第48話 白の空間①──干渉者
意識が途切れた。
次の瞬間、玲は立っていた。
白。
どこまでも、白。
上下も、奥行きも分からない。
音もない。
風もない。
ただ――そこに“いる”という感覚だけがあった。
「……ここは……」
「やあ、来たね」
背後。
玲は振り向く。
そこにいた。
人の形。
だが――中身がない。
輪郭だけが存在している。
顔も、目もない。
それでも、確かに“見られている”。
「……誰だ」
「名前?」
わずかに首を傾ける。
「特にないけど、必要ある?」
間。
「まあ、不便か。名前も姿も無いのは」
くす、と笑う気配。
次の瞬間白い輪郭はピエロのような姿になった。
「“干渉者”でいいよ。君たちの言葉なら、それが一番近い」
「干渉者……?」
「そう。」
一歩、近づく。
距離は縮まるのに、気配は変わらない。
「世界のズレを直す側」
「……ズレ?」
「世界の流れの、ね」
間。
「君は覚えてないだろうけど」
少しだけ楽しそうに。
「君はここに何度も来てるよ」
玲の思考が止まる。
「……は?」
「ループのたびにね」
――チリン。
頭の奥で、鈴が鳴る。
白。
この空間。
「……っ」
繋がりかけては、消える。
「今のは?」
「記憶の残骸」
「いいね。繋がりかけてる」
玲は睨みつける。
「……俺に何をした」
「何もしてないよ」
即答。
「君が勝手に思い出しかけただけだ」
間。
「観測としては良好」
「……観測?」
「見てきたんだろう?」
一歩、踏み込む。
「繰り返された時間を」
玲の喉が鳴る。
「……千咲の、ループ……」
「正解」
わずかに、嬉しそうに。
「理解が早いね」
そして続ける。
「でも本来あの事故で死ぬのは、君だった」
止まる。
空気が、凍る。
「……は?」
「世界に予定された死だよ。一ノ瀬玲」
玲の指が、わずかに震える。
「千堂千咲が修正した。君の死を」
わずかな間。
「彼女も例外だった」
「……例外?」
「運命に干渉できる側の人間」
静かに。
「千堂千咲は持っていた。ループ因子を」
玲の口がかすかに動く。
「……ペンダント……」
「それはトリガーのひとつだね」
「本体は血統」
「千堂千早」
一拍。
「そしてあの日僕が彼女を目覚めさせた」
玲は瞳を見開く。
震える手。
頬を伝う汗。
「……お前が?」
「そう」
迷いなく。
「最初は単純だった」
間。
「君を、予定通り死なせるため」
ぞくり、と背筋が冷える。
「一回目」
「君は死ななかった。想定外だったよ」
少しだけ笑う。
「既定に逆らえる個体はそう多くない。千堂千早の娘。でも千堂家の血を引く人間なら可能なのかもしれないね」
「正直面白かったよ」
――その瞬間。
玲の中で、何かが切れた。
「……てめえ、それを“面白い”で済ませるな!!」
踏み込む。
考えるより先に、体が動いていた。
拳を振り抜く。
だが――
すり抜ける。
手応えはない。
「無駄だよ」
目の前で、そいつは微動だにしない。
「僕は君が触れられる側の存在じゃない」
玲の歯が軋む。
「……ふざけるな……!」
「ふざけてはいない」
静かに。
「ただ静かに世界を観て、正しい方向に導いているだけだ」
顔が近づく。
なぜか逃げられない。
「そして君もね。スペシャルな存在だ」
玲の瞳が揺れる。
「……俺が……何だっていうんだ」
「君はとても危険なんだ。むしろ一番…」
一言。
空間が歪む。
「本来あるはずの結果が、成立しない」
「主に君の周りではね」
玲の呼吸が止まる。
「……どういう意味だ」
干渉者は、わずかに笑う。
「まあ、慌てることは無い」
一歩、離れる。
白が軋む。
「ここからが本題だ。ゆっくり話そうとしよう。」




