表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/58

第54話 主体ループ

「なあ、千冬、その装置って観測じゃなくて干渉もできるんだよな?」


「はい。ループ能力は時間因果の中心に帰属します。つまりあなたは主体ループも可能です」


 玲は装置を見る。


 千冬は黙る。


 長い数秒。


 研究室の空気が張り詰める。


「主体ループはできます……ただし」


「……?」


「前回のは観測でした。あなたはその時間に存在しない。だから身体のコントロールもできないし、痛みも無い。死んでも戻る。でも主体ループは違います。あなた自身が、その時間に存在する」


「つまり?」


 千冬は言う。


「その時間で死ねば――本当に死にます」




 沈黙。


「……え?」


 千秋の声が震える。


「ちょっと待って、それって……」


 言葉が詰まる。




 千夏が一歩前に出る。


「なんだよ、それ」


 低い声。


「千咲は……327回も死んで、やり直して、それでやっと玲を助けたんでしょ?」


 玲を見る。


「なのに今度は玲が死ぬかもしれないって……そんなの、意味ないじゃん……!!というか嫌!!」


 悔しさを押し殺した声だった。




 千秋が小さく言う。


「でも……」


 俯いたまま。


「千咲ちゃん、最後……」


 顔を上げる。


「玲くんに、生きてほしかったんだよね」


 震える声。


「自分が死んでも……助けたかったんだよね……」


 その言葉に、空気が変わる。




 千春が静かに口を開く。


「……そうね」


 一歩前に出る。


「千咲は“誰かに任せるために”死んだんじゃない」


 玲を見る。


「きっと託したのよ。玲くんに」


 一拍。


「未来を」




 千冬は目を閉じる。


 そして、静かに言う。


「……非合理です」


 だがその声は揺れていた。


「自己犠牲による未来改変。理論的には成立しません」


 視線を逸らす。


「ですが――」


 ほんのわずか、息が乱れる。


「その結果が、今ここにある」




 沈黙。




 千冬が言う。


「私は反対です」


 玲が見る。


「玲、あなたはとても重要な観測対象です」


 視線を逸らす。


「それに――」


 止まる。


 ほんの一瞬。


「……私も嫌です」


 その言葉に、千秋が息を呑む。


 千夏が目を見開く。


 千春は何も言わない。


 千冬はすぐに言い直す。


「……効率が悪いので」




 玲は少し笑う。


「お前、今言い直しただろ」


「気のせいです」


 即答だった。


「とにかく。私は推奨しません」




 玲は装置を見る。


「でも行くよ、俺」


 拳を握る。


「327回だ」


 静かに言う。


「千咲がやった回数だ」


 そして。


「――あいつだけにやらせるわけにはいかない」




 玲は静かに言う。


「きっと千咲は、助けてほしかったんじゃない。俺に“助けてほしい未来を残した”んだ」




「……バカ」


 千夏が呟く。


 でもその声は優しかった。


「絶対死ぬなよ」


 一歩近づく。


「私たちは行けないけどさ」


 一拍。


「同じ気持ちくらいは背負うから」




 千秋が玲の袖を掴む。


「玲くん……」


「千咲ちゃんのこと……お願い」


 涙をこらえながら言う。


「ちゃんと……助けてあげて」




 千春は静かに言う。


「ちゃんと帰ってくること。それが条件よ」


 そして微笑む。


「みんなが待っている。あなたは一人じゃないんだから」




 沈黙。


 千冬はゆっくり装置へ向かう。


 キーボードを叩く。


 指が震える。




 TARGET DATE


 MARCH 9


 MODE


 ACTIVE LOOP




 そして。


「玲……必ず戻ってきてください」


 一瞬だけ、言葉が詰まる。


「観測の継続が必要ですので」




 玲はすこし笑った。




 装置に入る。


 目を閉じる。


「準備はいいですか?」


「ああ、もう覚悟は決まっている」




「今度は――」


 一瞬、間を置く。


「千咲も、誰も、死なせない」




 光が弾ける。


 世界が歪む。




 その瞬間。


 千秋は祈るように目を閉じた。


 千夏は拳を握り締めた。


 千春は静かに見送った。


 そして――


 千冬の手が、止まる。


 その手は誰にも見えないところで、強く、握られていた。




 玲は。


 もう一度。


 3月9日に向かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ