第43話 安全な場所なんてなかった
また同じ公園に玲は立っていた。
そして。
「玲…」
「今日は、ここで遊ばない?」
玲は少しだけ笑う。
「なんだよそれ」
「だって懐かしいでしょ。この公園。昔よく遊んだよね。大学はまた今度いこ?あ、あの遊具まだあるね!」
千咲は笑っていた。
でも作られた表情。
その手は、少し震えていた。
風が吹く。
時間が、ゆっくり流れる。
子供たちの笑い声。
遠くでボールが転がる音。
何も起きない。
ただの、春の一日。
見えない姉も楽しそうだった。
しかし千咲の表情は硬かった。
玲が言う。
「どうしたんだ?千咲?今日は様子がすこし変だぞ?」
千咲は答えない。
ただ周囲を警戒している。
何かを探すように。
そして少しだけ力が抜けた。
「……今回は大丈夫かも」
しばらくして。
遠くで悲鳴。
「……え?」
公園の外。
通りの方からだった。
ざわめきが広がる。
「なに……?」
人の流れが変わる。
逃げるように。
そのとき。
男が、公園に走り込んできた。
息が荒い。
目が、異常だった。
右手にナイフ。
「――っ」
千咲は玲から離れた場所にいた。
「玲!!」
男の進路が砂場付近にいた玲に向いている。
後ろには逃げ遅れた子供たち。
玲は逃げるわけにはいかなかった。
「どけ!!」
叫び声。
「来るな!!子供がいるんだぞ!!」
玲は男の前に立ちふさがる。
その瞬間、男が玲に突っ込む。
胸から血が流れる。
視界が揺れる。
「あー。ムカついて、つい刺しちまった。死ねよ。ヒーローさん」
警官が追いかけてくる。
男は公園を出てどこかに去っていった。
千咲の顔が、歪む。
「玲!!!」
叫び声。
遠い。
膝が崩れる。
「……なんで?公園にいれば安全だと思ったのに」
千咲が、泣いている。
必死に傷口を押さえる。
しかし血が止まらない。
「やだ……やだ……玲……やだ……」
千咲の手が玲の血で真っ赤に染まる。
千咲は血で染まった自分の手をみた。
手が恐怖に満ちて大きく震えていた。
人生で初めて遭遇した殺人。
目の前で人が殺された。
その恐怖が千咲の脳裏に焼き付けられる。
千咲はもう何も言えなかった。
玲の意識が、薄れていく。
音が遠くなる。
光が滲む。
そして最後に見えたのは。
泣きながら、崩れていく千咲だった。




