表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/58

第40話 彼女は、世界をやり直した

雨が強く降っていた。


交差点の空気は、さっきまでとは別の世界のようだった。


潰れたトラック。


割れたガラス。


白い煙。


そして地面に横たわる人影。  


玲の呼吸が止まる。


「……千○!」


声にならない声でもう一度呼ぶ。


「……千○!!」


しかし返事はない。


雨が強く降る。


アスファルトに血が混ざる。


全く動かない。


もう死んでいた。


玲の胸が締め付けられる。


玲はゆっくり近づく。


その顔を見ようとする。


しかしどうしても顔が見えない。


名前も呼んでいるはずなのに誰かわからない。


まるで靄がかかったように。


輪郭だけがそこにある。


玲は思う。


……なんでだよ。


誰なんだ……。


その人は玲をかばった。


玲の代わりにトラックの前に出た。


玲は拳を握る。




そのときだった。


「……玲…」


絶望した小さな声。


振り向く。


千咲だった。


さっきまで笑っていた千咲が青ざめた顔で立っている。


目が大きく開いている。


震えている。


千咲の視線は。


倒れている人から離れない。




「……うそ」


小さな声。


雨が降る。


千咲は一歩前に出る。


「……うそ」


もう一度。


震える声。


千咲……


千咲は膝から崩れ落ちる。


雨の中。


その人のそばに。


しゃがみ込む。


千咲は震える手でその人の手を握る。




「……なんで」


涙が落ちる。


雨に混ざる。


「なんで、なんで……お姉ちゃんが…」  




玲は立ち尽くす。


この光景を玲は知らない。  


しかし。


胸が痛い。


どうしようもなく痛い。




そのとき。


千咲の手が胸に触れた。


千咲はそれを握りしめる。


美しく輝くペンダント。


千咲が震える声で言う。




「……これ」


涙が落ちる。


「お姉ちゃんが……私にくれたのに」


千咲はそれを胸に抱く。


「……これからもずっと一緒だって言ったのに!!」




雨が強く降る。


千咲は泣き崩れる。


声が途切れる。


玲は何もできない。


足が動かない。


声も届かない。


手を伸ばしても、


その人には触れられない。


まるで別の世界にいるみたいに。


玲はただその光景を見ていることしかできなかった。


 


そのときだった。


千咲の握るペンダントの石が青く光った。


玲の視界が揺れる。


空気が歪む。


雨が空中で止まる。


音が消える。


世界が静止する。


玲は息を止める。


……なんだ?


空気が震える。


光が広がる。


そして世界が崩れる。






玲は目を開けた。


同じ公園。


同じ桜の木。


同じ曇り空。


「玲!」


声。


振り向く。


千咲。


さっきと同じ。


同じ服。




玲の背筋が冷える。


……まさか戻ったのか?




玲は理解した。


そうか。


これは千咲の時間だ。


千咲がループさせたんだ。


玲はただそれを見ていることしかできない。




そして玲はこれから始まるものを観測する。  


千咲が何度も繰り返すこの3月9日を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ