見習いメイド3
リアはすでにメイドによって寝室に連れて行かれていた。元々悪魔付きのせいで立っていることも苦痛だったようなので、寝室でメイドに治療方法を探らせていたのだ。
「ご主人様、お待ちしておりました。」
ジラルドが部屋に入った瞬間にグルンレイドのメイドの一人、イリスが頭を下げる。背中からは美しい純白の翼、頭の上には天使の輪が浮いていた。
「イリス、悪魔付きの治し方は分かったか。」
「はい、以前ご主人様が治療したと聞いた“龍族の姫“の症状に酷似しています。」
「ほう……あれと同じか。」
数年前、ジラルドは龍族が暮らしている龍の里へと向かうことになってしまい、そこで出会ったのが寝たきりの姫、“龍族の姫“だった。龍族の姫を治療した時もやはり魔物が持っている“悪い魔力“が原因であり、それを取り除くことで悪魔付きの症状は緩和される。
「エリクサーでも治療は可能ですが……。」
「ふむ、そうだな。」
エリクサーは人間界では最高の回復アイテムとされているが、ジラルドにとってはそこまで効果のあるものとは思っていない。ジラルド本人やメイドたちの唱える回復魔法の方がはるかに優れているからだ。そして何より高額なのである。グルンレイドの屋敷にもいくつか置いているが、もはや観賞用という形で保存されていると言っても過言ではない。
「リア、服を脱いでベッドに横になれ。」
「はい……。」
震えながら服を脱いでいく。
「服も脱げないのか。イリス。」
「かしこまりました。」
そういって、イリスが服を脱がせていく。
「す、すみません。」
今にも倒れそうな、かすれた声でそういった。衣服に引っ掛かってサラリと落ちるリアの髪はこの世界ではあまり見かけない黒。黒によった茶髪や、黒っぽい灰色というのはあるが、漆黒というのは珍しい。これが生まれつきなのか、悪魔付きのせいなのかはわからないが、瞳も黒かった。
イリスは服をすべて脱がせ、ベッドに運んでいく。
「わ、わたし、まだシャワーも浴びてなくて……」
体がきれいでも汚くても治癒魔法になんの影響もない、とジラルドは考えていた。
「問題ない。」
そういうと、リアの顔が赤くなる。
「怖がるな、痛くはない。」
「は、はい。ですが、私……初めてで。」
それはそうだろう。人生で何度も『魔物付き』の治療を受けることなんてそうそうない。
「始める。」
「は、はい。」
リアはぎゅっと目をつむる。覚悟が決まったようだ。
ジラルドは黒い魔法陣を展開させる。魔力には密度という概念があり、魔力密度が高ければ高いほどその魔法の威力が上がる。例えば同じヒートボールでも、魔力密度が高ければより高温になるということだ。
「エクストラヒール・絶唱」
以前は数十秒かかっていた治療も、今回は数秒で終わった。その崇高な魔力操作に、そばで見ていたイリスは感動の表情を浮かべる。
リアは圧倒的な治癒速度に体が耐えかねて、意識を失ってしまったようだが、すぐに目を覚ますだろう。
「イリス、後は任せた。」
「かしこまりました。」
メイドを一人部屋に置き、ジラルドはこの場を離れた。