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明日へと向かって② 公立高校に向けて

「ちょっとあんた、学校で高校の話したんか?」

母親が少し怒りながら言った。

「うん。したよ。」

「今日、学校の米沢先生から電話があったで。」

「なんて言ってた?」

「あんたが公立校に行きたがっているけど、家ではどうなってるかって聞かれたよ。」

「何て答えたん?」

「私は反対しているって答えたよ。で、あんたはまだ公立高校に行きたいと思ってるの?」

「うん。」

「理由は?」

「それは、前に言った通りや。ほんまにきちんと勉強もするし、クラブ活動をしても両立させるから。その後の進路や、将来のことも真剣に考えてるし、頼むから公立高校受けさせてや。僕、将来は人の役に立つ仕事に就きたいと思ってるねん。公立高校に行って、勉強もして、クラブ活動もして、ボランティア活動みたいなこともしたいと思ってるねん。頼むから公立高校受けさせてや。」

僕は一気にまくし立てた。

「先生が、一度親も学校に来てみんなで話をしませんかって言ってくれたんや。そこまで言うんやったら一回学校に行って話をしてみようか。」

「ほんまに?ありがとう。」

「まだ、公立高校受けるって決まったわけでも何でもないで。ただ先生を交えて話をするだけやから。お母さんは今でも反対やからな。」

「うん。分かった。」


 これで、事態が少し動いた気がした。学校で話をするときは思いの丈を全てぶつけて、必ず母親も先生も納得させてやろうと思った。それまでに、もっと具体的に考えをまとめておこうと思った。そして、学校で話をする日がやってきた。


「本日はわざわざ本校までお越しくださいましてありがとうございます。」

担任の米沢先生が母に言った。

「いえいえこちらこそ、息子がわがままを言ってご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありません。わざわざ、このような場を設けていただきましてありがとうございます。」

ここは、前回話をした進路指導室で、先生と母の型通りのごあいさつが終わった。

「では、早速ですが、大河君の高校進学についてですけど、系列校の上陽館高校には進学したくないと本人から聞いているのですが、ご自宅の方ではいかがですか?」

僕と母を交互に見ながら米沢先生は聞いてきた。

「親としましては、このまま上陽館高校に進学してほしいとは思っています。」

母が答えた。

「おい、桧室、お母さんもああ言ってるけど、桧室の考えはどうや?前と話した時と変わったか?」

米沢先生は僕に聞いてきた。

「いえ、前と同じです。というよりも、前よりも一層、公立高校に行きたいと思っています。」

僕はひとまずそう答えた。

「そうか。もし、公立高校を受験するんやったら、申し訳ないけど併願先で上陽館高校は受験できないと思っといて欲しい。他の私学を探してもらうことになるよ。」

米沢先生が真剣な顔をして言った。

「先生、それはどういうことですか?」

母が先生に聞いた。

「先ほどの言葉通りです。うちといたしましては、内部進学生は専願ではないと上に上がってもらうことはできません。もし、大河君が本気で公立高校を受験するのでしたら、内申書等は準備しますが、併願先で上陽館高校を受けていただくことはできかねます。」

冷たいとまではいかないが、そっけない感じで米沢先生が言った。

「なあ、大河、考え直して、専願でこのまま上陽館高校受けたらどうや。」

母が僕に言ってきた。

「嫌だ。たとえ、学校のレベルが下がったとしても、絶対に公立高校に行きたい。学校のレベルが下がっても、僕はきちんと勉強するし、周りに流されずに自分のレベルを下げたりは絶対にしないから。」

精いっぱい僕は答えた。

「今までに全く例がなかった訳ではないけど、なかなか私立から公立に行くのはしんどいぞ。生活環境の全く違う3年間を過ごしてきた訳だから、慣れるまでが大変やぞ。」

米沢先生が僕の方を見ていった。

「環境が変わるのも、レベルが変わるのも全て覚悟の上です。不安が全くないと言えば嘘になりますが、その不安より夢や希望の方が大きいんです。絶対に公立高校に合格して、今よりも成績を上げて。そして夢も実現してみせます。」

僕は先生の目を見つめてそう言い切った。

「どうですか、お母さん。本人もここまでの覚悟ができているみたいですし、学校の方からは言うことはもう何もありません。あとは、本人とご家族さんの方で決めていただければと思います。ただ、もう時期が時期なので早めの決断をお願いします。」

米沢先生は母の方を見て言った。

「分かりました。あとは本人の判断に任せようと思います。もし、他校を受けるとなった場合には、フォローの方をお願いできましたらと思います。」

 母がそう言った。僕には意外だった。もっと揉めると思ったのにこんなにすんなりと話が進むとは思っていなかった。ふと、母の横顔を見ると、何だかものすごく寂しそうな顔をしているように見えた。親の期待に背くことには申し訳ない気持ちはあるが、僕の決心は固かった。公立高校に行って、自分に甘えることなく精一杯頑張ることが一番だと思った。

「それは、もちろんフォローさせていただきます。本人の希望にできるだけ沿うように進めていきます。おい、桧室、良かったな。これで、第一段階は突破したな。でも、ここからが正念場やぞ。『受ける』イコール『行ける』とは違うねんぞ。受験に受かってはじめて公立高校に行けるということを忘れるなよ。桧室はもともと勉強頑張ってるから大丈夫やと思うけど、これで一貫コースではなくなって公立中学の子と同じ立場の受験生やぞ。もう、死ぬ気で頑張れよ。」

米沢先生が僕を励ますような感じで言った。

「はい、ありがとうございます。もとよりその覚悟です。絶対に受かっていい報告ができるように頑張ります。」


 こうして学校での話は終わった。思いのほかすんなりと、公立高校受験の話が決まった。後に母に聞いたところによると、母は内心では反対だったが、これ以上揉めても本人のためにならないと思ったし、本人の人生は本人に決めさせようと思ったそうだ。父親はもともと何も言わないタイプだったので、「そうか。頑張れよ。応援してるからな」の一言で終わった。


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