見習いメイド3
私はものごごろついたころから奴隷だった。
ある日どこかの冒険者から買われた。それからはとても苦しい毎日だった。罵声を浴びながら重い荷物を背負ってダンジョンへと向かう日々。私は何度、魔物に食べられて死んでしまいたいと思ったことだろうか。しかし奴隷契約書のせいでそれもできない。
しかしこの日は少し違った。いつものように荷物持ちをして、ダンジョンに潜り込む。今日のダンジョンは出てくる魔物も強いようで、みんな苦戦していた。そのとき私は急に背後から突き飛ばされた。みんなどこかへ逃げているようだった。そして私は喰われた。……苦しみから救われるんだと思った。
……生きてる。気が付いたとき、周りに魔物の姿はなかった。きっと他の冒険者がさっきの魔物を倒したのだろう。幸い手や足は噛みちぎられてはいないようだった。ただ、どこもかしこも噛み跡があり、血が流れていた。私を買った冒険者たちはきっとすでに死んでいると思っているだろう。だから私は荷物の中から中級回復ポーションを勝手に取り出して飲んだ。血が止まり、噛み跡も薄くなっていく。しかし、焦げ跡なのかよく分からない黒い痣だけはいつまでも残っていた。
ダンジョンで眠っていたはずが、再び目を覚ますと別の場所だった。かすかに甘い匂いが体からする。この匂いはきっと眠り花のものだろう。長時間吸っていると深い眠りに落ちてしまう花だ。その状態では少し担がれたくらいでは起きることはない。
「目が覚めたか。」
胡散臭そうな男が牢屋越しに話しかけてくる。
「今日からお前は私の商品だ。」
そういってどこかへ消えていった。私を買った冒険者が売ったのか、それともダンジョン内で死んだのか。どちらにせよ、私の奴隷契約はあの胡散臭そうな男へと譲渡されていたようだった。
透明な板の内側で過ごす日々が続く。私にとっては重い荷物を持つこともなく、理不尽な暴力を受けることもないこの場所にいることが幸せだった。しかし日を追うごとに黒い痣が広がっていく。ある日、胡散臭い男がそういった。
「早く出ろ。」
立ち上がろうとすると、思ったように体が動かない。やっとの思いで歩き出した先には、呼吸すらできなくなってしまうほどに恐ろしい男が待っていた。
「連れてまいりました。」
男の圧倒的な威圧感と、この体のせいで立っているだけでやっとだ。
「今日からお前の名はリアだ。」
そう告げられた。あぁ、またあの苦しくてつらい日々が始まるのか。名をつけられることが、私には苦しみへの切符に思えてしかたない。馬車に入れられ、どこかへと連れていかれる。動かない足を無理やり動かし馬車から降りると、目の前には巨大な屋敷が広がっていた。
「のろい。私を煩わせるな。」
震える足で歩いていると、ご主人様が急に私を抱き上げた。
「あっ……。」
急なことで何と言葉を発すればいいのかわからない。結局何も言えないまま、どこかの部屋に連れてこられた。するとすぐに数人のメイドが現れ、私の服を脱がせ始める。拒む力も言葉も出なかった。メイドたちは無言のまま手際よく動き、私の体を洗い、消毒し、殺菌していく。丁寧ではあったが、どこか機械的だった。一通り終わると、清潔な布を体に巻かれ、大きなベッドへと横たえられた。……何のためにこんなことをするのか、私にはまだ分からなかった。
気が付いたとき、体が軽かった。黒い痣がほとんど消えていた。あの男が何かをしたのだろう。何をされたのかは分からない。ただ、この世のものとは思えない、崇高で恐ろしい、黒い魔方陣が広がったのだけは覚えている。




