見習いメイド5
ジラルドはリアの治療を終えると、次はメルテの元へと移動する。途中でメイドから“メルテの方をジラルドの元へと移動させる“という提案があったが断った。ここのメイドたちは過保護すぎなのだ、屋敷の中の移動くらいなんの苦でもないとジラルドは考える。まあ、これもメイドの心使いなのだろう。
ジラルドが扉の前に立つと、内側から扉が開けられる。
「様子はどうだ、リリィ」
「は、はい!特に問題はありませんでした!」
ジラルドの前で敬礼をしているメイド、リリィがそう答えた。セミロングほどの茶色をひとつ結びにし、そのスラッとしたしなやかな足は、すれ違う全ての人の目を奪うほどに綺麗だった。が、それも全てグルンレイドの過酷な訓練と制限された食事によって作られたものだ。
その言葉遣いや、この場所では教えていない敬礼などを勝手にしてしまうといった問題点はあるが、ジラルドはこのメイドの忠誠心は認めていた。なので、特に何もいうことはなくメルテの元へと向かっていく。
「メルテよ、目を見せろ。」
「……っ!」
ジラルドは手を伸ばして包帯の巻いている方の目に触ろうとするが、メルテはさっと身をひいてその手を避けた。本来であれば命令に反いた罰として、奴隷契約書の効果が発動するところだが、ジラルドはそれを抑えた。そんなくだらないことで奴隷に傷をつけるのは無駄だと判断したのだ。
「あっ……き、汚いので」
ジラルドのためを思っての行動のようだが、やはり命令に反いたことには変わりはない。
「口答えするな。」
そういって、無理やりに包帯を剥がす。するとみるも無惨な傷跡が目の前に現れた。目を抉り取られた後、すぐに治療すればこれほどまでに腐敗することはない。これは適切な治療がされず、そのままほったらかしにされた結果だろう。
「お見苦しいものを……す、すみません……」
「気にするな、エクストラヒール。」
回復魔法を唱え、雑菌や膿などを消していく。ジラルドは回復魔法の本質はこの“菌を滅する“効果にあると考えている。一般的には血を止めたり、傷跡を消したりするものという認識だが、それも全て雑菌を殺すというプロセスがあってこそ成り立つものだ。これらが自動で行われる“魔法“という存在の素晴らしさを、ジラルドは毎度のことながら感じていた。
「え、えっ?」
メルテは驚きのあまり、次に続く言葉が出ないようだ。確かに回復魔法を使える魔法士は珍しいが、ここグルンレイド領においては珍しいものでもない。そこにいるメイド、リリィでもいとも簡単に使用することができるだろう。
「これで痛みは引いたはずだ。」
「は、はい」
右目があったであろう部分は完全に空洞になっていた。ここに義眼をはめ込むというのが一般的だが、やはりこの部分にも魔法を使用した方が効率がいい。例えば、空洞の部分に常時治癒空間を展開する……などといった方法をとった方が手っ取り早いだろう。
「あとの細かな治療はリリィ、お前に任せる。それが終わり次第、メルテは少し休め。」
そういってジラルドはこの部屋にメルテを置いて、自室に戻っていった。