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明日へと向かって① 生きてみるか・・

 その夜、また彩音さんの夢を見た。今日の夢の中の彩音さんは何か悲しい表情をしていた。


(どうしたの。彩音さん。)


と言ったつもりのところで目が覚めた。「ああ、また夢か」と思った。

 夢の中の彩音さんの悲しい表情が思い出された。せめて夢の中では明るい彩音さんに会いたいと思った。彩音さんは僕に何か言いたかったのだろうか?僕はふと考えた。今の僕の生活を見たら、彩音さんは嫌な気持ちになるに違いないなと思った。


(頑張って生きてみるか・・・)


 たとえ夢の中だとしてもこれ以上彩音さんに悲しい思いはさせたくないと思った。そこで僕はこれから先、どうやって生きていくかを真剣に考えてみることにした。


 彩音さんは何か人の役に立つ仕事がしたいと言っていたことを思い出した。僕には今のところやりたいことはなかったし、あまり深く考えたこともなかった。彩音さんと出かけたときに、彩音さんが電車の中でお年寄りに自然と席を譲ったり、小さな子どもを見て声をかけたりしていたのを思い出した。僕にはなかなかできないことだったが、それはとても微笑ましく心温まる光景だった。「よし」、と僕は思った。

 彩音さんの遺志を継ぐわけではないが、僕も人と関わる仕事、何か人の役に立つような仕事を目指してみようかと思った。具体的にはこれから調べたりしていこうと思った。そう考えると少しやる気が湧いてきた気がした。あと、進路についてだが、このままエスカレーター式で高校に上がるのは嫌だった。今の上陽館中学も行きたくて行ったわけではないので、高校は公立の高校に行ってみたかった。でも、親や学校からは猛烈に反対されることは簡単に予想できた。そういえば彩音さんも行きたくて帝明学園に行ったわけではないと言っていた。これは彩音さんの遺志にも叶うことだからどうにかして僕は公立高校を受けたかった。やりたいことは漠然とではあるが見つかったが、公立高校受験に向けて、親や先生たちを説得しなければならないという難題ができた。しかし、必ず説得してみせると心に誓った。折を見て、話をしてみようと思った。それまでに、もっと具体的な理由などを考えておかなければならないなと思った。そこまで考えていたら疲れたのか知らぬ間に眠ってしまっていた。

 

 次の日からは、心を入れ替えてというか、目標に向かって歩みだしたので、荒んでいた生活も改まり、勉強にも熱が入るようになった。学校で受ける模擬試験も成績上位にいたし、形だけとはいえ受けさせられることになる上陽館高校の入試も合格安泰の位置にはいた。ただ、公立高校受験の話はなかなか持ち出せずに徒に月日だけが過ぎていった。気づけば季節は夏になり、夏休みに入った。その夏休みも終わりが近づき、いよいよ2学期が始まろうとしていた。このままいくと言い出せないまま終わってしまうと思った僕は、夏休み中には家族には話をしようと決めた。ただ、話をするときに彩音さんのことには触れないでおこうと決めた。彩音さんのことには触れないで、この問題は僕自身の問題として公立高校に行きたいというスタンスにして話を進めようと決めた。そして明日から2学期が始まるという夏休み最後の日に、僕は意を決して夕食時にその話を持ち出した。


「なあ、高校なんやけど、僕、このまま上陽館高校に行きたくないねん。」

あったりけの覚悟を込めて僕は母親に言った。

「何あんた、それどういうこと?」

当然のごとく母親は聞いてきた。

「地元の公立高校に行きたいねん。なんか上陽館は窮屈で退屈やし、しんどいねん。公立に行って部活とかもしたいし、もっと自由に物事を見てみたいと思うねん。もちろん、きちんと勉強もするし、大学進学も考えてるから、お願いやから公立高校受けさせてほしいねん。」

僕は一気にそこまで言った。

「そんなんあかんよ。せっかく中学から私立に入って高校も名の通った上陽館に行けるのに勿体ないで。そんな勝手は許さへんからな。」

母親は猛然と反対してきた。しかし、僕も怯まなかった。

「でも、上陽館高校に行く気はないから、学校の先生にも話してみるつもりやし。」

「そんなことやめてや。恥ずかしいし、失礼やで。」


 今日の話ではもちろんすんなりはいかなかった。母親には止められたが、学校の先生にも言うつもりでいた。次の日は2学期の始業式だったので、始業式の終わった後に担任の先生に話をしてみようと思った。

 翌日になり学校に行き始業式があった。校庭に生徒が集められ、校長先生の話があった。この後、担任の先生に話をすることで頭がいっぱいだったので、校長先生の話は上の空で聞いていて何を言っていたのか全く頭に入っていなかった。教室に戻り、夏休みの宿題などの提出物を出し、連絡事項の話などがあり、今日の1日のスケジュールは終わった。みんなが下校していく中、僕は友人に先生に話があるから先に帰っていてくれと言って職員室に向かった。そして、職員室に入り、担任の先生に話があることを告げた。


「なんや、桧室。相談事か?」

と担任の米沢先生は言った。

「はい、ちょっと高校進学についてお話したいことがあります。」

僕はそう言った。

「じゃあ、ちょっと場所を変えようか。」

米沢先生はそう言って立ち上がった。先生と僕は進路指導室に向かった。

「ここやったらゆっくり話できるやろ。何や、言うてみ。」

米沢先生は僕に話を促した。

「はい。実は僕、高校の進学について、このまま上陽館高校に行きたくないんです。」

「どういうことや。何か嫌なことでもあるんか?いじめられてるとかか?」

「いえ、違います。友達もいいやつばかりだし、先生方にも良くしてもらっています。それは、よく分かっているんですが、僕はどうしても公立高校に行きたいんです。」

「うーん。そうか、それはちょっと困ったな。その公立高校に行きたい理由は何や?行きたい高校も決めてるんか?」

「別にここに行きたいという高校はありません。公立高校に行ってボランティアしたりして自由に生きていきたいんです。」

「理由がボランティアをしたいだけなら先生は納得いかないな。おうちの人は何て言ってるんや?」

「はい、ダメだって反対されました。」

「そうやろうな。それだけの理由やったら先生も考え直したほうがいいと思うし、賛成はできないな。」

「分かりました。でも、どうしても公立高校に行きたいので、考えをまとめてからまたお話に来てもいいですか?」

「できれば、みんなでこのまま一緒の高校に行ってほしいけど、どうしてもって言うんやったらいつでも相談においで。」

 

 今日のところはこんな感じで全く話にならなかった。ちょっとよく考えて、先生や家族を説得できるだけの材料や内容を考えなければならないなと思った。それから、しばらくの間はその話は家でも学校でもしなかったが、どことなく気まずい雰囲気な気がしていた。でも、日が経つにつれ、僕は焦ってきていた。早く話を決めてしまわないと、このまま上陽館高校に行くことになってしまうからだ。そんな日が続いている中、ある日家に帰ると母親が声をかけてきた。


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