだんと孤立無援になってきているのを自覚しながら言った。
「それは、あまりにも直截な言い方すぎるな。風宮先生、高校は我が校だけではない。彼にとっては私学の方がきっと幸せになれると思っての決断だよ。」
教頭先生は私をたしなめるようにそう言った。
「私は納得できません!みなさんは彼を受け入れることによって、平穏な日常が崩れてしまうことを恐れているだけです。それは、自分たちの安定のことしか考えていません。いやしくも教職にある私たちが率先してそういう不正をしてもいいのでしょうか?」
私はだんだん腹が立ってきて、一気にまくし立てた。
「我が校には何百人という新入生が入学してくることになる。トラブルの恐れのある生徒を受け入れるより、全体を見て、大勢の安定に資するのも教職としての立派な務めだと思うがね。」
教頭先生もだんだん熱を帯びて言った。しかし、私も怯まなかった。
「その他大勢の安定のために、罪のない生徒1人を犠牲にするのですか?それでは、いじめられている生徒を見殺しにするのと同じじゃないですか!」
私も負けじと言い返した。
「そこまで言うんだったら風宮先生、あなた責任は取れるのですか?」
教頭先生がいやらしい感じで私に向かって言った。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。教頭先生の言うことも分かるし、風宮先生の言うことももっともではある。ここはひとつどうだろう?風宮先生の言う通り、合格ラインを突破している彼を落とすことはやはり許されない行為だと私は思う。しかし、彼が何か訳ありでトラブルの要因である可能性も否定はできない。そこでだ、彼を受け入れて、風宮先生に担任を持ってもらうというのはどうだろうか?」
それまで、黙って聞いていた校長先生が初めて口を開いた。
「校長先生よろしいのですか?彼を受け入れることは止めたほうがよろしいかと思いますが。」
教頭先生はあくまでも彼の受け入れには反対したいらしい。
「私は喜んでお引き受けします。責任をもって彼を立派な暁南高校の生徒として育てていきます。」
もう、ここまで来たら引き下がれない。彼にどんな理由があろうと、誠心誠意彼と向き合って頑張っていこうと私は覚悟を決めた。
「それでは、この件はこれで決着がついたということにしておこう。風宮先生、くれぐれもトラブルのないようによろしく頼むぞ。そして、何かあったら直ちに私に報告するようにしたまえ。」
校長先生の決断で、彼の入学は無事に決まった。これで、私も彼の担任ということで、責任も重大だし、知らぬ顔をすることもできなくなった。そこで今の間に、彼の情報を少しでも集め、入学に備えることにした。




