明日へと向かって③ 高校受験
これで、僕は後のない受験生になった。米沢先生の言う通り、公立中学に通う中3生と同じ立場だ。ただ、公立中学の子と違うのは、僕の場合周りのみんなは、上陽館高校にそのまま上がるようなもの(形ばかりの専願の試験は受けさせられるが)だから、まあ切羽詰まった感じは全くなく、言ってみれば呑気なものだった。その中で、僕一人が『後のない受験』をしなくてはいけないので、相談したり、励ましあったりする友人がいないのが辛かった。でも、自分で決めた道だと言い聞かせ、毎日必死に勉強し、調べられる範囲で私学の併願先を調べ、本命の公立高校をどこにするかを考えた。彩音さんのためにも絶対に弱音を吐くわけにはいかなかった。周りの友人は、「何で上陽館高校に行かへんの?」などと聞いてきたが、適当にはぐらかしていた。その中で米沢先生は、もっと冷たいかなと思っていたが、意外にも親身になって、一緒に併願先の私学を考えてくれたり、相談に乗ってくれたりした。それは、僕にとっては大変心強かったし、助かった。
そして、年も暮れ、つかの間の冬休みと年末年始が過ぎ、1月に入り、私学の出願の時期になった。併願の私学は、上陽館高校よりランクが下のH高校にし、公立高校はH高校と併願される暁南高校を受験することにした。私学の願書を提出しに行くのももちろん1人だし、上陽館中学の制服を着て願書を出しに行ったら、他の公立中学の生徒がこっちを見てヒソヒソと何か言っていた。受験当日も一人だし、こういうことに慣れていかないといけないんだなと思った。そして、受験当日を迎えたが、必死に勉強もし、ランクも下げたので手ごたえは抜群だった。ただ、やっぱり合否の不安はあった。落ちたら終わりで1.5次試験を考えないといけなくなるし、公立高校の受験先も再考しなくてはならなくなってしまうからだ。結果は速達で翌々日に到着することになっているが、それまではあまり生きた心地がしなかった。落ちたらどうしようとそういうことばかり考えてしまっていた。そして、結果が来た。無事に合格していた。きっと彩音さんが守ってくれたんだなと思った。
(彩音さん。僕、合格したよ。)
心の中で僕は彩音さんに報告した。これで、ひとまずは行く高校は確保できた。でも、僕が行きたいのは公立高校なのでまだまだ気を抜くわけにはいかなかった。ここから、さらにギアを上げて勉強していく必要があった。
翌日、米沢先生にH高校の併願に合格したことを報告した。米沢先生は、「そうか、良かったな。これからが本番やぞ。頑張れよ。」と僕を励ましてくれた。そして、3月に入り、予定通り、暁南高校に出願に行った。この日も周りからの好奇の視線にさらされたが、そんなこといちいち気にしていられなかった。そして、この日は、好奇の視線だけではなかった。
「おい、桧室か?」
不意に声をかけられて僕はびっくりした。声の主の方を見てみると、小学校の同級生で仲良くしていた乾君だった。
「あっ、乾君。久しぶりだね。」
どこかぎこちなく僕は答えた。
「あれ?桧室は私立に行ってたんじゃなかった?」
乾君が当然のことを聞いてきた。
「うん。そうだけど、いろいろあって公立を受験することにしたんだ。」
「そうなんや。試験、お互いに頑張ろうな。あと、小学校のメンバーでは、上林君とか武隈さんとかがおるで。」
「そうなんや。懐かしいな。みんなにもよろしく言っといて。それじゃ、試験頑張ろうな。」
「おう、じゃあまたな。」
こうして、公立高校の出願の日は思いがけない出会いがあった。ずっと孤独であり、周りから好奇の視線にさらされていた僕にとってはとても嬉しかった。乾君たちと同じ高校に行けたらいいなと思った。そして、公立高校の試験の当日がやってきた。
「行ってきます。」
「もう、ここまできたら合格するしかないんやからな。頑張っといで。」
玄関先で母が声をかけてくれた。
試験会場では、出願順の受験番号順なので、相変わらず僕の周囲には知り合いは1人もいなかった。だいたいが、中学校単位で出願するので、同じ中学校同士で固まっていた。乾君たちの中学校とは離れていたみたいで、教室も別だったし、今日はうまい具合には会うことはできなかった。僕は、これまでの勉強の全てをぶつけた。絶対に合格したいという一心で必死になって問題を解いた。自分では結構できたつもりだが、内申書との絡みもあるし、結果が出るまでは何とも言えなかった。私立と違い、公立は結果が出るまでかなり時間がかかる。その間に、中学の卒業式もあったりした。僕を除いた上陽館中学の連中は全員が、上陽館高校に行くことになっていた。僕だけが、もう上陽館の連中と会えなくなってしまうことになるので、やはり寂しかった。みんなから、寄せ書き的なものをもらい、とても嬉しかった。3日後には合格発表があり、僕もようやく高校が決まることになっていた。果たして、H高校に行くことになるのか、公立の暁南高校に行くことになるのか、受験日以降ずっとドキドキしっぱなしだった。




