第36話 混成救援隊
麓の宿場で荷馬車と物資を確保した私たちは、そのまま休む間もなく、近隣の村の広場で救援隊の編成に取り掛かった。
「皆、聞いてちょうだい!」
広場に集まった再任用室の面々、そして麓の村の自警団や既存の職人たちに向け、私はよく通る声で呼びかけた。
「これより、監視所および先遣隊を救出するための『混成救援隊』を編成します。今回は、王都からの再任用者と、この土地を知り尽くす辺境の領民とで、明確に役割を共有して動いてもらうわ」
私は前回の失敗……急いで席を作るあまり、既存の職人たちに不満を抱かせてしまった反省を胸に刻み、一人一人の役割と連携の形を丁寧に説明していった。
「部隊の進行と、何より『撤退路』の指揮は、元騎士のガレスに全権を委ねます。地元の自警団は、彼の指示に従い、雪解け道での縄の固定と経路の整備を補助してちょうだい」
ガレスが静かに頷くと、自警団の男たちも異論なく顎を引いた。
春市での騒動を経て、王都から来た彼らの実力が確かなものであることは、すでに領民たちにも伝わっている。
「レオンは引き続き、全体の人員管理と補給物資の計算。記録係のミラは、名簿の管理と通過人数の確認。大声で命令はしなくていいわ。あなたの記録で『誰がまだ山に残っているか』を確実に把握してちょうだい。ニコは地元の職人たちと組んで、退却時の休憩地点で使う暖石の配布と、暖房具による温度確保を頼むわ」
「はいっ!」
「……かしこまりました」
再任用室の面々と辺境の領民たちが、一つの目標に向かって素早く動き始める。
「役立たず」と嘲笑われ、王都を追放された者たちの専門知識。
そして、この過酷な北方の地で何十年も生き抜いてきた辺境の者たちの知恵。
それらが今、私の定めた『制度』の下で、見事な一つの組織として噛み合い始めていた。
「アメリア様」
出発の準備が進む中、臨時の詰所として借りた小屋で、レオンが私の前に分厚い予定表を突きつけてきた。
「何かしら、レオン」
「この先は、馬車もまともに通れない過酷な雪山での強行軍となります。……アメリア様の疲労は、すでに通常の業務耐性を大きく超えている。出発までの三十分間、強制的な睡眠を予定表に組み込みました。向こうの長椅子で横になってください」
相変わらずの、事務的で理屈っぽい命令だ。
私は彼の言葉に少しだけ呆れながら、ふと、彼自身の顔をまじまじと見つめた。
目元にはうっすらと隈が浮かび、いつもは隙のないタイの結び目も、ほんの少しだけ緩んでいる。
彼だって、春市の公開審理からここまで、まともな休息をとっていないのだ。
「……却下よ」
私は彼の手から予定表を奪い取ると、私が贈った『銀細工のペン』を使って、彼が書き込んだ『三十分の睡眠』の枠に、ピッと赤い横線を引いた。
「私の休憩時間は、私が自分で決めるわ。……その代わり」
私は予定表の端に『十五分間の相互待機』と書き殴り、それを彼に突き返した。
「あなたも一緒に、あと十五分間、ここの椅子に座って目を閉じなさい。……計算の要である補佐官が倒れたら、誰が監視所までの正確な補給日数を弾き出すのよ」
「……」
私が少し強い口調で命じると、レオンは言い返す言葉を見失ったように、小さく瞬きをした。
そして、観念したように短くため息をつき、私の向かいの粗末な丸椅子に腰を下ろした。
「……承知いたしました。では、十五分だけ」
甘い愛の言葉なんて、私たちには似合わない。
けれど、互いの隠している疲労を見抜き合い、こうして同じ時間、同じ空間で肩の力を抜くことが、今の私たちにはとても自然なことに感じられた。
十五分間の、短くも深い休息。
「時間よ、レオン。行きましょう」
「はい、アメリア様」
目を開けた私たちは、先ほどまでの疲労感を微塵も見せず、再び領主代行と筆頭補佐官の顔に戻って小屋を出た。
外では、ガレスの的確な指示の下、馬車と人員の隊列が整然と組まれ、いよいよ雪山へと通じる旧道へ足を踏み出そうとしていた。
「よし、全員揃っているな。……これより、監視所および先遣隊の救援に向かう!」
私の号令で、混成救援隊がゆっくりと進み始める。
だが、その時だった。
山肌を覆う深い霧を見上げていたレオンが、ふいに足を止め、険しい声を出した。
「……おかしいですね」
「どうしたの?」
「もう、とっくに日没時刻を過ぎています。……ですが、山の監視所から定期的に上がるはずの『合図灯』の光が、一向に見えません」
レオンの指摘に、皆が一斉に山を見上げる。
いつもなら、夕闇の空に赤く灯るはずの魔力光が、今日は分厚い霧に遮られているのか、あるいは……。
「まさか、監視所はすでに……」
ガレスが、最悪の可能性を口にして言葉を濁した。
もし魔物の群れがすでに到達し、監視所が陥落しているのだとすれば、山中へ突入した王都騎士の先遣隊もろとも、彼らは完全に孤立していることになる。
不吉な霧が立ち込める雪山へ向けて。
私たちは、一刻の猶予もない絶望的な救援の道を、重い足取りで進み始めた。




