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第32話 クリスマスの朝

クリスマスの朝は騒がしかった。


「なんでこうなってんの!?」


千夏の叫び声が部屋に響く。


玲はまだベッドの真ん中で固まっていた。


右腕には千秋がしがみつき、左腕には千夏が乗りかかり、さらに身体の上には千春が普通に寝ている。


「……」


玲は天井を見た。


「誰かこの状況を説明してくれー!!!」


千春が小さく伸びをする。


「んー」


ゆっくり目を開ける。


「あら」


そして、自分の置かれた状況を一目で理解したらしく、すぐに笑った。


「玲くんモテモテじゃない?」


「いやいや、笑い事じゃないんだが」


玲が言う。


千秋は顔を真っ赤にしていた。


クマの着ぐるみ姿のまま、慌てて玲から少し距離を取る。


「ご、ごめん。私あんまり覚えてない」


千夏が言う。


「私は普通に部屋戻ろうとしたら、なんかベッドあったから寝た」


「理由になってないぞ」


玲が即座に突っ込む。


千春は楽しそうだった。


「私は面白そうだったから、入ってきちゃった」


玲が再び天井を見る。


「一番ダメなやつだ」


そのとき。


コンコン。


扉がノックされた。


全員がぴたりと止まる。


「……誰?」


千夏が聞く。


扉が開いた。


千冬だった。


いつもの無表情。


手にはタブレット。


部屋の状況を見る。


数秒、沈黙。


そして言う。


「なるほど」


千冬は小さく頷いた。


玲が言う。


「待て。今の反応おかしいだろ」


千冬はタブレットを操作する。


「観測結果と一致しています」


玲が固まる。


「……は?」


千夏が言う。


「観測?」


千冬は画面を見せた。


CHRISTMAS EVENT

ROOM OCCUPANCY

4 PERSON


玲が叫ぶ。


「お前、観測してたのか!?」


「はい」


千冬は淡々と言う。


「深夜2時19分、千秋が侵入」


千秋がさらに顔を赤くする。


「侵入って言わないで……!」


「2時32分、玲が睡眠」


「3時5分、千夏侵入」


千夏が言う。


「いや、私も侵入扱いなの!?」


千冬は続ける。


「3時40分、千春侵入」


千春が笑う。


「あはは、全部見られてたか」


玲が言う。


「止めろよ!」


千冬は首を傾げた。


「なぜですか」


「なぜって……!」


玲が言葉を失う。


千冬は真顔のままだった。


「このイベントは」


一度タブレットを見る。


「ラブコメ回です」


玲が頭を抱える。


「おい、それ誰の観測だー!!!」


千夏が笑いをこらえきれず、ベッドの端を叩いている。


千春も肩を震わせて笑っていた。


千秋だけは、まだ顔を真っ赤にしたまま俯いている。


そのとき。


千冬の視線が玲を見る。


「玲」


玲が言う。


「ん?」


千冬は少しだけ沈黙した。


そして言う。


「あなたは」


一度、ベッドの状況を見る。


少しだけ眉を寄せる。


「人気なんですね」


玲が言う。


「嫌味か」


千冬は首を振った。


「事実です」


しかし。


ほんの一瞬だけ。


千冬の視線が千秋を見る。


千夏を見る。


千春を見る。


そして玲に戻る。


ほんの少しだけ、その目に何かが揺れた気がした。


千冬は小さく言った。


「……玲」


「ん?」


「次回から」


またタブレットを見る。


「寝室の監視カメラを増設します」


玲がすぐに叫ぶ。


「やめろ!」


だが千冬は止まらない。


「さらに、あなたの家にも監視カメラと盗聴器を設置します」


「もっとやめろ!」


千夏が笑い転げる。


「千冬やばっ……!」


千春も笑っている。


「それはさすがに重いかな」


千秋は恥ずかしさのあまり、顔を両手で覆ってしまった。


そして。


千冬は静かに言った。


「冬イベント」


モニターを見る。


WINTER EVENT

PHASE 3


「開始しています」


その一言で、部屋の空気がほんの少しだけ変わった。


笑い声はまだそこにある。


暖房の暖かさも、ツリーの光も、ベッドの上の騒がしさもそのままだ。


けれど、その向こう側で、見えない何かが確かに動いていた。


クリスマスの朝。


騒がしい空気の中で。


冬の物語は、静かに進み始めていた。

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