第42話 何度やっても、救えない
光。
世界が戻る。
玲は立っていた。
何もかも。
さっきと同じ。
「玲!」
振り向く。
千咲。
同じピンクのワンピース。
同じ髪。
しかしその目はもう笑っていなかった。
強く震えている。
「……千咲」
千咲は玲を見る。
何かを確かめるように。
そして玲の腕を掴んだ。
「今日は大学行かない」
玲は驚く。
「は?」
「いいから!」
千咲は強引に玲を引っ張る。
公園の出口へ。
交差点とは反対方向へ。
玲は困惑する。
「どうしたんだよ」
「お願い」
千咲の声が震える。
「今日はダメ」
玲はそれ以上言えなかった。
三人で歩く。
玲。
千咲。
そして。
姿の見えない姉。
交差点から。
遠ざかる。
雨が降り始める。
ぽつ。
ぽつ。
玲は空を見る。
同じ雨。
同じ空。
しかし。
事故の場所から離れた。
これなら大丈夫なはず。
千咲もそう思った。
そのときだった。
遠くで。
ドン!!
大きな衝突音。
玲が振り向く。
車同士の事故。
千咲は思わず息を止める。
しかし。
場所は離れている。
ここには関係ない。
千咲は小さく息を吐く。
よかった。
事故は起きていない。
玲も。
姉も。
みんな無事だ。
千咲は胸を押さえる。
「……よかった、大丈夫」
そのときだった。
ギギギギ……。
不気味な金属音。
玲が顔を上げる。
工事中のビル。
その上でクレーンが大きく揺れていた。
次の瞬間。
ガコン!!
ワイヤーが切れる音。
吊り下げられていた鉄骨が落ちる。
一直線に。歩道へ。
千咲の目が見開く。
「玲!!」
玲が振り向く。
しかし間に合わない。
轟音。
地面が揺れる。
鉄骨が。
玲の上に落ちる。
千咲の呼吸が止まる。
「……うそ」
震える声。
雨が強くなる。
千咲は走る。
鉄骨の下。
玲の体が動かない。
「玲?」
千咲の声が震える。
「玲!!」
返事はない。
千咲の手が震える。
涙が止まらない。
「……違う」
ペンダントを握る。
「こんなの」
声が崩れる。
「違う」
光。
世界が歪む。
再び公園。
千咲の目は赤い。
玲を見る。
そしてもう迷わない。
今度は。
「玲、お姉ちゃん」
千咲は後ろを見る。
姿の見えない姉。
「今日は私が前を歩くから。私から離れないで」
三人で歩く。
交差点。
雨。
トラック。
千咲は叫ぶ。
「止まって!」
玲と姉の腕を掴む。
無理やり引き戻す。
トラックが通り過ぎる。
事故は起きない。
千咲は息を吐く。
「……助かった」
その瞬間。
反対車線からブレーキ音。
玲が振り向く。
別の車が横断歩道の安全島に突っ込んでくる。
千咲の目が見開く。
玲を引き戻す。
間一髪。
玲は衝突を避けた。
「ああ、よかった。」
千咲はほっとしたに微笑んだ。
横断歩道を渡り、大学へと向かう。
千咲は小さく息を吐く。
「……大丈夫」
そう呟いた。
その瞬間だった。
後ろから大きな音。
振り向く。
自転車。
スピードを出しすぎた学生。
雨で滑る。
次の瞬間。
衝撃。
玲の体が自転車に弾き飛ばされる。
頭がアスファルトに強く叩きつけられる。
「玲!!」
千咲の叫び声。
雨が強く降る。
千咲は走る。
玲の体を抱き起こす。
「玲」
玲は動かない。
血が。
雨に流れていく。
千咲の瞳が震える。
「……なんで」
涙が落ちる。
「なんで何度やっても玲が死ぬの?」
声が壊れる。
千咲は玲を抱きしめる。
「私が守るはずだったのに」
膝から崩れる。
ネックレスを握る。
涙が止まらない。
「どうして?」
光。
世界が崩れる。
玲はそれを見ていた。
五回。
六回。
七回。
千咲は。
必死に未来を変えようとしている。
しかし結果は同じ。
玲が死ぬ。
千咲は膝をつく。
ペンダントを握る。
千咲の声は。
もう叫びではなかった。
静かだった。
「……もう一回」
光。
世界が歪む。
雨が止まる。
音が消える。
そして。
世界が崩れる。
玲は見ていた。
千咲の瞳から少しずつ光が消えていくのを。
この戦いはまだ始まったばかりだった。




